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第三十二回:身の上相談

 そこで悠介は漏らす。

「……神さまは僕のこと、ゆるしてくれますか」


「ほう……」

 修牧師が一言漏らした。悠介は首を垂れつつも、口調を強めつつも続ける。

「僕は高校を卒業して三年間、全くと言っていいほど何もしていないんですけど……。自分では今は気楽な生活をおくっているつもりですし、周りからもそう思われているのでしょうけれども。でも、大学にも行かず、就職もせず、つまりはニートでいる自分を責めたくなることがあります。というかしょっちゅうなんです」

 悠介は強めた口調をなんとか保ちつつも続ける。

「もちろん、いつまでも親に頼るわけにはいきません。というかそれを続けることはできません。もう僕は今年で二十二歳、父親も五十五歳なので、そろそろなんとかしないとって、焦っているんです。というか、そろそろっていうにはもう遅すぎますけど。むしろタイムリミット過ぎてると思いますけど。父親だってもう若くないのです。あと五年で定年ですから。父親が引退したらもう僕は親を頼ることすらできなくなります……。それで……」

 そこで急に言葉に詰まった悠介。直前までの強い口調に急ブレーキが掛かってしまったかのようである。


 そこで数十秒の間ができる。それに続いて修牧師が話し始める。

「まぁ、そういう悩みを抱えておられる家庭の方が教会員の中にもいらっしゃいますよ。その方はあなたとは逆で親御さんとしての立場なのですが」

「はぁ……」

 悠介はため息混じりの弱いあいづちを打つ。修牧師は続ける。

「もちろん、ご本人のプライバシーにも関わるので詳しくはお話できませんけれども……。そういうのも最近よくある話ですからね」

 自分だけではない、と言われたのを感じたことで、少しばかりの安心感をおぼえた悠介。しかし次の瞬間に自分だけではないからといってそれが何か現状への解決となるのかということを思い起こし、その少しばかりの安心感はまた消えそうになる。

 その心のうちは修牧師にも伝わったのだろうか。修牧師が話し始める。

「で、先程のご質問、つまり、神さまは僕のことゆるしてくれますか、ということに関してですけれども。結論から言うと神さまは何でもゆるしてくださいますよ。あなたが自分の罪というものを認めて、それを神さまの前に差し出すのであればね。そのときには先程述べた秘密の言葉、すなわちお祈りが助けになります」

「まぁ、いやはや、今の日本はなんとも気苦労の多い世の中だと思いますよ。だからこその癒やしの場所なんですよ、教会っていうのはね……。相川君。とにかく、また教会にいらっしゃいな。それこそ日曜日の礼拝に来てもらえれば歓迎しますが、今日みたいに私と個人面談したいというだけでも一向に構いませんよ。いつでもお待ちしていますからね。またご連絡くださいね」


 面談の最後に祈りの時間がもたれる。

「天の父なる神さま。どうか、相川悠介君があなたの恵み、そして慈しみを感じられるように助けて下さい。感謝いたします。イエスさまの聖名によってお祈りします。アーメン」

 悠介は牧師さんに続いて「アーメン」と唱えた。

「どうか、お祈りというのも習慣化していただきたいと思います。ね、お祈りって簡単でしょう? そのときには『イエスさま』という『橋』を認めるのをお忘れなく」


 今日の面談でのアドバイスおよび時間を取っていただいたことに対して、修牧師にお礼を言って悠介は教会をあとにする。

 自転車にまたがって帰宅。お風呂に入って、ご飯を食べる。その自分の帰る家、というのも父親が働いて建てたものなのだ。もちろんその家でお風呂に入ることも、母親が作ってくれたご飯を食べられることも。親の働きがあってこそなのだと悠介は再考する。

 つまり自分だけでは本来何もできないはずなんだよな。親がいなかったら、いなくなったら……、それこそ、いつぞや見かけたような上野のホームレスのようになるしかないんだよな。いや、こんな弱い自分なんてホームレスの中でもいじめに遭うなどして生き残ることすらもできないかもなと、悠介は思いを巡らすのであった。


 いい年して、親無しでは生きていけない。そんな立場のはずなのだけれど……。

 自分の親不孝さを恥じつつも、感謝の気持ちさえ表さない、表せない。そんな悠介であった。

 悠介も親のありがたみというものに気付いたようです。

 傍から見ればのほほんとしているように見えても、葛藤を抱え込んでいるもの。それは引きこもりがちの若者のほとんどに当てはまるのではないでしょうか。

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