第二十回:白羊さんとの対面
午後三時過ぎ、家に帰ってきた悠介。「引きこもり」であるはずの悠介にしては珍しく六時間も外出していた。そのことを不思議に思った母親の優子がおかえりの挨拶に続いて聞いてくる。
「悠介。おかえりなさい。これだけ長くお出かけしていたのは珍しいわね。今日はどこに行っていたのかしら」
これに対し「教会」と答えていいものだろうか、と悠介は思ってしまう。悠介の家は無宗教というのか、それとも一応の仏教徒であるのだろうか。少なくともクリスチャンではあるまい。だから、その質問には今はお茶を濁す、というか、ただ黙っているしかなかった。
「まぁ、外の空気はおいしかったでしょう。今日は天気もよかったからね」
無言のままでいる悠介に対し優子は、自室のある二階に上がっていく悠介の背中の方向からそう声を掛けたのであった。
自室に入ってから、今日のことを振り返る悠介。なんだか教会という場所に来週もまた行こうという気持ちが既に芽生えてきていたのだ。兄貴分的に悠介に良くしてくれた見附さんのこともさることながら、悠介と同じ年だという胎内真理奈さん。清楚で美人で、ほんわかとした優しそうな人だ。
今まで人との交流を絶っていて、ツイッターの世界ばかりに閉じこもっていて、現実の世界で、しかも胎内さんのような同年代の女性に優しくしてもらうことのなかった悠介。男子校出身ゆえに余計に、である。悠介の来週からも教会に行きたいという気持ちの中には、胎内さんにまた会いたいという理由も多くを占めていたのだ。
しかし、翌日からの平日の六日間もまた、相変わらずの引きこもり生活をおくっていた悠介。日曜日に教会に行ってきたことなどをツイッターに書いたりはしなかった。だが、ネットでキリスト教について、聖書について、検索して調べることをするようにはなっていた。ツイッターで話題の「こひつじちゃん」の広報を受け、興味本位というかミーハー心というか、なんとなく足を運んでみた教会だけれど、実際に足を運んで改めて、キリスト教に対し更なる興味がわいてきていた。
一週間が経ち、また日曜日になった。
朝の九時半に家を出て、自転車で教会に向かう悠介。二回目の教会訪問である。
今週もまた、青年会のメンバーを中心とする皆に快く迎えられた悠介。ただ、村上さんの奥さんのように教会の「新人」である悠介を訝しげに見る教会員の人も数名いることにはいたが。また、先週は悠介のほかにも二名の新規訪問者がいたが、生憎その二人とも今日はいなかった。やはり「一見さん」だったのだろうか。その代わりというか、今日もまた二名の新規訪問者があったとのことである。
そして、今日は「黒羊」こと見附さんに加え、「白羊」こと柏崎さんにも会うことができた。柏崎さんは二十九歳の男性。見附さんのふたつ後輩に当たる。先週見附さんから紹介があったとおり英会話教室の先生をしているらしいが、少年時代をアメリカで過ごした経験があり、成人してからもイギリス、オーストラリアなどへと、豊富な留学経験を持っている人らしい。英語の発音についても流暢で、さすがだなぁ、と悠介は思った。本人曰くネイティブには到底勝てないよ、とのことだが。
柏崎さんも見附さんと同じく気さくなタイプであるが、中肉中背で「ちょいメタボ」な見附さんに対して、やや長身でスリム、そして眼鏡を掛けているのが柏崎さんだった。見附さんは視力が両眼とも一・二で近視でも遠視でもなく、とくに眼鏡は掛けていないのだ。
そして、柏崎さんはアニメオタクでもあるらしい。見附さんはとくにアニメには興味はないらしいが。悠介もアニメオタクとまではいかずとも、深夜の時間帯にテレビでやっているアニメを見るのが好きだったりする。そのことで今日の礼拝後、コーラスの練習が終わって解散となってからの時間、柏崎さんと話が弾んだりはした。
確かに「こひつじちゃん」もアニメを元ネタとする話題をつぶやくことがよくあるよなぁ、と悠介は改めて思い出した。アニメのキャラクター設定やストーリーの中に聖書を見いだすウイットの利いたつぶやきは双方の知識に深くないと簡単にはできまい。
この日は第三日曜日で青年会はないはずの週ではあったが、礼拝後に三十分ほどのコーラスの練習時間が持たれた。その中で、柏崎さんもまた悠介の声をいい声だ、と褒めてくれたのだった。英会話でも習わないか、などとも誘われた悠介。お金ありませんのでと答えるも、柏崎さんは「相川君になら無料でマンツーマン講習をしてあげるよ」などと言ってくれた。それでも、悠介はご多忙なのにそこまでしていただくのは……、と断った。お金だけではなく、やる気もちょっとないから、というのが悠介の本音ではあるが。
ツイッターのもうひとりの中の人とのご対面です。このモデルになったアカウントも中の人がふたりいて、それで運営しているそうですよ。(有名な話でしょうが)




