幕間・杖を見つけて
前回のお話中の、本の移動後、お夕飯前における一コマです。
「おっあった!」
台所の片付けをしていたルイがレオハルトからもらった杖を掘りあててガッツポーズをしていたところに、自室にいたマリナがやってきた。
「ねえその杖、よく見せてくれない?」
言うが早いか、マリナは杖を奪い取るように掴むと、四方八方から杖を返す返す見ている。
「何か変?」
「いいえ?ミラリウ家の人間がどんな杖を持っていたのか、ただの興味本位。──でもこれは……そうね、いい杖」
マリナは杖をテーブルゆっくりと杖を置いた。机はまだ片付けの途中で、ルイが拭いてきれいになってはいるものの食器が片付けられるのを待っていた。
「いい杖っていうのはお金じゃ買えないのよ。お飾り用の絢爛豪華な杖ならお金で買えるけどね」
「ふうん、そうなんだ」
思わずルイも食器を片付ける手を止めて杖を手に取りしげしげと眺めてみるが、何がどういいのかは要領を得ない。
「おいおい魔法とか魔力については教えるけど──そうね、杖っていうのは魔力の導き手なのよ。魔力を一点集中させる役割を担っているのが杖、とでも言えば伝わるかしら。魔法を使うなら杖がないとお話しにならないの」
「なるほど……ってあれ?マリナ先生、杖が無くても魔法を使ってなかった?」
ルイに裸体を見られたことを思い出してマリナは顔をしかめた。
「あれはね……杖が無くても使えないわけじゃないの。でも、ものすっっっっっごく効率が悪くて、魔力を無駄に浪費するのよ。はっきり言って疲れる」
「それとあの時のことは蒸し返さないで」と、マリナはルイを睨む。
「──でね?この杖は魔力の集中を試みた形跡が幾つも残ってる。未熟だから痕が残るのよ。でもそれがいい杖の証拠。何度も何度も魔力を注ぎ込み……そうやって自分自身と杖に魔法のコツを覚え込ませるの」
「へえ、魔力の跡だなんて、そんなことまでわかるんだ。さすが先生」
「まあね」
と、マリナ鼻高々に応じた。
「きっとその人、学園を辞める前も辞めた後も、何遍も繰り返し繰り返し魔法を使おうと練習したのね。……結局実らなかったみたいだけど。わずかに残ってる魔力も──焦りとか悔しさとか……そんな気持ちを教えてくれてる」
「……そっか」
「だからこの杖は本人にとって思い入れの深い物だったでしょうにね。それを昨日今日会ったあなたに託すなんて……。ルイ、だいぶその人に好かれたみたいね。あなたに追跡用の魔導具を持たせていたなんて嘘みたい」
「えっ!?」
マリナの言葉に驚いて、ルイは彼女を見た。
「──やっぱり知らなかったのね。家紋の入ったあのコイン、あれには追跡魔法がかけられていたのよ。術者は相当な手練ね。強度の強い追跡魔法をかけた上に、魔導具と気づかせないための魔力を隠匿する魔法をかけていたわ。ま、私の前では学生レベルなものでちょちょいのちょいと解除しちゃったけど」
得意気に指先で自分の杖を遊ばせるマリナを横目に、ルイは彼女から返されて服のポケットに入れていたコインを取り出すと、まじまじとそれを眺めた。
「どうして追跡用の道具なんか俺に渡したんだろう」
「さあね?」
素知らぬ顔をしながらも、マリナはルイの様子を観察していた。ルイが信用の置ける人物であることは認め始めていた彼女だが、ルイが貴族──それもミラリウ家の人間──とわずかでも繋がりがあることについては依然警戒をしていた。杖の様子からレオハルトなる人物が彼女の嫌いなステレオタイプな貴族でないことは想像がつきはじめているが、それでも彼はミラリウ家の人間。用心に用心を重ねてなお慎重にならなければ、と彼女は考えている。
「結構あっけらかんというか、さっぱりした人に見えたけどなあ。追跡するならするで『追跡するぞ』って言うような」
昨日のレオハルトを思い浮かべてルイが首を傾げた。
「……人は様々な顔を持つものよ。あなたが知ってるレオハルトも彼の一面でしかないの、きっと」
「たしかに。最初はなんだか挑発し合って殴り合いになっちゃったもんなあ。それでボコボコにされたんだよ俺」
「ボコ……?」
教え子の予想外の言葉に、マリナは目をパチクリとさせた。
「うん、宿屋で。まあ俺が悪い面もあるんだけどさ、ちょっとした喧嘩?みたいな。別に今それでレオハルト恨んでるとかはないけど、初対面が最悪でも杖を譲ってもらえるっていうんだから、出会いって不思議だよなあ」
うんうん、と一人で納得している弟子にマリナはぐいっと顔を近づけた。
「ねえルイ」
「うん?」
「その人本当にミラリウ家の人だった?ただの危ない人じゃない?」




