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酸っぱいスープ(1)

 最近、朝ごはんの時間が辛かった。


「ハァ……」


 藤子のため息が溢れる。食卓のテレビでは、朝のニュース番組が流れていた。天気予報が終わると、次は占いだった。血液型占いでA型はビリだった。藤子はA型だったので良い気分はしない。もっとも血液型占いなんて根拠は無いと思うが。


 テーブルの上には、インスタントの味噌汁、サラダ、白くてフワフワなパンがある。典型的な朝ごはんだったが、サラダはカット野菜、パンはスーパーで買ってきた市販のものだった。正直、おいしくは無いが、働いている身としては時短になり、便利なものだった。


 つい先日までは娘の夏帆と一緒に朝ごはんを食べていた。多少ぼーっとしている所のある娘だったが、自分の言うことをよく聞く優等生だった。大学も藤子の希望通りのところに行き、最終的には公務員を進めるはずだった。藤子も市役所で働いている公務員だったが、安定していて、とても良い仕事だ。田舎の人間関係など面倒な所は多くストレスも溜まっていたが。


 そんな「いい子」の夏帆だったが、突然、「一人暮らしをしたい」と言い始め、バイトも始めてしまった。黒髪で地味な子だったが、今はすっかりとメイクし、髪の毛を染め、楽しそうに働いていた。


 こうして一人残された藤子は、朝ごはんも一人で食べるようになった。昼ご飯は同僚、夕飯は友達と食べる事も多かったが、こうして一人で朝食をとっていると、居た堪れなくなってきた。夫と離婚していたし、強く孤独を感じてしまったりしていた。


「はぁ」


 フワフワなパンを齧りながらため息をつく。たあまり美味しくはない。パンの袋の裏を見ると、何行も添加物の名前が書いてあった。柔らかいので顎の力が衰えても食べられるだろうが。六十歳に近い藤子にとっては、老後は人事ではなかった。今は美容院で染めているが、白髪も増えてきた。更年期障害にも悩まされていたし、老後は他人事ではなかった。こうなった今では、離婚なんてしな方がよかったと後悔しかけたが、もう遅い。


「もう、血液型占いなんて興味ないから」


 藤子はそう言い、テレビのチャンネルを変えた。しかし、そのチャンネルでは藤子にとっては都合の悪いこ事が放送されていた。


 毒親問題をテーマに、子どものインタビューがな流れていた。虐待やヤングケアラーの話題は他人事なので返って冷静に見られたが、過保護に育てられた子どものケースは、耳を塞ぎたくなった。親がなんでも先回りして決めるので、生きる力がなくなり、他人の顔色を見ることが癖になってしまった子どものケースは、夏帆を思い出して胃がキリキリと痛くなってきた。


 藤子は再びテレビのチャンネルを変える。子ども向けキャラクターのアニメが放送されていたが、これが一番ホッとしてしまった。


 そうは言っても、さっきのテレビの内容が頭から離れられなかった。夏帆のぼーっとした顔も頭から離れられない。


「私、毒親だったかしら?」


 そんな気もしてくる。心配と言いつつ、娘の進路を勝手に決め、夏帆の自立心を奪ってきた?


 だったら逆に今の状況は良いんじゃないかと思ったが、一人での食卓は寂しい。毒親の可能性も大だったが、自分の中で子離れできない部分が大きい事も思い知り、恥ずかしい思いも出てきた。


 そんなモヤモヤを抱えながら、柔らかいパンを食べる。不味くは無いが、美味しくもない。自分一人で食事をしているからだろうか。今だったらホテルで豪華な朝食を食べても、憂鬱になりそうだった。


 気づくと手足が氷のように冷たくなっていた。元々冷え性で悩まされていた。後更年期障害を克服した後でも冷え性はあまり解消しない。今は夏だが、冷房のせいで、余計に冷え性が悪化していた。職場での冷房も強いが、自分一人のワガママで、温度を下げる事もできない。上司は暑がりで、常に汗をハンカチで吹いていた。


 今日もカイロやストールを持って職場に行くと思うと、少し憂鬱になってきた。


 インスタント野味噌汁を飲み干すが、これも全く美味しくない。だからと言って仕事をしながら朝食をきちんと作るのも想像以上に大変だった。


「はぁー」


 藤子はため息をこぼす。エリート社員はため息が多いというデータもあるらしいが、藤子は信じられなかった。

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