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異世界訳アリ料理店〜食のお悩み承ります〜  作者: 地野千塩


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イギリス料理(2)

 フィッシュ&チップスを食べた後、優吾は風呂に入るとすぐに寝てしまった。無職でグータラしている優吾だったが、意外と生活は規則正しかった。


 一方、茉奈は自室で仕事をしていた。スケジュールや金の管理はもちろん、クライアントへのメールやブログ記事作成など細々とした仕事が溜まっていた。和食やイタリアンのレシピブックや動画なども見て研究したかった。仕事をしていると、時間はあっという間に過ぎ、もう深夜になっていた。髪の毛を雑にくくり、部屋着姿で仕事している茉奈の姿は、世間のキラキラキャリアウーマンのイメージとはだいぶ違った。政府が言うように女性も仕事で輝くなんて言うには、上の上の方の女性しか許されないかもしれない。茉奈は仕事柄、金持ちのマダムにも会っているので、余計にそう感じてしまった。


 明日は昼から仕事だが、その金持ちマダムからの依頼だった。SNS映えするレインボーケーキとシュークリームの作成を依頼されていた。あの大きなお屋敷のようなマダムの家は何度も行っているが、庶民の茉奈は今だに緊張していた。


 そんな格差社会を思うと、茉奈も少し憂鬱になってきた。気晴らしにテレビをつける。隣に部屋で優吾が寝ているので、テレビのボリュームは下げる。


「へえ、異世界アニメかあ」


 テレビでは異世界転生もののアニメをやっていた。日本人のブラック飲食店勤務の料理人が、異世界に転生する。しかし異世界の飯は不味く、和食をつくって無双するといったストーリーだった。ストーリーは単純明快でエンタメ性も高く面白かった。


 主人公と茉奈の境遇は似ていて、何となく集中してみてしまった。元々アニメなども興味がなかった茉奈だが、ご飯が不味い異世界なんて最悪だ。茉奈も主人公にように和食を振る舞いたくなる。また、異世界の不味いご飯に対する主人公のリアクションがオーバーリアクションで面白い。気づくとゲラゲラ笑いながら視聴していた。


 石のように硬いパン、酸っぱいスープ、味にないスープ、油っこい鍋……。出てくる異世界の料理はことごとく不味そうだった。そして最後にフィッシュ&チップスが出てきた。


 衣がベトベトで匂いが悪いというフィッシュ&チップスがアップになった。


 さっきまで笑っていた茉奈だったが、フィッシュ&チップスのアップ画面を見ながら、優吾の事を思い出す。特に美味しくも不味くもない味の薄いフィッシュ&チップス。


「あれ?」


 アニメのフィッシュ&チップスを見ながら、茉奈は最近全く優吾の事を考えていないと気づいた。今日は一緒にフィッシュ&チップスを食べたが、昨日はどうしていたっけ?


 その前も全く思い出せない。アラサーにして記憶障害でも始まったかとも思ったが、昨日の仕事内容はよく覚えていた。


「あれ、あれ?」


 この時、気づいてしまった。茉奈はもう優吾に関心がなかった。一緒に住んでいるのに、彼が何をしようとどうしようと興味が持てなかった。そういえば、あのフィッシュ&チップスも異世界キッチンという珍しい名前のダイナーで買ったと言っていたが、何の興味も持っていなかった。


「そうか、私、優吾の事はもう好きじゃないのかも……」


 その事実に気づき、静かに打ちのめられそうだった。


 だからと言って、無職の優吾を追い出すのも忍びない。このまま別れて追い出すのも酷だった。


「うーん、どうしようかね……」


 茉奈はテレビをけし、スキンケアをしてからベッドに潜った。


 これから、優吾とどうすればいいんだろうか。愛していないと気づいた男と同居している状況は、気持ち悪い。でも優吾には情は残っているので、追い出す事も難しい。


「まあ、何とかなるでしょ……」


 そう呟き、目を閉じた。


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