第十四回:神さまからのラブレター!?
それにしても、胎内さん。白いワンピースがよく似合ういかにも清楚な感じの女性である。やはり彼氏とかは居るのだろうか。それとも、やはりキリスト教に身を捧げる立場であるならば彼氏が居たとしても、貞潔を保っているのだろうか。なぜか、そのようなことまで思ってしまう。もちろんそんなことを思っても質問なんて出来るはずがないのだが。
そんなとき見附さんから声が掛かる。
「相川君、だっけ? 君も俺たちのツイッターを見てきたんだろう?」
「はい、相川です。家でネットするぐらいしかしていないんで、ツイッター見て来ました」
悠介は正直に答えた。それを受けて、見附さんが言う。
「俺たちの広報活動のおかげで新しい人が来てくれるって嬉しいなぁ。くだらないことだけど毎日投稿してる甲斐があるってもんだよ」
そのとき悠介は、自分と見附さんのほうを村上さんの奥さんがじっと睨んできたような気がしたのだった。村上さんの奥さんは頭のかたいタイプのクリスチャンなのかもしれないと悠介は思ったのだった。そういうのがいわゆる敬虔なクリスチャン、とでもいうのであろうか、とも思った。
それとは関係なく見附さんはしゃべり続ける。
「俺、黒羊が居るのだから、白羊も居るよ。彼、今日は礼拝に来るのかなぁ」
見附さんは携帯電話、彼の場合はスマートフォンなのだが、を取り出してどうやら「白羊」なる人物に連絡を取っているようだ。
しばらくして「黒羊」こと見附さんがスマホから悠介のほうに顔を向けて言う。
「うーん、どうも白羊君は仕事で来れないってよ。今日は教会に新しい若者が来てくれたってことは伝えたけど」
見附さんが続けて言う。
「白羊君、本名は柏崎君というのだけど、俺の大学の後輩でさ。というか俺たちキリスト教系の大学出身なんだけど、彼は今、英会話の先生をしてる。このビルの四階に入ってる英語教室で教えていることもあるんだけど、今日は別のところで、らしい」
「黒羊」さんと「白羊」さん。同じ大学の先輩後輩であるだけではなく、「先生」という点では同業者ともいえる関係でもあるようだ。ふたりともツイッターアカウント「こひつじちゃん」の「中の人」なのだが、比較的おふざけネタを投稿するのが「黒羊」で、まじめなネタを投稿するのが「白羊」ということに「建前上」はなっているらしい。もっともツイートのたびにこれはどっちが投稿しているのか、悠介にとっても、判別がむつかしいことも多い。
そのとき、また中年の女性が場に現れて、悠介を含む教会の玄関に集合している人たちに声を掛ける。
「皆さん、会堂の準備が出来ましたので、会堂にお入りください」
そこで新顔である悠介の姿を見つけたその女性は言う。
「あら、また新しい方がお見えになられたのかしら。ようこそいらっしゃいました」
悠介は自分に向けられて声が掛かったことに気付く。それと同じ瞬間に胎内さんが口を開く。
「博子先生。この方は相川悠介さんとおっしゃるそうです。二十一歳で私と同い年らしいです」
「あらまぁ、お若いのね。私は牧師夫人の湯沢博子です。相川君への神さまのお導きに感謝いたしますわ」
この教会の牧師先生は湯沢修先生というらしいが、博子先生はそのご夫人らしい。
胎内さんに自己紹介を代わってされてしまった悠介。自分からも改めて挨拶をする。
「あ、はい……、相川悠介です。僕はキリスト教のことって何も知らないようなものですが……、どうかよろしくお願いいたします」
博子先生が答える。
「それもこれも神さまのお導きですのよ。知識とかの深さより、信仰が大切なのよ。聖書はただの古典ではなくて、神さまからのラブレターですもの」
ツイッターで話題になっているからというミーハー心からだけではなく、「聖書のことも勉強しておきたい」とか思って、教会に足を運んだ悠介。博子先生の「神さまからのラブレター」という台詞を聞いて少し疑問を抱くのであった。神に啓示された者が書いたとでも言うのだろうか。
「柏崎」に「湯沢」とまたまた新潟県の地名が出てきますが……。聖書という分厚い書物も初めて教会を訪れた身にとっては圧倒されますね。