幕間・ローブの二人
マレイェンの尖塔から落ちた二人が無事だと判明し、驚きと安堵が見守っていた群衆に渦巻いた。
「よかった、よかった」
「やっぱり魔法ってすごいんだなあ」
その群衆たちからこっそりと離れ往くフードの付いたローブを被った二人がいる。彼らは群衆のざわめきに紛れて遠巻きに事件の様子を窺っていたのだが、落ちた二人の無事を確認するとそそくさとその場を後にしたのだ。
「よかったのか──あそこに留まらなくて」
深く被ったローブの内の容姿は判然としないが、声の高低から一人が男、もう一人が女であることが窺える。
「為すべきことは為したからね。留まっても意味がない」
「儂が言いたいのはだな」
「──挨拶くらいはしたかったけど、あの人だかりじゃあねえ。今は目立つ時ではないとお前さんも言っていたじゃないか」
「可哀想にあの少年。自分を助けたのは彼女だと思い込むぞ」
男の方が未練有りげに背後を振り返り、生還を果たした少年をちらりと見た。
「いや、それで合ってるよ。私がしたのは演出と始末だけさ」
「そうなのか?」
「ああ、私が何もせずともあの子の魔法は完璧に決まっていた。塔の上から距離があるのに必要最小限で正確な発動、大したもんだよ。さすがと言ったところさね。ただちょっと完璧すぎた。もしあのまま着地させていたら、ふわりと優しく着地する形になって、誰かが非常に正確な魔法を使ったと、今頃別の騒ぎになっていただろうさ。それよりも派手に着地させて、『未熟ながらも貴族の子が魔法を使った』と思わせた方が場が収まるだろう。ふふ、そこまで考えが及ばなかったのは経験の差だね」
「だてに歳は取っておらんな」
「ジジイに言われたかないよ」
フードの内から女は男を睨むと、指を一本立てた。
「とにかく一匹片付いた」
「……ああ。だが残滓のようなものだ。あれらをいくら狩っても本体を叩かねば永遠に終わらんぞ」
「やはりあいつに?できれば御免被りたところだけどねえ」
「そうも言ってはおられまい。予定通り我らは国境へ向かおう。急いだ方がよさそうだ」
「はあ。年寄りに過酷な労働させるね」
「儂もガタがきておるわ。……だがやり残したツケが回ってきたんだ、そう愚痴を言ってはおられまい。ここに心残りがないと言えば嘘になるがな」
「罪悪感からかい?それが取れる最善の方策だとあの時皆で──」
「わかってる、わかっておる」
男は立ち止まると離れた場所にある尖塔を見上げた。今はもうそこに彼女の姿はなく、鳴らし終え今日の役割を終えた鐘が夕陽に照らされているだけだ。
「──だが──お前は本当にこれでよかったのか?エリナ」
男の呟きは風に乗ることもなく、行き場を失い消えた。
「何感傷に浸っているんだい、早く行くよ」
「ああ」
二人は誰に見送られることもなく、何ら痕跡を残すこともなく、マレイェンの街を去って行った。




