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異世界訳アリ料理店〜食のお悩み承ります〜  作者: 地野千塩


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ミルク粥(1)

 夫とこんなに食の趣味が合わないとは思わなかった。


「朝からよくパンなんて食えるな。あんなもん、腹にたまんないだろう」


 夫はそう言って味噌汁を啜った。彼の前には

味噌汁、白米、白菜、焼き鮭という美味しそうな和食。


 一方、由乃の前にはよく焼けたトースト、ジャム、目玉焼きという美味しそうな洋食だった。由乃は去年結婚した。まだ新婚といっていい時期だが、食卓は氷河期が訪れていた。


 とにかく夫と食の趣味が合わない。由乃はパンや洋食派。一方、夫は健康的な和食が好きだった。夫はゲームクリエイターで経営者でもある。健康にも気を使っていた。朝食の後は、ジョギングして職場に向かう意識の高さ。


「いいじゃない。パンもおいしいよ?」

「いいや、けっこう」


 夫はそう言うと、無言で朝食を食べ終え、ジョギングに出掛けてしまった。由乃はホッとしてパンをもう一枚焼いて食べ始めたが、美味しくは感じなかった。夫とは食の趣味が合わない。他の性格も合わないような気がする。そもそも格差婚だった。事務職の女と経営者。年齢も由乃より十二歳も上だった。


 漫画やドラマでは、こうした格差婚もシンデレラストーリーとしてあるらしい。しかし、こうした格差婚のその後を書いてあるものは、少なかった。


 結婚後、由乃は仕事を辞めて夫を支える事に専念していたが、まさかこんな所に相違があるとは、想像つかなかった。結婚前は色々と浮かれていて、こう言った違いがあるとは、思っていなかった。今思うと、デートでも夫の趣味に合わせて演じていた部分もあるかもしれなかった。


 朝食も由乃が全部用意しているわけだが、和食と洋食を作るのは手間がかかる。それでも食の趣味が合わない夫との良い折衷案とも思っていたが、今は余計に食の趣味の差が浮き彫りになっているように感じたりもした。


 由乃が夫に合わせればいい。単純な事だったが、結婚してすぐに朝食のメニューで喧嘩した。夫は洋書を健康に悪いとバカにし続けてカチンときてしまった。要するに意地で洋食を食べ続けていた。ちなみに夕食もこんな風にわけている。食卓だけ見ると、とても仲の良い夫婦み見えない。また、支度も面倒だった。夫のためだけに和食を作っていると、イライラしてしまった。


 結婚生活はもっと楽しいものだろうと思っていた。漫画やドラマを見ると、新婚生活は甘く幸せに表現されているものが多い。それなのに食事の趣味だけで、こんな状況になっているのが情けなくなってくる。


 由乃は食べ終わった食器を片付けながら、頭の中に「離婚」の文字が浮かんでいた。確かに結婚前はワクワクしていた。結婚式では「病める時も健やかなる時も愛する」と誓った。それでも食もの趣味が、こんなに夫と会わないのは、困っていた。


 それに夫のために和食を作っても、味漬けや野菜の切り方などを事細かにケチつけられる事があった。モラハラと言えるか謎だが、料理を作るやる気も失う。それに夫は多忙で、なかなか家に帰って来ない事もあった。今日も事務所に泊まりがけだった。


 わかっていた事だが、寂しい。一体何の為に結婚したのかよくわからなくなってきた。


 出会いは車に惹かれそうになった子猫を由乃が助け、それを見ていた夫は一目惚れしたのがきっかけだった。まりで漫画やドラマみたいな出会いで、友達にはシンデレラストーリーみたいだと言われる事もあった。


 今思えばあの劇的な出会いがピークだった。だんだんと熱が冷め、今は綺麗な平行線を辿っているようにも感じてしまった。


 毎日の食事作りも苦痛で仕方がない。世の中にあるシンデレラストーリーを探しても食事の趣味で相手と不仲になったという展開のものもなく、全く参考にもならない。童話シンデレラだってその後幸せになったか書いていない。王子と食事の趣味が合わなかったかもしれないし、城での生活に退屈してかもそれない。もっともシンデレラのようなプリンセスは、自分で食事を用意する必要はないので、こんな事では悩んでいなかったかもしれないが。


 こんな事に悩んだ由乃は、何気なく友達に相談してみた。すると、「飲食店の料理を食べて、それを再現してみたら?」とアドバイスされた。


 悪くないアイデアに見えた。


 夫は育ちも良いし、美味しいものに食べ慣れているのも問題の一つだったのかもしれない。友達のアドバイスに素直に従った由乃は、家の近くの飲食店を調べてみる事にした。完全に真似ができなくても見た目や盛り付けなどは参考になるかもしれない。


 確か近所に和食の店があったはずだが、潰れていた。おそらくコロナの影響でチェーン店ばかりになっていた。


 そんな現実を知ってしまうと、自分の悩みは贅沢なのだろうか。確かの由乃は勝ち組と言える主婦だった。まだ子供も居ないので、時間にもゆとりはある。


 そう思うと、社会からも取り残されている焦りも感じてしまった。


「どうしたら良いんだろう……」


 もしかしたら友達もこんな事で悩んでいる由乃に呆れているかもしれない。夫も愛想を尽かしているかもしれない。悩んでいると被害妄想のような思考に支配され始め、再び頭に「離婚」の文字が浮かんでいた。

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