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異世界訳アリ料理店〜食のお悩み承ります〜  作者: 地野千塩


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肉と塩(4)

 異世界キッチンの中に入店したが、転移も転生もしていないようだった。店の中は、極めて普通だった。チョコレートカラーを基調とする落ち着いた店づくりで、ボックス席やカウンターの赤色の椅子だけが妙に目立っていた。


 店の左側は四人がけのボックス席が二つ。右側はカウンター席が四つあり、客が酒を飲んでいた。カップルか夫婦で来ているようで、こちらが困惑するほどラブラブで、酒を飲んでいた。ふわりと出汁の香りもする。和風出汁ではなく、肉でとったもののようだ。その匂いだけは悪くないが、単なる美食が出てきても面白くは無い。


「いらっしゃいませ!」


 そんな失礼な事をかんがえていたら、店員に出迎えられた。


 訛りのあるカタコトの外国人だった。舞子の心臓はドキドキとはねていた。異世界転移や転生は出来ないようだが、この店はアタリかもしれない。なぜかわからないが、カタコトの変な日本語を聞きながら食べる料理は、 妙に美味しく感じる。


 店員は、カレー屋で見るようなアジアやインド人では無いようだった。おそらくヨーロッパ圏の男だろう。短髪だが、色は金色。証明によって透明に助けていた。色黒で体格もよく、白シャツとエプロンが妙に板についている。いわゆる細マッチョという体型だが、もやし体型の人間よりはこんな料理人の方が合っているように感じる。料理は肉体労働でもある事は、舞子も知っていた。


 しかし、カタコトの日本語はどこ出身か特定できない。英語でもフランス語でもなく、アジア圏の訛りでもない。


「もしかして、異世界の人ですか?」

「ははは。まさか、そんな事はあるわけないじゃないですか。さあ、ボックス席へどうぞ」


 軽く流されてしまった。確かの異世界なんてファンタジーだ。現実的ではない。きっとマイナーな小国の人だろう。そう結論づけながら、ボックス席に座った。メニューと水ももらう。


 ボックス席の方の壁には、写真が何枚か貼り付けてあった。舞子はメニューよりも、そちらに釘付けになる。写真はファンタジー感溢れていた。猫耳の男女や魔法使いや妖精のような格好をした女性など、コスプレやハローウィンの仮装のような写真だった。しかし、全員堀が深い西洋人風のルックスのせいか、コスプレ感が薄い。リアル見えてしまい、舞子の目は丸くなっていた。


「あの、この写真何? コスプレ? いえ、異世界???」

「そうなんですよ」

「え!?」

「いえ、私や友達は異世界もののアニメが大好きで」


 店員は満面の笑みを見せた。これ以上追求させない圧を感じるような笑みで、舞子は言葉を失った。


「メニュー決まったら、呼んでくださいね」

「え、ええ」


 店員はメニューブックと水をおくと、カウンターの内側にある厨房の方へ戻っていく。カウンター席にいる常連客らききものの笑い声が響くが、舞子は困惑していた。


「まあ、でも異世界なんてファンタジーだし」


 そう自分に言い聞かせて、メニューブックを開いた。こんなおかしなダイナーだったら、自分が要求するものもあるかもしれない。期待に胸を躍らせる。


 メニューブックを開くとさらにワクワクしてきた。かなり個性的なダイナーのよう。石のように硬いパン、酸っぱいスープ、味のないスープ、油っこい鍋まど珍妙な料理名が並ぶ。だいたいの料理は想像がつくが、高級寿司店にいるよりよっぽど胸がワクワク踊っていた。


 それにメニューブックの最後にある「食に関するお悩み相談に乗ります 0円」って何? 


 ダイナーの店主なのにカウンセラーのような事をやっているのだろうか。ますます面白くなってきた。ただ、相談は今日はやめておこい。とりあえず今日は、この店主の味を確かめたい。


「すみませーん、店員さん」


 カウンター席にいる客の笑い声に負けなくらい声を出し、あの外国人の店員を呼ぶ。すぐに舞子の方へやってきた。


「この酸っぱいスープと、石のように硬いパンで注文できますか?」

「かしこまりました!」

「でも石のように硬いと食べられないじゃない? もう少し食べやすいのにアレンジして持ってきてくれる?」


 一瞬、店員は怯んだような顔を見せた。舞子のリクエストは予想外だったらしい。この反応を見てたら、舞子も面白くなってきて笑ってしまう。高級寿司店では味わえないワクワクが胸を占めていた。


「かしこまりました!」

「ええ。楽しみにしてるわ」


 意地悪なリクエストかと思ったが、舞子は受けて立った店員に心の中で拍手を送った。客の要望を突っぱねない様子から、プロ意識は高そうだった。


 料理が出来上がるまで、しばらく待っていた。壁にある写真は、どう見てもリアルだ。コスプレ感がない。やっぱり異世界? 


 しかし、異世界なんてリアルにあるのだろうか。とりあえず確実にわかっている事は、店主が外国人。変なメニューを出す。異世界ものの娯楽が好きぽい事だ。本当に異世界かどうかを判断するのは、味を見てからだ。


「お客様。パンはフレンチトーストにアレンジしてみました」


 そんな事を考えていると、店員がやってきた。舞子の目の前にスキレットに乗ったパンとスープを置く。甘い香りがふわふわと漂う。どうやら硬いパンは、フレンチトーストとしてアレンジしたようだ。黒っぽいパンは、黄金色の衣に包まれ、ゴールドストーンのようだ。まあ、悪くないアレンジだ。


「では、ごゆっくり」

「ありがとう」


 まずはフレンチトーストからいただく。確かに衣がつき、かなり柔らかい。中のパンは黒っぽいライ麦パンのようだが、噛みごたえもあり、普通に食べても悪くなかったかもしれない。日本人が柔らかなパンを好むのは、米文化の影響が強い。日本人が食べているフワフワなパンは、実質モチモチとした米や餅の亜種みたいなものなのだろう。一方、この硬めなパンは、ちゃんと麦の味もする。別にフレンチトーストになんかしなくても、そのまま食べても不味くなかったかも。


 次は酸っぱいスープだ。野菜がゴロゴロ煮詰められたトマトスープ。酢も入っているのか確かに酸っぱい。色も透明感があるが、野菜の甘みに相殺され、あまり気にならない。おそらく野菜は日本産のものを利用しているので、甘みがある。たぶん、この店主の本国の野菜を使ったら、また味が変わるかもしれない。


 まあ、普通。


 ワクワクした割には、普通だった。舞子が求めている料理ではなく、ガッカもしてきたが、高級寿司屋よりはエンタメ性がある。名前の割には普通だが、店主が気になる。


 本当に異世界人?


 料理の味は思ったより普通だったが、別の要素が気になる。舞子は、しばらく異世界キッチンに通うようになっていた。

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