第十八回:コーラス
悠介を入れて七人で鶴角製麺に向かう。日曜日のお昼の十二時台、週のうちでももっとも混むであろう時間帯である。カウンターで希望のうどんの種類を口頭で注文して、トッピングをセルフサービスで選び、うどんの入った丼ぶりを受けとる。そして、レジで会計を済ませる。混雑しているはずの時間ではあったが、ちょうど四人掛けのテーブルが並んでふたつ空いたので、男性陣四人と、女性陣三人で分かれて座ることになった。
休日の昼どきで店は混んでいるし、一時になると青年会の時間になるので、とくに言葉を交わすこともなく、やや急いでうどんを食べる悠介含む七人の青年たち。悠介にとっては久しぶりに自宅以外の場所で摂る食事であった。見附さんはまた教会に戻ってからいろいろ話そうね、と言ってきた。教会に残って弁当などで昼食を済ませている青年会員もいるからと。
もちろんクリスチャンの集まりであるので、食事に先立ち、祈りは捧げられた。男性陣のテーブルでは見附さんが、女性陣のテーブルでは胎内さんが先導して一、二分だがお祈りの時間がもたれた。
お祈りの時間のあいだ、悠介はなんとなく周りからの目が気になってしまっていた。もちろん食事に感謝するのは大事なことだけれど、周りからあいつらはクリスチャンか、と好奇の目で見られるのかなと思うと微妙に恥ずかしい気持ちになってしまった。
ちなみに悠介は、自分のぶんのうどんを見附さんにおごってもらうというかたちになった。五百円を献金してもまだ二、三千円は財布の中にあるし、おごってもらうわけにはいきません、自分のぶんは自分で出します、と悠介は言ったが、見附さんは次のように言う。
「俺が今日、相川君におごってあげたぶんは、いずれ君の後輩となる人に返してあげてね。そういう流れこそが本当の恩返しってヤツなんだよ」
青年会の始まる午後一時、その十分前には悠介含む七人は教会にまた戻ってきていた。今度は三階へ上がり、第二研修室と呼ばれる部屋に入る。中ではすでに三人の女性が待っていた。合わせて十人が今日の青年会の出席者ということになるらしい。
世田谷小羊キリスト教会の青年会はこの部屋、つまり教会の第二研修室で、毎月第二と第四の日曜日の午後一時から二時半まで定例会を開催しているとのこと。
今日青年会の司会をするのは、胎内さんであるらしい。今日の青年会の十人の出席者。悠介含む「新顔」は三人とも出席している。あと二人がまだ求道者の立場にある人、そして見附さんと胎内さんを含む残りの五人が既に洗礼を受けた正式な教会員である。そして、今日はお休みしているが「白羊」こと柏崎さんを含む教会員、そしてたまに来る求道者も含めると青年会に参加したことのある人数は更に増えるとのことであるという。そのうち教会員となっている人たちで毎月二回の青年会の司会者を当番制で回しているとのことである。
胎内さんが今回の青年会の始まりの挨拶をする。
「これより十一月第二日曜日の青年会を始めたいと思います。さて、今日来られた三名の皆さん、青年会にも加わってくださるとのことで歓迎いたします。また、このように集められたことを主に感謝します」
胎内さんが簡単に会の始まりの祈りを捧げた後、次の話題を切り出す。
「さて、今年もいよいよクリスマス礼拝が近づいて参りました。そろそろ、青年会の出し物としては毎年恒例のクリスマス賛美歌のコーラスの練習を今年もまた始めたいと思います。これから毎週、青年会のない週でも礼拝後に三十分ほどお時間をいただいて、この部屋でコーラスの練習を行いますので、是非みなさん参加してください」
コーラス。それには、悠介にとってあまりいい思い出はない。小・中学生の頃、学校ではクラス対抗の合唱コンクールだとかがあった。他にも卒業式などの式典に向けての合唱練習などがあったことを思い出す。運動会などもそうであったが、「団結」を求められる行事は、悠介にとって大の苦手であった。コーラスの練習の際には皆とハーモニーが合っていないことをよく注意されてきた。自分では皆に合わせようとちゃんとやっているつもりだったのに。もう過去のものとなってしまった嫌な思い出が悠介の脳裏をかすめる。初めて時間を共にする人たちの前で、ちょっと渋い顔を見せてしまいそうになっていた。
本当の恩返しとは。これも私自身に、教会の先輩から実際に示されたことです。
そして、コーラス。私もコーラスにはいい思い出はありません。でも、私が初めて教会に行った二十一歳の冬、こんなふうに青年会に誘われて、コーラスにも参加するように勧められたのですよ。