番外編短編・バーチャル食
2050年、日本。
日本の食生活も大きく変わっていた。幾度かの大きな食糧危機や疫病の蔓延とともに、新しい食生活というのが政府により定められていた。
栄養素だけを凝縮したサプリメントを飲み、バーチャルで食事をするというのが今も食事方法だった。脳内に埋め込んだマイクロチップは、本物の食事のように匂いや食感を再現できる映像を脳に錯覚できた。バーチャル食と言われている。お陰で脳内でいくらステーキやハンバーガーをたべても太らない、病気にならないという良い面があった。満腹感サプリというのも開発され、一粒飲むとゼロカロリーのくせに満腹感を保つ事できるサプリだった。
こんな技術が開発されたおかげで、今まで一般的なとされていた食事は急速に廃れていった。農業、酪農、外食産業まどもほとんど無くなり、失業者は町に溢れていたが、今は法律で安楽死も認められている。失業者は安楽死へと向かい、世界人口もかなり減っていた。このままだと来年頃には全世界で一万人ぐらいになると言われていた。
そんな世界の中、市原雲緒はタイムマシンを極秘で開発した。元も科学技術者でバーチャル食の開発にも携わっていたが、今は後悔していた。
確かにバーチャル食や満腹サプリメントで食事はできる。ただ栄養素に穴があり、手足が痩せ細り、歩けなくなっているものも続出していた。それにいくらバーチャルといっても毎日ステーキや寿司、ハンバーガーというのも飽きてきた。確かに豪華なメニューだが、開発部の連中のイメージする美食基準で作った為、豊かな食文化は楽しめない。思えば食事は単に腹を満たし、食べてる感覚を持つだけのものではなかったのかも知れない。この技術開発がきっかけにたくさんの失業者や死者もだし、雲緒はだいぶ罪悪感を持っていた。
そんな事もあり、タイムマシンで2020年ごろに逃亡しようと考えた。昔の資料を見る限り、この時代が最後の普通の食文化がある時代のようだった。
さっそくタイムマシンに乗り込み、2020年頃に向かった。正確には2023年の8月にたどりついたようだが、まあ、良いだろう。
さっそくファストフードへ行き、一般的な食事をとる。二百円ほどのハンバーガーだったが涙が出るほど美味しかった。これがマトモな食事だ。もう元の時間には帰りたく無い。満腹サプリメントやバーチャル食もウンザリだった。
ファストフード店を出ると、そばにある公園に向かった。公園にはフードトラックや屋台が出店し、賑わっていた。
「異世界キッチン?」
一つ変な屋台が出ていた。石のような硬いパンや酸っぱいスープなど変なメニューを売っていた。異世界ってなんだ? 店の名前も変だが、ちょっと胡散臭い外国人が屋台の店員のようだった。
変なメニューだが、バーチャル食の美食にウンザリもしていた。少し変わったメニューもアリかも知れない。
雲緒は少々、いや、だいぶ変わった雰囲気の屋台に近づいていた。
「ようこそ、いらっしゃいませ!」
外国人の店員は、雲緒が未来人である事は予想にもしていないだろう。子供のように無邪気な笑顔を見せていた。




