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第三十五回:再会

 母の日である日曜日。その日の礼拝が終わって、青年会を前に「昼休み」の時間に入る。

 悠介は、青年会の会場である第二研修室に先に入って母親特製の「愛母弁当」を食べている。

 今日は母の日。というわけで、帰りに母親にせめてカーネーションでも買って帰ろうかな、と思いを巡らせつつである。

 と、そこへ。誰かが第二研修室へと入室してくる。


「ユウスケ! ユウスケじゃない!? ワタシ、サンドラ、だよ」

 なんとそれは、悠介にとって「工場の先輩」であるサンドラだった。まさかの再会、である。

 悠介は意外な人との再会を果たすことになり、たいへん驚いてしまった。向こうも相当驚いたことであろう。

 しかし、彼女はフィリピンに帰ってしまったはずではなかったのだろうか。


 サンドラは悠介のそばまで来て、隣のパイプ椅子に腰掛けて話し出す。

「あのとき、ワタシのお父さん病気になったの。あれからお父さん、病気で苦しんで、死んだ。神さまのところに行ったの。それからすぐにお母さんも疲れて、死んだ。神さまのところに行った。お母さん死んで一年経った。ワタシまた日本に来た」

 サンドラは父親が病気になったので、看病のために工場を退職し、フィリピンに帰国したらしい。それから、父親およびその看病で疲れ果てた母親を看取ったサンドラはまた日本で働くために戻ってきたということだ。サンドラは独特の訛りはあれど、違和感のない日本語で、続けて言う。

「ワタシ、仕事忙しいの。日曜日でもときどき働いてる。今日も午前中仕事だった。仕事は忙しいけど、日本でまた働けるのうれしい。これイエスさまのおかげだね」

 今は、というか今も、「週休七日制」の悠介ではある。つまりは全く働いていない。働く喜びというものを知らずに、知れずに、人生の時間を日々費やしている。


 そこへ見附さんが第二研修室へ戻ってくる。そして、悠介と一緒にいて、話をしているサンドラを見て、言う。

「相川君。こちらはフィリピンから来たサンドラだよ。確か、相川君と同い年のはずだったかな」

「ワタシ、前からユウスケと知り合いなの。工場で一緒に働いてた」

 サンドラの台詞を聞いて驚く見附さん。

「えっ、マジか」

「え、ええ、一週間だけでしたけれど……」

 悠介は過去の工場勤務のことを思い出しつつ、申し訳なさそうに答えた。

 続けてサンドラから。

「ワタシ二十二歳。ユウスケも二十二歳か?」

「はい、僕も今年、というか来月二十二になります」

 悠介は第一印象から、サンドラは自分より少し年上だと思っていたが、実は同年齢だと知って驚いた。と、同時に、それでありながら自分なんかよりずっとしっかりしているんだなぁ、と尊敬の念を抱かずにはいられなくなった。

「サンドラはこの四月初め頃からこの教会に来ている。前からクリスチャンだったらしいけどね。でも相川君と知り合いだってびっくりだよ。東京だとはいえ、世間って狭いよなぁ」

 見附さんは特に台詞の終わりあたりを皮肉っぽい笑みを浮かべつつ言ったのだった。


「でも、ユウスケが神さまのこと信じようとしてくれてて、ワタシうれしい」

 かつてサンドラに「宗教勧誘」らしきことをされたのを思い出す悠介。あのときこそ頭には来たけれど、今となっては。確かに日本の社会では宗教の話題はタブーとされることは多いのかもしれないけれど。

 でも、悠介は本当に「神さまのことを信じようと」教会に通っているのかどうか、自分の中で疑問に感じる。半年前にこの教会に来た理由はまさに興味本位だったのだろう。あるいは日本社会におけるキリスト教の在り方への疑問から、だろうか。あのときは「クリスマス」を控えた十一月だったこともあって、だ。

 まさかのサンドラとの再会です。サンドラは仕事もできて、日本語もうまく話せることができます。私が悠介の立場だったら、サンドラには尊敬の念と同時に若干の劣等感をも覚えつつ、でしょうか。

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