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魔法、はじめまして

 翌朝。朝食を済ませると早速俺は先生と共に小屋の外に出て、魔法の訓練を始めることになった。


「基本的に魔法は座学から始めて理解を深めてから実技となるわけど、それだと何年も何年もかかって大変だからね。全部同時進行でいくよ」


「俺にできるかな?」


 そんなことが出来るのなら学園で魔法を学ぶのにも試験とか必要ない気がする。弱音を吐くつもりはないけれど、それでもやっぱり少し不安になった。


「もちろん簡単なことではないよ、ぶっちゃけ、モノになるかどうかもわからない。後々、近道のつもりが遠回りだったと後悔するかもしれないわね。逃げ道を作るつもりはないけど、私は他人に魔法を教えたことなんてないし、ルイは魔法について完全に0からのスタートだから。何もかもが初めて同士、こればっかりは、ね」


 先生ならなんでも大丈夫と思っていたけれど、多少なりとも不安なのは俺と同じらしい。意を決すると、俺は先生を見つめた。


「うん、わかった」


「よし。じゃあ杖を出してみて。昨日も言ったけれど、杖というのは魔力を集中させるものなの。こんなふうに」


 先生は杖を取り出すと脇に抱えていた本を杖の先に乗せ、グッと力を込めると本を宙に浮かせた。


「──こうやって杖を通して己の魔力を操作して何事かを為す、というのが魔法の基礎になるの。つまり魔法を行使するには、まず自分の魔力を知覚する必要があるわけね。普通はそのために知識を積んでゆっくりと認識を促すわけだけど、ルイは頭と同時に肉体でも魔力を感じてもらう」


 そこまで話すと先生は宙に浮かせていた本を手に取りページを捲った。


「魔力というのは人それぞれに個性があってね──」


 先生がページを捲る手を止めると、杖の先の空中、握りこぶしほどの空間が螺旋状に捻じれ始めた。


「これは古い魔法で、初めて出会う魔法使い同士がお互いの力量と特徴を知り合うために──つまり挨拶代わりに使われていたらしいの。私も使うのは初めてなんだけど──」


 ギュルギュルと捻じれていた空間がまとまりだしたかと思うと、たちまちのうちに丸く形を整え、最終的に指先に乗るほどの小さな黒い球となって杖の先に浮かんでいた。


「たしかにこれはちょっと疲れるわね……」


 ふう、と肩で息を吐くと先生は本を閉じた。


「……これを俺も出せばいいの?」


「ううん。言ったでしょ。『肉体で感じてもらう』って」


 なんだか嫌な予感がする。


「この球をルイの体内に打ち込む」


「えっ!?」


 空中に浮かぶ無機質な黒球が急に邪悪なもののように思えてきた。


「な、なんで!?」


「ルイの中に私の──つまり他人の魔力を取り込ませてルイが異物感を覚えれば、自分自身の魔力も感じることができるんじゃないかと思って。ほら、甘い料理に塩をほんのちょっとだけ入れることで甘さをより引き立てるみたいな、アレよ」


「……大丈夫なのか?」


「多分。挨拶代わりに使われていたくらいだし大丈夫でしょ」


 多分って。そうツッコむ間もなかった。先生は素早く杖をピッと振ると黒球を俺の腹に向け放った。避ける間もなく球は俺の服をすり抜け肌も通り抜け体内に──。


「どう?何かわかる?」


「……」


「ど・う・な・の・よ」


 先生は無反応な俺を腹を杖でポンポンと突いた。嘘をついてもしょうがない。正直に答えることにした。


「……何も感じない」


「じゃあ次」


 先生が杖を地面に突き立てると、先程黒球を作った時と同じように空間が捻じれ始めた。だが今度は一つじゃない。杖の先を中心に、計三箇所の捻じれが生じている。


「ふう、一度に作れる、のは、これが限界、ね」


 この魔法を使うこと自体結構大変なことらしい。先生の額に汗が浮かんでいる。ならば早く自分の魔力を感じ取らなければと思うのだけど──。三つ同時に打ち込まれても駄目だった。自分の魔力どころか、マリナ先生の魔力すら感じることができない。


「なるほど……ならば次は連続でいくわよ!」


 先生の気迫に押されるように黙って頷いた。これはもう是が非でも魔力の一端を感じなければ、と強く思って腹に力を込めて俺は叫んだ。


「何度でもお願いします!」


***


 「もう!どんかーん!」


 それから何度も黒球を体のあちこち打ち込まれたけれど、結局俺は何も感じることはできなかった。先生はその場にドサッと大の字に身を投げ出すと、「疲れたー」と呟いて手足をグッグッと伸ばしている。


「ごめんマリナ先生」


 先生の軽口を真に受けたわけじゃないけれど、多分普通なら自分の魔力を感じることはなくても魔法を打ち込まれたことくらいは感じることができるのだろうな、と思う。


「『簡単なことじゃない』って言ったでしょう?さすがの私も一日目で好調に滑り出すなんて思ってないから、そこまで申し訳なさそうにすることはないわよ。それよりも本当に何か違和感みたいなの感じなかった?ほんの些細なことでもいいから」


 腹のあたりをさすってみたけれど何もわからない。目をつぶって「違和感、違和感……」と呟いてみると、ふと、テオ山をさまよっていた時に違和感を覚えたことを思い出した。それにファングに襲われた時に魔法の矢を放ったことも。


「……あっ!先生、俺、もしかしたら魔法を使ったことがあるかもしれない」


「はあ!?」


 脈絡のない俺の言葉に先生はガバッと上半師だけ跳ね起きた。驚いている先生に俺はここに来る前にテオ山でファングに襲われたこと、もう駄目だと思った時に杖を振ると、魔法の矢が放たれてファングを追い払えたことを話した。


「──というわけで、偶然だったのかもだけど、俺、魔法を使ったかもしれないんだ」


 「どうですか」と俺はちょっと自信あり気に先生を見た。


「……」


 しかし先生は暫しその場に座り込んだまま腕を組んで黙っていた。先生の表情はとても真剣で、迂闊に言葉をかけるのもためらわれた。やがて先生はおもむろに杖を持った手をゆっくりと丘の向こうへ向けると、


「じゃあその矢、今出してみて」


 と言った。その眼は先程の俺の言葉を茶化すようでも詰問するようでもなく、ただ一点、俺が魔法の矢を撃てるかどうかを見極めようとしているようだ。


 俺は少し武者震いをすると目をつぶりあの夜の心持ちを思い出した。大丈夫。きっとできる。大きく息を吸い込むと勢いよく杖を振った。


「──はあっ!」


 矢も何も、出てこない。


「……」


「あ、あれっ?……とうっ!」


 ヒュンヒュンと杖は何度も空を切るが、その先端からは何も放たれなかった。


「……やっぱり、あの時のはたまたまだったのかなあ」


 俺はしょんぼりとして杖を振るのを止めた。肩の力が情けなく抜ける。矢のような具体的なものじゃなくても、何か魔法らしきものができるんじゃないかと自分に淡い期待を持ってしまっただけに尚がっかりした。心の片隅で「やっぱり俺には魔法の才能ないのかな」なんて呟く声が聞こえる。先生はどう思っただろう。ちらりと先生を見ると、先生はものすごく真面目な顔のまま、思い詰めた表情をしていた。


「……やっぱり俺才能ないのかな。魔法を学ぶのなんて無理?」


 俺の言葉に先生はハッとすると、首を振った。


「なーに弱気になってるの!言ってるでしょう、最初から上手くいくわけないって。……今ちょっと考え事をしていたのはね──」


 そう言うと先生はおもむろに地面に生えている草を数本掴むとむしり取り、宙にまいた。しかし宙に浮いた草はそのまま風に散らされることなく空中に留まっている。


「今草を浮かべているけど、これは魔法の初歩も初歩。魔力を操作してほとんど重さのない草きれを支えるだけだからね。ちゃんと段階を踏めば、ルイもできるようになると思う。でもね、魔法の矢を放つとなると一朝一夕じゃまず無理。ルイ、きみが見たのは『矢』と表現するほど具体的な形をしていたのでしょう?たとえルイが天才で才能豊かだとしても、今の──自分の魔力の自覚さえないルイが、自分の魔力で何かを形作れるなんてこと、あり得ない」


「じゃあ先生、あの時の矢は……」


 先生はどこか不安そうな顔でコクリと頷いた。


「ルイの知らない魔法使いがその場にいたことになるわね。──それもある程度魔法について習熟している魔法使いが」

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