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異世界訳アリ料理店〜食のお悩み承ります〜  作者: 地野千塩


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最後のスイーツ(4)

 ワクワクした気持ちを持ちながら、ルイスと一緒に異世界キッチンの外に出た。ルイスもメイと同じような白シャツのジーンズ、サングラスという格好だった。なんか兄弟みたいで、ルイスの姿を見て笑ってしまった。


「きゃ!」


 しかし道に出ると、「車」というものがすぐ側にあり、怖い。思わず悲鳴を上げるとルイスが前を歩いてくれた。


 そうは言っても舗装された道は歩きやすい。日差しが強く、だいぶ空気も湿度がある。ちょっと歩いてだけで汗がビチョビチョしてきた。日本という国は暑くて多湿のようだった。


「ねえ、ルイス!」


 メイは前を歩くルイスに声をかけた。子供のころの印象が強いが、ルイスの背はメイより高く、ガタイもよかった。少し背伸びしながら声をかける。


「なんで日本人は、みんな口を隠してるの? そういう宗教?」


 ザーレナ国の周辺の小国では、女性は顔を全部隠すという宗教もあったが。


「まあ、宗教みたいなもんだよ。日本は何年か前から疫病が流行っていて、布を顔につけていると守られるんだって」

「へー、信じられない。布なんかで疫病は防げないわよ」


 素直にそう思う。王都でも定期的に疫病騒ぎがあったが、布では防げない。かえってそういったものが感染を広げてるケースもあった。


「だよなぁ」

「そうよ。それに日本人の目って死んでない?」


 すれ違った日本人の目は、暗く、濁っているように見えた。子供や女性は楽しそうな人も多いが、服装も地味で、どうも個性も感じられない。そういう国民性なのかもしれないが。


「まあ、そうだな。そんな日本人も僕の料理を食べて楽しくなってくれたら嬉しいよね」

「そっかぁ」


 夢を語るルイスの横顔は眩しく見えてしまった。


 そんな事を話しつつ、いつの間にか目的地に着いた。日本の住宅街に埋もれるようにある定食屋みたいだった。一見、家のように見えるが、中に入ると椅子やテーブルが並んでいた。あまり大きくない定食屋のようだが、日本人のカップルや家族連れが食事をしていた。どこか素朴な定食屋で、ここはザーレナ国の定食屋と雰囲気は大差ないように見えた。ルイスが気に入っているのもわかる気がした。それにしてもここに入ると涼しくて気持ちいい。これも何か最新技術の賜物だろうか。


「いらっしゃいませ!」


 店員に案内され、奥の方に二人で向き合って座った。驚いた事にルイスは日本語がペラペラだった。通訳はルイスに任せる事にした。


「どれがおススメ?」


 メニューを見せてもらったが、メイは日本語は全く読めない。写真賀ついていて分かりやすいメニューブックだが、どれも見た事がない料理ばかりだ。ご飯や麺を主食にしているのかパンは全く出てこなかった。あと全体的に色は茶色。


「オヤコドン賀いいよ」

「オヤコドン?」

「玉子と鶏肉とご飯の料理。玉子フワフワで美味しいよ。あとコロッケかなぁ。これはウチらの国の揚げ物料理とちょっと似てるね」


 ルイスはコロッケという料理野写真を指差した。確かにこれは形や色は見覚えにある料理だったが、せっかく日本にきてナーザレ国と似たような料理を頼むのは負けた気がする。メイはオヤコドンを頼む事にした。一方ルイスはコロッケとタマゴカケゴハンというのを注文していた。


 ルイスはペラペラな日本語で店員ともすぐ仲良くなっていたが、メイは何を言っているのかさっぱり分からない。ただ、店内は嗅いだ事も無いような良い匂いがして、食欲がそそられていた。日本人は死んだ目の人間が多い印象だったが、ここの店員や客は笑顔のものも多く、メイはちょっとリラックスしてきた。別世界といっても同じ人間に見えた。ただ国が違うだけ。それだけの事だと思えてきた。


「お待たせしましたー!」


 そんな事を考えていると、店員が食事を持ってきた。


「わあ、美味しそうじゃない」


 思わずそう言ってしまった。目の前にあるオヤコドンは、ご飯上にフワフワの卵が盛り付けてあった。卵の色が綺麗な黄色で綺麗だった。上に乗っている黒い紙みたいなものはなぜか気になったが、ルイスによるとノリという海藻らしい。卵は見た事あるがノリは初めてみた。香ばしい良い匂いもしてきてワクワクしてきた。


「食べてみて!」

「うん。イタダキマス!」


 メイは周囲の客の日本語を真似しながら、食べてみた。確かにオヤコドンは美味しかった。初めて食べたものだが、味が後をひく。味自体は素朴でシンプルだったが、フワフワな卵と鶏肉の相性もピッタリだった。汁が沁みたご飯もあっという間に食べられそう。


 一方、ルイスはのタマゴカケゴハンというのは奇妙な食べ物だった。白米に生の卵をかけている。生卵を食べる発想など全くないメイは、ただただ目を丸くしていた。特に白身は、ちょっと鼻水にも見えてしまって気持ち悪くなってきた。さすが別世界というか、食文化は全く違うようだ。


「ねえ、ルイス。タマゴカケゴハンって美味しいの?」


 メイはスプーンでオヤコドンを掬いながら目を顰める。やはり卵はオヤコドンのように火を通した方が良いのでは無いだろうか。


「美味しいよ。これが日本の味だねぇ。ちなみに日本は衛生的だから生卵も食べていいみたい。温泉卵っていう半熟のも美味しいけどね」


 ルイスは笑顔でタマゴカケゴハンを食べていたが、メイは全く理解できなかった。


「まあ、日本人もウチらのパンやミルク粥は受けないし、お互い様」

「でも店ではパンやミルク粥出してるんでしょ? どうしてるの?」

「日本人好みにちょっとアレンジしてるよ。研究だね」

「そっかぁ」


 笑顔で話すルイスだが、彼なりに陰で努力しているようだった。一方メイは、あっさりと夢を捨ててしまった。本当にそれでいいのか。誰かに言われている気もしてきたが、どうする事もできなかった。


 その後、この店を出て、ルイスにショッピングモールという所に連れていってもらった。ここは本当に別世界だった。天にまで届きそうな高い家だったが、「エレベーター」ちいう小さな箱に乗ると、あっという間に移動できた。ここは人も多く目が回りそうだったが、隣にルイスがいるので何とか移動できる状況だった。


「フードコート」という場所でタコヤキやオダンゴというのも食べたが、これは全く口にあわなかった。タコヤキの中にあるタコの食感は気持ち悪いし、オダンゴというのも甘すぎてネトネトしていた。ルイスは美味しそうに食べていたが、メイは首を傾げるばかりだった。


「メイ、やっぱりたこ焼きやお団子はハードル高かったね」

「うん、そうね。ちょっと疲れちゃったわぁ」


 見る物全てがナーレナ国と違い、新鮮だったが、心は落ち着かなかった。


「ま、そろそろ帰ろうか」

「そうね」


 日本はオヤコドン以外の食事は、あまり口に合わなかった。たぶん、慣れれば美味しいのだろうが。


「でも最後にうちの店で新作の試食品食べて行ってくれない?」


 すぐに帰ろうかと思ったが、ルイスのお店でそう提案された。


「日本のかき氷っていうスイーツだよ」


 ルイスは白い歯を出して笑った。子供時代と全く変わらない笑顔だった。

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