第十三回:いきなりの対面
エレベータが二階に着いて、降りた悠介。そのすぐ目の前に受付があった。
「おはようございます。新規の方ですね?」
受付で待っていたのは、悠介とほぼ同じ年頃あたりだろう、若い女性であった。化粧をしたり、装飾品は身につけたりはしていないが、自然な微笑みがよく似合う物腰柔らかそうな女性である。悠介は思わず緊張してしまう。
「え、ええ……、最近この教会のことがネットで話題なので、来て……みました……」
悠介のその言葉を聞いて更に微笑む、受付の女性が言う。
「そうなんですね。最近そういう方多いんですよ。はじめまして、ようこそ私たちの教会へ」
「あ、はい、はじめまして……」
悠介はまだ緊張がそう解けぬまま答える。キレイな女性だよなぁ……と思いつつも。そこに受付の女性から声が掛かる。
「初めての方にも、お名前とご住所、ご生年月日をお伺いしておりますので、差し支えなければご記入お願いします」
渡された記入用紙に、悠介は個人情報を書き込む。生年月日を書き込んでいるところでまた受付の女性から声が掛かる。
「あら、私と同い年ですね。学生さんですか?」
「いえ、今はちょっと……、仕事とかしていないんですよ……」
軽蔑されるかもしれないことを覚悟で、悠介は正直に自分の今の状態を受付の女性に話す。それを聞いてもとくに表情を変えることもなく、むしろ改めて微笑みを見せつつ、受付の女性は言葉を返してくる。
「相川さんがここに導かれたのも、神さまのお働きですから。歓迎いたします」
「あ、はい……、ありがとうございます」
悠介が答えた。時刻は九時四十五分を少し回ったところである。
「今は子どもたちの教会学校の時間です。十時三十分から大人の礼拝が始まりますので、もう少しお待ち下さいね」
そのときエレベータがまた二階に着いた。降りてきたのは老夫婦らしきペアと三十歳くらいの男性である。
「おはようございます。村上さん、見附さん」
受付の女性が三人に挨拶をする。老夫婦のほうが村上さん、三十ほどの男性が見附さんというらしい。三人が挨拶を受付の女性にも返した。
「おはよう、マリナちゃん。……ん、君は新しい求道者さんかな?」
見附さんが悠介に声を掛けてきた。
「あ、はい。今日初めて教会に来た、相川、相川悠介と申します……」
「はじめまして。僕は見附誠治、三十一歳、独身。普段は高校で数学を教えているよ。というか、いわゆる黒羊だっていえばわかるかな?」
そう、見附さんはツイッターアカウント「こひつじちゃん」の「中の人」のひとり「黒羊」さんらしいのだ。悠介のある意味「会いたかった人」にいきなり会えるなんて。
受付の女性は胎内真理奈さんというらしい。悠介と同じ二十一歳、つい今春短大を出たばかりで、今は世田谷区内の保育園で保育士をしているらしい。普段の日曜日はこの時間、教会学校のアシスタントをすることが多いが、今日はたまたま受付当番だったとのこと。
村上さんの奥さんのほうが言う。
「あれ、まぁ、最近新しく来る若い人多いねぇ。最初はハイカラだと思って来るんだろうけど、すぐに来なくなっちゃう人がほとんど。私らみたいに五十年信仰を持ってきても、わからないことばかりだというのにねぇ……」
村上さんの旦那さん、それに対して黙ったままでいた。
さて、登場人物たちの姓に共通している点があるのをお気づきですか? 新潟県の地名ですね。主人公の悠介の姓「相川」も佐渡島にあります。そういえばあの工場は「佐渡工業所」でした。なぜ、新潟県なのかは私の中での秘密です。「胎内」という地名もあるのですよ。