最後のスイーツ(5)完
メイはルイスの店・異世界キッチンのカウンター席に座っていた。ドアにはクローズのプレートが掲げられ、客が入ってくるような雰囲気はなかった。
昼下がりの店の中は、水を打ったように静かだったが、ルイスは厨房で氷を砕いでいた。専門の機機器のようなもので氷を砕く音だった。見た事もない機器だったが、別世界の珍しいものはだんだんと慣れてきた。氷を砕く機械があっても不思議ではない。
砕いた氷は、器の上でフワフワと溜まっていた。氷といより雪だった。ルイスはその上に蜜をかけていた。ミルクのような白い蜜で、余計に雪みたいな氷に見えた。
「かき氷だよ、召し上がれ」
ルイスはメイの目の前に氷を差し出した。
かき氷という名前らしいが、このスイーツは見覚えがある。飢饉で死にかけている時、ルイスが作ってくれた甘い氷だ。あの氷はもっと大きくて雪とはいいが違ったが、見た目は似ている。
「これ、ルイスが昔作ってくれたのと似てない?」
「うん。飢饉で死にそうだった時だね。日本にも似たようなスイーツがあって驚いたよ。別世界といっても同じ人間だね」
「そっかぁ」
「ちなみに蜜は、うちの村のミルクで作ってみた。ちょっと乳臭くない? どう?」
ルイスは匂いを心配していたが、ほのかに甘い香りがした。
「どうぞ」
「いいの?」
「うん」
ルイスに促され、スプーンを持ち、雪のような氷をすくった。
口に入れると蜜の味と一緒にすっと溶けた。儚いぐらいだったが、本当に雪を食べているよう。儚いスイーツだった。最後の方は少し溶けてしまっていた。
食べながら、飢饉で死にそうだった時に食べた甘い氷の味も思い出す。
あの時は、ルイスに夢を飽きるなって励まされた。でも今のルイスは何も言わなかった。ただニコニコと笑っていた。子供の頃と全く変わらず笑顔を見ていると、なぜか泣きたくなってきた。
「ごめん、ルイス。私、やっぱり、夢は諦めようと思うの」
「そっかぁ」
「うん。汚いおじさんに抱かれるなんて絶対嫌……」
メイは器に残った溶けたか氷を見つめる。儚かった。夢もこの氷も。
「そっかぁ。でも僕に謝る事でもないよ。飢饉も地震も乗り越えて、よく生きてました。それだけで花丸だよ!」
ルイスはそう言ってメイの肩をトンと叩いた。そんな事言われて嬉しいわけではないが、今はそれで良い。
儚い氷だったが、今も少し舌の上で甘みが残っている。その甘みだけで十分だった。とりあえず、今は。
「じゃあ、メイ。帰ろうか?」
「ええ。今日は一日ありがとう。このかき氷、とっても美味しかったわ。また、来るわ」
儚いスイーツを食べ終えたメイは、ルイスに連れられて元の世界に帰った。もう夢から目が覚めた。こうして現実へ帰って行った。




