第一回:プロローグ
今日からまた連載小説が始まります。この作品に着手したのは二〇一九年、つまり四年前の十月二十四日でした。長い期間、あたためにあたためてきたところで、そろそろ(いいかげんに)発表しようと思います。
日本国の首都・東京都。その都心からも比較的近い世田谷区。そのやや外れのほうにあるその地区は高級住宅街というほどでもないが、一応は都内であるだけに、中流階級の家庭が多く集まっている。
さて、中流階級とはいうが、日本人の多くは自らを中流階級に属していると感じているという調査報告があるという。それを受けて「一億総中流」などと揶揄はされてきた。しかし、本来の意味において中流というときのハードルは一般的な認識よりかなり高いものである。都内に駐車場付きの一軒家ぐらいドンと構える余裕のあるくらいの層でギリギリセーフで仲間入りといったところだろうか。
そんな住宅街の一角にあるのが相川家である。紙と木と瓦で出来たような昔ながらの日本人の家ではなく、西洋風のつくりをとりいれたようなものにはなっている。正面にはカーポートがあり二台分の駐車スペースが確保されている。しかし、モルタル仕上げの相川家の住宅もこの住宅街の風景の中にすっかり溶け込んでいて、とくに目立ったところのない二階建ての住宅である。それでも、緑豊かな庭の草木にはどれにも手入れがしっかりと施してあって小綺麗ではある。
その家には世帯主である恵介と、その妻優子、そして二十一歳の息子の悠介の三人が暮らしている。恵介と優子の間には悠介の他にも娘がひとりいる。悠介にとっては姉である二十五歳の玲奈だ。しかし玲奈は高校卒業後、ある地方都市の国立大学に進学し、そのままその地で就職してしまった。
恵介は旧帝国大学の法学部を卒業後、国家公務員として官庁に就職した。要は巷でエリートと呼ばれるだけの職位の持ち主といえよう。一方の優子はというと、これまた旧帝レベルよりかは下がるが国立大学の教育学部を卒業している。しかし、今は定職を持つわけではなく、学習塾のアシスタントのパートに週二で出ているぐらいである。つまりは「ほぼ専業主婦」という立場である。それでも一応若い頃は四、五年ばかり小学校の教師を務めていたが、恵介との結婚を機に退職した。
公務員限定のお見合いパーティーで知り合った恵介と優子のふたり。優子が恵介に惚れたのは、仕事に打ち込む姿に男らしさを感じたから、だとか。鋭い目つきの上からメガネを掛けた、芸能人でいえば佐野史郎を彷彿とさせる恵介。その外見からはちょっと冷たい印象を受けるかもしれないけれど、確かに仕事はできる。新卒時代の同期の中でもわりあい早いスピードで昇進してきた。
元教師であった優子はいわゆる「教育ママ」であった。「ほぼ専業主婦」である優子は「ほぼ四六時中」家にいるので、子供たちがしっかり勉強しているかどうか見張ることができた。恵介もまた二人の子、玲奈と悠介の将来にも期待を寄せていたので、教育に関しては特に熱心であった。
さて、そんな相川家の長男坊である悠介、二十一歳の悠介。彼はずばりニートである。つまりは職に就いていない、職に就く気もない、学校に通っているわけでもない、無業の若者である。
悠介と似たような生育歴をたどっている若者は多いのではないでしょうかね。
さて、佐野史郎さんというと、マザコン男の「冬彦さん」でも有名ですが、父親・恵介に対してはかつてのテレビ番組「特命リサーチ200X」の頃の佐野さんをイメージさせました。なんか冷徹なイメージがありましたね。もう二十五年ぐらい前の番組ですよ。