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異世界訳アリ料理店〜食のお悩み承ります〜  作者: 地野千塩


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黙食(2)

 徐々に日常に戻っていた。テレビのニュースでは感染者数も増えているようだが、大学では

マスクをしていないものも多く、疫病ムードが薄まっていた。確かにマスクは自由だが、優香はモヤモヤとしていた。


 そんなある日だった。大学の陽キャにはなしかけられた。田嶋瑞穂という名前で、授業で会うたびに話しかけられた。


 瑞穂は当然にようにマスクなどしていなかった。茶髪に派手な化粧、勉強もやっていないようなのの、なぜか平然としていた。


 陽キャに話しかけられるのに慣れていない優香は、毎日気分が悪かった。マスクもしていないのに堂々としている。


 そんな瑞穂に誘われ、一緒に学生食堂に行くことになった。最初は断ろうとも思ったが。トイレでお昼ご飯を食べていると言うと、泣きながら止められた。


「そんなトイレで食事なんてダメだって」

「えー?」


 なぜ瑞穂が泣いているかはわからなかった。


 しかし相手に泣かれてしまうと、断りにくい雰囲気だった。仕方がないので、瑞穂と学生食堂に向かった。この大学は一応女子大なので、カフェテリアといった雰囲気の学生食堂だった。一応雰囲気はオシャレで、学生達で混み合っていた。その多くはマスクもつけておらず、ペチャクチャとおしゃべりに夢中だった。


 あぁ、高校時代の黙食が懐かしい。あれは陰キャには最高のシステムだった。目的は一応感染症対策だが、あんな心地よいシステムはなかった。


 混み合う学生食堂で食券を買い、注文したカレーライスを受け取り、瑞穂と一緒に二人がけのテーブルに座ったが、居心地悪くて仕方がない。


 優香はマスクを外し、無言でカレーを食べはじめた。一方、瑞穂はニコニコ笑いながら冷やし中華を食べれている。何が楽しいのかさっぱりわからない。


「でも黙食なんて終わってよかったよね」


 瑞穂はしみじみと呟く。一体どう言う価値観なのかわからない。優香にとっては黙食は最高のシステムだった。


「そうかな」


 人と食事をし慣れていない優香は、緊張してスプーンを落としそうになっていた。トイレでおにぎりやサンドイッチを食べている方がよっぽど楽しい。


「私は黙食の方が良かった」

「えー? 信じられない」


 瑞穂は珍獣でも見るかのような視線を向けて来た。


 カレーを食べるが、全く味がしない。あぁ、また感染者が増えて黙食徹底してくれないかな。優香は全く本末転倒な事を考えていた。


「他人と食事をするのは大事だよ。実は私、高校の時にいじめられててさ」

「へえ」


 そうは見えないが、瑞穂は元陰キャ?


 だとしたら、優香に話しかけている理由が何となくわかって来たが、正直うざったいのが本音だった。


 それにしても久々に誰かと食事するが、一体何が楽しいのかやっぱりわからない。


「私は人が好きなんだよね」


 瑞穂は目をキラキラさせながら語っていた。元陰キャらしいが、人への信頼や愛みたいなものは、持っていそうだった。それはどうしても優香には持てないものだった。陽キャと陰キャの決定的な差を感じてしまい、イライラもしてきた。やっぱりこの人とは分かり合えない。


 優香はカレーを半分以上残し、学生食堂を後にした。


「えー、待ってよ」


 瑞穂は残念がっていたが、無視した。


「コロナ禍だし、近寄って話しかけないで」


 最後にそんな事まで言ってしまった。自分の心にはアクリル板があるのかもしれない。心もソーシャルディスタンスやっていたが、これは感染症対策では無いだろう。


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