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異世界訳アリ料理店〜食のお悩み承ります〜  作者: 地野千塩


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断食(2)

 眠れない……。


 ヨガスタジオに布団を敷き、仲間同士で雑魚寝していた。鏡ばりのスタジオのせいか、空腹にせいかわからないが、桃子の目はギンギンに冴えていた。そういえば初美は断食すると頭が冴え、睡眠時間も短くなるというのは本当かもしれない。


 他の仲間は熟睡しているようだが、桃子の目はいくら閉じても眠気が来ない。窓の外はもう夜だ。時計を見ても一時に近い。それでも全く眠れなかった。


 とりあえず給水室へ行き、水だけ飲もうと思った。この部屋にはウォーターサーバーと天然塩だけ置いてある。塩は断食中の頭痛防止のため、舐めてもよかった。


 紙コップに水をいれ、塩も少し溶かす。ほんの少しの塩味だけで、桃子の舌を安らいでいた。そういえば子供の頃は母が作った料理に文句ばかり言っていた。こうなった今は料理に文句を言っていた事が恥ずかしい。そういえば食の好みが偏っている人は性格もちょっと難しいタイプが多いように見える。そんな事に気付かされた断食は悪くは無いのかもしれないが、腹は全く満たされない。桃子はもう一杯水をくみ、塩を溶かして飲んだ。


「ああ、美味しくないけど、美味しいかも」


 あまりにも空腹すぎて意味不明な事まで呟いてしまった。今はすっぴんのジャージ姿。断食で心は弱っている。自分の存在はとても小さく見えてしまった。実際、そうなのかもしれない。アラサーの派遣社員なんて社会では小さな存在だった。


 そんな惨めさを感じていると、隣の部屋からテレビの音が聞こえてきた。確か隣は初美の事務所で、彼女がテレビを見ているようだ。


 どうもアニメを見ているらしい。異世界転生もののアニメらしい。食文化が酷い異世界に転生したヒロインが和風を広めるストーリーだった。音だけでも楽しそうなアニメだと伝わってくるが、断食中の今だと不味い異世界料理もそこそこ悪く無いんじゃないだろうかと思ってしまったりした。


「こんな石みたいなパンなんて!」


 ヒロインが叫んでいるが、石みたいに硬いパンのどこが悪いのかわからない。


「こんな酸っぱいスープなんて飲めない!」


 そうか?


 ビネガー味のスープなんて美味しそうだが……。


「油っこい鍋なんて無理!」


 それはアヒージョでは?


「味のないスープ!」


 いや、塩水よりマシ。


「臭いミルク粥!」


 食べらば何でも良くない?


 そもそも他の世界からのお客さんの割に偉そうだな……。


 断食中の桃子は、異世界アニメへのツッコミが止まらなかった。我ながらこんなアニメにツッコミを入れているのは性格が悪いと思ったが、空腹で頭が変になって来てのかもしれない。


「もう無理!」


 アニメの音を聞きながら限界だった。桃子は財布とスマートフォンだけ掴み、ヨガスタジオを後にしていた。


 とにかく食べ物が食べたい。何でもいいから食べたい。


 こういった断食合宿では途中で耐え切れなくなって脱走する者が多いらしいが、桃子はその理由がよくわかる気がした。


 今は異世界の不味そうな料理でも何でもいいので食べたい。


 頭の中の石のように硬いパン、酸っぱいスープ、油っこい鍋、味のないスープ、ミルク粥が巡っていたが、どれも美味しそうに思えてしまった。


 全く重症だ。一般的にはまずい料理がこんなに美味しそうに見えるなんて。


 それぐらい桃子のお腹は限界に達していた。

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