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第十七回:究極の癒やし

 牧師先生の説教はその後も続いていく。そこで悠介は今日ここに来た理由というかきっかけを再考するのだった。ツイッターの「こひつじちゃん」のツイートが気になったので来た、ということに自分の中でもしていたが。それだけでは、ないのかもしれない。


「私の若い頃には癒やしという言葉を聞くことはそうありませんでした。しかし、最近は癒やしという言葉を巷でもよく耳にしますよね。癒やし系美女だとかいう言葉まで生まれたりしましたが……。まぁ、それだけ社会が複雑化というかストレスのより多い社会になってきているのかもしれません」


 無職の引きこもりであるはずの悠介も知らず知らずのうちにストレスを抱えているのであろうか。世間の目を気にせず、自分の将来からも目を背け、日々牧歌的に生きている悠介、のはずなのだが。


「現代社会は複雑な世の中ではあるかもしれません。そこで生きる人々のほとんどは神さまのことを知ることもなく忙しい毎日をおくっています。しかし、聖書にあるように神さまは私たちの生まれるはるか昔からずっと、世を愛してくださっているのです。いくら荒れた世の中であろうとも、神さまの世の中への愛は変わらないのです。聖書をお読みしましょう。ヨハネの福音書、三章の十六節です」


――神は、実に、そのひとり子をお与えになったほどに、世を愛された。それは御子を信じる者が、ひとりとして滅びることなく、永遠のいのちを持つためである。


「ここでの、ひとり子、とはもちろんイエスさまのことですね。イエスさまの存在こそ我々にとって究極の癒やしであり、我々を本当の意味で救ってくださる、ただひとつの存在であります……」


 とりあえず、牧師先生の説教を真面目に聞いていた悠介。説教の後、更に賛美歌を歌い、献金をささげる時間となる。横にいる見附さんから献金箱が回ってきた。

「相川君。今日はお金を持ってきているかな。お金を持っているなら、少しでもいいから神さまにささげよう」

 見附さんのそのささやきの言葉を受け、悠介は財布の中を覗いて、五百円硬貨を一枚献金箱にそっと入れる。最初は百円でいいかなと思っていたけれど。五百円とはいえど、母親からの手間賃くらいが唯一ともいえる収入源の悠介にとっては大きなささげものである。例えば、風呂掃除一回分の「報酬」が五百円なのだから。

 

やがて、礼拝の時間が終わり、牧師先生もその場をあとにする。司会当番の三条さんが再び壇上に立ち、お知らせなどを告知する。

 お年寄りの信徒が入院されたとか、また別の信徒は退院されたとか。もちろん初めてこの教会に来た悠介の知らない人の話ではあるが。教会全体としての祈りの課題がいくつか提示される。


 続けて、三条さんが今日このあとの予定を告知する。

「本日は第二日曜日ですので、礼拝後のこれから、青年会のときがもたれます。今日初めて来てくださったお三方、皆さんお若いのですね。せっかくですのでご都合がゆるすなら、すぐに帰らずに、是非、青年会の交わりの場に参加されてはいかがでしょうか。三階の第二研修室へどうぞ」


 時刻は十一時五十五分。ほぼ時間通りに礼拝としての集会が終わり、解散となる。

 そこで見附さんが悠介に声を掛ける。

「青年会は一時からだよ。今日はお弁当とか持ってきてるかな?」

「いえ、お昼で帰ると思っていたので、弁当は持ってきてないです」

「じゃあ、青年会の始まるまでの一時間のあいだ、みんなで一緒に外にご飯に行こうか?」

 見附さんはそう言い終わると胎内さんのもとに向かい、ちょっと相談していた。しばらくの後、胎内さんと他四人を一緒に連れて悠介のところに戻ってきた。

「相川君、この通りの鶴角(つるかど)製麺でうどん食べるけどそれでいいかな? このビルから歩いてものの二、三分ほどだよ」

 鶴角製麺というのは全国チェーンのうどんの専門店、というか、いわばうどんのファミリーレストランである。店員さんが粉から麺を作り、それをゆでているところなどを客から見えるように実演しているので、安心感もある。それにトッピングも豊富だし、何よりも安さで人気だ。悠介もこれまでに何度か自宅の近くの鶴角製麺にうどんを食べに行ったことがある。

 そして、さり気なく登場するパロディですね。うどん屋さん。

 ニートであっても日々心は疲れるもの。誰にでも癒やしは必要です。また、礼拝に参加するのであればほんの少しでもいいから献金しましょう、と自分にも言い聞かせるつもりで。

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