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異世界訳アリ料理店〜食のお悩み承ります〜  作者: 地野千塩


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黙食(1)

 陰キャ。


 この言葉は、クラスのカースト底辺にある子供をさすと言われていた。コミニケーション力、学力、体力などが劣っているキャラクターという印象もあるだろう。いじめられっ子=陰キャといえば分かりやすいか。


 栗崎優香は、そんな陰キャという言葉にピッタリな存在だった。声もボソボソと低く、髪の毛も酷い天然パーマ。背も猫背で、目も細い。明るく元気な印刷はどこにもない存在だった。


 中学時代は最悪だった。クラスの陽キャに目をつけられ、ずっと揶揄われていた。いじめというのには軽すぎるので、担任も取り合わず、悪く言われたままだった。


「陽キャ死ね!」


 決して口には出さないが、心の底ではずっと陽キャについて呪っていた。ノートに陽キャを殺す方法なども考えた事がある。それぐらい優香は陽キャが嫌いだった。いや、憎んでいた。


 家も裕福ではない。容姿に冴えない。コミニケーション能力もない。その一方で、陽キャたちは人生を楽しんでいる。こんな格差ってなんだろう。陽キャたちは家も裕福で、容姿もいい。ずっと褒められて育っているので、コミュニケーション能力も高い。そんな格差を思うと、優香はたやるせない思いがした。


 毎日の学校が辛く、勉強も身の入らない。そうこうしているうちに受験シーズンになり、無理矢理暗記をし、とりあえず近所の公立高校に入学した。全く勉強をしない割で一夜漬けだったが、受験は乗り越えられた。


 しかし、ちょうど高校に進学した頃からコロナ騒ぎが始まった。マスクもほぼ義務となり、人との距離も取るようになった。運動会、文化祭、修学旅行などの行事も延期、中止、短縮になったりもした。


 学校の昼休みも黙食ルールが徹底され、グループを作って食べなくても良くなった。むしろ机に座ったままのボッチ飯が許された。


 優香は、こんな疫病騒ぎが内心嬉しくて仕方がなかった。とりあえずマスクをしてワクチンを打っているだけで優等生に見られるのもコスパが良かったが、陽キャ達が楽しむような行事が潰れて「ザマァ!」だった。家に引きこもって漫画をやっていても、なぜか親や先生にも「自粛していて偉い」と褒められた。


 何より昼休みが最高だ。ボッチ飯でも許される。黙食バンザイ! 黙って一人で食事をすることが「良い事」になるとは、想像していなかった。中学の時は陽キャに教室を追い出され、トイレでお昼ご飯を食べた事がある。黙食推奨最高! 優香にとっては、パンデミックのある世の中は、ボーナスステージみたかった。頭も冴えて勉強もよく捗った。


 調子に乗った優香は、SNSにアカウントを作り、陰謀論者や反ワク派などを叩いていた。あいつらは黙食をやめさせようとしていたし、今の天国状態を邪魔する害虫だった。本当に世の中をよくする為に彼らを叩いているわけではなかった。


 SNSで陰謀論者達を叩いていると、強い虎になった気分だ。ちょっと前では少数派で陰キャだったが、感染対策をしっかりやるだけで多数派のマナーの良い良い人になれる。社会的強者になれる。こんな楽な事はない。


 こんな楽な事はない。本心ではずっと疫病騒ぎが続いていて欲しかった。修学旅行も中止になって超嬉しい。


 しかし、こんな夢のような時間は長く続かなかった。


 高校を卒業し、大学入学した頃、マスクも自由になり、五類になってしまった。こうなると行動制限などの強制力も減るらしい。


 優香が通っている女子大でもマスクを外しているものが増えてきた。夏が近づくに連れて優香のような二重マスク派も少数派になっていた。学生食堂もアクリル板が撤去され陽キャ達が占領し、再び優香はトイレでぼっち飯になった。


 梯子を外された気分だった。今までの天国状態はどこにいったのだろう。


 黙食戻ってきて!


 そう叫びたくなるが、リアル世界ではとても言えない。SNS上では虎だったが、優香の現実は相変わらず陰キャだった。

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