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異世界訳アリ料理店〜食のお悩み承ります〜  作者: 地野千塩


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パサパサ米(2)

 ターゲットの男は、フリーライターだった。どうやら家で仕事をしているらしい。ゲームのシナリオなども手掛けているようで、そこそこ人気もあるらしいが、貧困老人や氷河期世代を「努力不足」「自己責任」とばっさり切っていた。


 ネットでは軽く炎上もし、嫌われているようだったが、ファンもいて、フォロワーも十万人ぐらいいた。ファンから小銭やプレゼントも貰っているようで、真美は下唇を噛みたくなる。やってる事は、炎上ビジネス&カルト教祖みたいなものではないか。


 真美は地図アプリを見ながら、男の家を探した。慣れない土地の住宅街で、道に迷った。とりあえず、コンビニに入り、ペットボトルを買う。イートインスペースに入り、一休みした。いつもはペットボトルも買うのを躊躇してしまうが、どうせ人殺しになるのだから、どうでも良かった。


 昼下りのコンビニは、他に客がいない。外国人と思われる女性が品出しをしていた。肌や髪の雰囲気からして、店員はタイ人かもしれない。


「タイか……」


 真美は思わず小さく呟く。


 1993年、日本は冷夏で米不足になり、タイ米を輸入した。いわゆる平成の米騒動というものだった。当時、真美は商社の男と婚約していた。一見優しい男で、顔も良かった。当時の感覚だともう生き遅れの年齢だったので、この結婚は逃す事が出来なかった。母からも絶対に結婚しろと言われていたし、今のようにキャリアウーマも多くはなかった。


 ただ、婚約者の男は、食についてかなり口煩い男だった。タイ米でおにぎりを作って持っていったら、「まずい」と一刀両断された。その上、目の前でゴミ箱に捨てられ、ショックだった。当時の真美もまだ初心な所があった。


 真美はタイ米は嫌いではなかった。多少パサパサしていたが、普通に美味しかったし、家も貧乏った。ありがたく頂いていた。この婚約者の態度を見て「結婚はないな……」と思った。真美としては、食べ物を無駄にする感覚が全くわからない。この男はタイ米だけでなく、イギリス料理や韓国料理も馬鹿にし、日本食が一番とも言い張っていた。確かにそうかもしれないが、他国の食事を見下す様子に、この男は子供や女性を本当に大切に出来るかわからなくなり、婚約を断った。


 母は怒っていたが、今考えても、あの男と一緒になる未来が想像できない。まあ、今は犯罪者になろうとしているのだから、結婚しておいた方が良かったのかもしれないが、あの男と一緒になるぐらいだったら、死んだ方がマシそうだった。それぐらい嫌悪感を持ってしまった。


 そんな事は、どうでもいい。今は早くターゲットを指しに行かなければ。すぐに警察に捕まりたいが、自主したら罪が軽くなったりするのだろうか。できれば死刑になり、孤独死を回避したい真美は、より刑が重くなる事を考えていた。そういえばターゲットの男は、子供と妻もいた。全員刺してしまえば、死刑確実だろう。


 限りなく悪い事を想像しつつ、ペッ登場ボトルの中身を飲み干し、コンビニを出た。店員がこちらを見た気がしたが、気にしない事にした。どうせもう刑務所行き。どうでも良い。


 なぜか頭の中に1993年に食べたタイ米が浮かんでいた。


 確かにパサパサして、日本の米とは違った。細長く、もちもちしていなかったが、貧乏人にとっては、ありがたい恵みだった。


 刑務所に行く前、あのタイ米を食べたいと思ったりした。なぜかさっぱりわからないが、パサパサしたお米が、今の気分では一番ピッタリだった。


 食べたい、タイ米が食べたい……。


 真美のお腹は、グルグルと小さな音をたてていた。

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