第二十五回:新しい年を迎え
そのうちクリスマス礼拝も終わり、新しい年を迎えた。
悠介にとって生まれて初めての教会で迎えるクリスマス。クリスマス礼拝では、悠介は青年コーラス隊の一員として他のメンバーの足を引っ張ることもなく、その務めを果たした。そのことについては、他のメンバーからも褒めてもらえた。特に胎内さんからはベタ褒めだった。それが彼女の本音なのかどうか、は悠介にとって少し疑問の残るところのものとはなったが。
さらに時間が経ち、悠介が初めて教会を訪れてから三ヶ月余りが経った。二月も半ばを過ぎればもう春先。まだ寒さこそ厳しいものの、どこかしら春めいてくるものである。
この三ヶ月のあいだ、悠介は体調不良などで礼拝に欠席することもたまにあったが、ほぼ日曜日ごとに教会に通っている。そして、青年会のあるときにはそれにも参加している。まだ無職のままの悠介だが、毎週日曜日の教会への礼拝参加というルーチンが発生したことで、従来なら引きこもりで人間関係の構築もしなかった、しようとしなかった悠介に対して、悠介の両親も「安心」をおぼえたようである。それは「安心」というには、ほんの少しばかりのものでしかないのだが。
年明けから、悠介はお年玉で買った「マイ聖書」を携えて教会に通っている。元々勉強とかの類のことに関しては「得意」だったはずの悠介。日曜日の礼拝のとき以外にも、家で時折ページを開いて前回の礼拝のメッセージの聖書箇所など中心に、聖書という「やたら分厚い本」を少しずつ読んでいた。そこで自分の気になったところや、共感を覚えた箇所などにはマーカーを引いたり書き込みをしたりなど、で。
今のところ、牧師さんの話を「人生を生きる上でのいい話」と捉えている悠介だが、青年会のメンバーをはじめとする教会員の皆もよくしてくれて、それらにも感謝しているところである。
さて、二月といえばバレンタインデー。悠介はバレンタインデーの週の日曜日に胎内さんから「義理チョコ」を受け取っていた。もちろん悠介もそれはあくまでも「義理」であることくらいは認識している。男子校育ちで、今は引きこもりの悠介は、「義理」さえも、母親以外の女性から受け取るのは人生で初めてである。胎内さんは、見附さんや柏崎さんらを含む青年会所属の男性メンバー、だけではなく女性メンバーにも配っていた。こういった細かい配慮も胎内さんならでは。
実はというと、この時点で悠介はすっかり胎内さんに惚れていた、のだ。惚れた理由は胎内さんの優しさ故に、である。もっとも、今は、というかずっと無職の悠介である。「そんな俺でも恋愛なんてしていいのだろうか」と自分の中で葛藤に悩まされてきていたのだった。
クリスマス礼拝前のコーラス練習のときも胎内さんは悠介を良い声の持ち主だと褒めてくれた。それは本番が終わったときにも。これまで尻を叩かれてただ勉強ばかりしていて、他人からの「承認」を受けることがめったになかった悠介。まさか、クリスマスの在り方に疑問を覚えたのなんだのという理由から、あたかもスパイであるかのように、いきなり飛び込んだだけだったはずの教会で、ここまで良くしてもらえるとは思わなかった。更に悠介は今まで同年代の女性によくしてもらったことがなかっただけに、余計に胎内さんの優しさが心にしみたのだった。その「承認」に応えようとばかりに湧き上がってきた悠介の胎内さんへの「想い」である。
作中ではクリスマスを過ぎて、新年を迎えたことになっています。「マイ聖書」も準備していよいよ本格的に教会に通い、聖書を学ぼうとする悠介。それも悠介の中で「想い」が生まれたからこそなのです。




