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異世界訳アリ料理店〜食のお悩み承ります〜  作者: 地野千塩


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断食(1)

 頭の中には、ハンバーガー、フレンチフライ、唐揚げ、ピザ、寿司、ステーキがぐるぐると踊っていた。みな小林桃子の好物だった。


 桃子のお腹もぐるぐるとなる。今すぐにもでもコンビニに駆け込み、美味しい食べ物にありつきたかったが、出来ない事情があった。


「さて、意識を集中させ、高次元に上昇していきましょう!」


 桃子がいるヨガスタジオにインストラクター・草野初美の明るい声が響いた。


 ここは鏡で囲まれた綺麗なヨガスタジオ。桃子は、ここでヨガを習っていたが、今日は断食合宿中だった。初美の指導の元、何度か断食合宿をやっていたが、今回の断食はかなり辛かった。


 周りを見渡すと、桃子と同じ歳ぐらいのアラサー女性ばかりだ。ヨガスタジオの中は十人ほどの生徒がいるが、断食乃せいか、みな表情がやつれていた。パステルカラーのヨガマットやヨガウェアは可愛らしいのに、桃子の顔つきはすっかり老け込んでいた。


 一方、インストラクターの初美はキラキラの笑顔で指導を続けていた。ヨガのポーズだけでなく、宇宙に繋がるとか次元上昇とかスピリチュアル風の説明もしていたが、桃子の耳には入ってこない。頭の中はジャンキーな食べ物ばかりがぐるぐると回っている。


 初美はいわゆる意識が高いキャリアウーマンではない。一応大手銀行でカスタマーセンターの仕事をしているが、派遣社員。元々胃腸が弱く、よく吐いたり、頭痛を起こしておたが、病院に行っても原因不明。そんな折、民間の健康療法にハマり、初美のヨガスタジオに通っていた。正直レッスン代はかさむが、月に何回か身体を動かし、断食すると、身体の調子が良くなってきた。


 初美によると、食べ過ぎが万病の元らしい。消化に体力が使われ、身体が弱くなっていくらしい。ヨーロッパでは3食食べるのは医者の為という諺もあるらしい。


「さあ、引き続き瞑想しましょう。断食も続けましょう!」


 明るい初美の声が聞こえてくるが、桃子の頭はクラクラとしてきた。断食合宿はあと二日もある。それまでに耐えられるかわからない。


 瞑想もしてみたが、ずっと頭の中は食べ物ばかりだ。空腹すぎて辛すぎる。


 確かにヨガスタジオに通い始めてから健康的になっていたが、こんなので本当に効果があるのだろうか。瞑想に集中しなければならないのに、猜疑心まで出て来た。


 ぎゅるるる。


 お腹は虚しい音をたてていた。同じくこの断食合宿に参加している仲間は目が死に、顔つきもげっそりしているのに、初美は色艶も良く、目も爛々と輝いていた。年齢はアラフォーらしいが、明らかに年齢不詳だった。断食すると若返り遺伝子がオンになるらしいが、確かに講師として説得力はある。


「さあ、頑張って、断食続けましょう!」


 初美は元気だったが、桃子の目は完全に死んでいた。


 あぁ、ハンバーガーが食べたい……。


 そんな事は決して言えないが、桃子の頭の中は食べ物しかなかった。


 何でもいいから食べたい!


 嫌いなピーマンや豆腐もご馳走だと思えるぐらい、桃子は空腹に苦しんでいた。

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