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異世界訳アリ料理店〜食のお悩み承ります〜  作者: 地野千塩


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風邪の時(1)

 毎日の食事が苦痛だった。かといってハッキリと母に拒否はできなかった。久美はいわゆる優等生。悪い言い方をすれば良い子ちゃん。学校でもヤンキー風の派手な同級生からヒソヒソと悪口を言われた事があったが、文句は言えなかった。


「久美、ご飯出来たよ!」

「う、うん」


 母に呼ばれて食卓に向かうが、久美は無理矢理笑顔を作っていた。食卓には、コオロギのパン、コオロギ入りのペペロンチーノがある。パンはコオロギパウダーが入っているので、少し色が悪い。遠目では抹茶味のパウンドケーキに見えない事はないが、実際はそうではない。ペペロンチーノも遠目には昆布でもトッピングされているようにも見えるが、コオロギが丸ごと入っていた。


 いわゆる昆虫食と言われている料理だった。母は離婚後、スピリチュアルにハマり、霊媒師の先生から昆虫を食べるよう命令されているらしい。そうする事で「徳」が罪、幸せになれるらしい。お陰で毎日のように食卓に昆虫食が上がっていた。


 昆虫食は最近はメディアでも取り上げられてタンパク質豊富で環境にも良い食べ物らしい。芸能人でも昆虫食愛好家もいるという。


 しかし……。


 どう見ても異物混入にしか見えない。美味しそうとは決していえない。


 それでも母は徳が積めるというのでニコニコしながらコオロギパウダー入りのパンやコオロギのペペロンチーノを食べていた。冷静に考えると地獄のような食卓だが、我慢するしかなかった。


 心を無にし、目を死なせてパンやペペロンチーノを食べる。正直、全く美味しくない。徳より舌に優しいものを求めてしまうが、母にハッキリとNOと言えなかった。


 理由は二つある。


 一つは昆虫食はそこそこ世間でも取り上げられているからだった。学校の授業や給食でも食べた事があり、昆虫食NOとハッキリと言ったら、「悪い子」「空気読めないヤツ」と思われるのが怖かった。ネットで昆虫食と検索すると、陰謀論者が反対しているらしい。正直、陰謀論者と一緒にされるのは、嫌だ。人の目を気にする久美は、陰謀論者と思われるのが怖かった。


 二つ目は、母を傷つけたくない思いがあった。離婚した父は、浮気三昧の最低な男だった。スピリチュアルにハマり、そこに救いを求めてしまう真理はなんとなくわかる。母を否定するような事を言うのは、どうしても出来なかった。


 出来れば母との関係も穏便に済ませたい。良い子でいたい思いも強かった。良い子でいないと母に愛されないんじゃないかという恐怖心もある。もう高校生だというのに、心は小学生のように怯えている部分もある。


「ねえ、ママ。コオロギ本当に美味しい? お肉とか食べたくないの?」


 やんわりと遠回しに言ってみた。これで昆虫食NOと伝わるはずは無いだろうが、無理矢理笑顔を作る。


「実はお肉も玉子もやめようと思うの」

「え!?」


 信じられない。思わず声を上げてしまう。


「霊媒師の先生が言うには、お肉も玉子もは波動が低いんですって。動物たちの悲しみや苦しみの想念も入っているので、食べちゃダメだって」

「そんな……」


 もはや母が言っている事は、宇宙語のようにしか思えない。何を言っているのかさっぱりわらからない。昆虫食ばかりの食卓だったが、肉や玉子があるお陰でどうにか食べられていた部分があったのに。


「頑張って食事制限して昆虫食して徳を高めるの。久美も付き合ってね」

「え、でも」

「口答えしないでね。お母さん、もう誰かから否定されるのはウンザリなのよ」


 そう言われてしまうと、久美はこれ以上反論できなかった。


 食卓の上は昆虫食のパンやパスタ。見ているだけでも憂鬱になってくる。食事の時間が苦痛で仕方ない。これだったら食べない方がマシだとも思うが、人目を気にして優等生をやっていた久美にとっては、本音を言うのはハードルが高かった。もし母に嫌われたと思うと足がすくむ思いだ。


 やっぱり良い子にしてなくちゃ。良い子じゃないと母に認められないし、愛されない。


 久美はそう思い込んでいた。


「さあ、久美、食べてね」


 母は笑顔で促す。これ以上NOと言う事はできそうになかった。


 無理矢理笑顔を作り、道化のような気分だ。もしかしたら昆虫食をメディアで推している芸能人も内心は「こんなもん食わん。仕事だからパフォーマンスしてるだけ」と思っていたりして。


 その可能性も全く無いとは言えない。事実、久美は母の前では本音と建前を使い分けている。


「美味しい」


 心にも無い事も呟いていた。やはり、食事の時間が苦痛で仕方なかった。


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