肉と塩(1)
コロナ禍の後、舞子は自宅でご飯を食べる事が多かった。
ネットで簡単に注文ができ、コロナ禍後は少し太った。和、洋、中華、アジアと美味しいものは山ほどある。舞子は毎日、毎日豪勢な食事を楽しんだ。
元々厳しい両親に育てられ、食べる料理も禁止される事が多かった。ソーセージやスナック菓子も添加物がはいっているからと禁止され、地味な和食で育った。地味な和食が悪いわけではないが、友達と遊びに行った時、ファストフードも食べられないのが気まずかった。
こうして大学になり一人暮らしを始めたら、押さえていたものが切れてしまった。ソーセージ、スナック菓子はもちろん、ファストフードもいくようになり、毎日自宅で美食を楽しんだ。
体重の問題もあったが、それよりは食べたい欲望を追求していた。
そのうち、家での美食三昧も飽き、各国の料理を調べ、自宅で再現する事もあった。料理代行業者があり、頼むと再現してくれた。ベトナムの料理なんかも案外美味しかったが、それもだんだんと飽きてきた。
まるで自分の欲望は、すぐに乾いたしまうスポンジみたかった。いくら水を吸い込んでも、あっという間に乾いてしまう。
今まで食べた料理をまとめ、電子書籍出版などもしてみたが、それもすぐに飽きてしまった。意外と電子書籍は売れてしまい、日々の食費はここから賄われたが、舞子の心は飢え乾いていた。
もっと美味しいものを食べたい!
そんな欲望通りに、美味しいものを探しているのに、理想的なものは一つも食べていない。
そのうち舞子の趣味は、おかしな方向に逸れていった。美味しいお店はどこにあると気づき、わざと不味い店をさがすようになった。特に町中華やインドカレー屋は不味い店が多く、探しがいがあった。
ただ、不味い店は他の人には需要が無いためか、すぐに潰れてしまい、長く通う事ができず、不満だった。どうやら、自分の理想のお店は、一つもない。余計に飢え乾く。大学生活の傍ら書いた電子書籍の収入はあるが、理想のお店はお金では解決できない気がしていた。
そんな折、大学の同級生がパパ活をやっている事を知った。
「まあ、舞子もパパ活やってみたら?」
しかも誘われてしまった。
「でも、わたし、ぽっちゃり系だし」
美食三昧の日々で、舞子の体型は丸みを帯びていた。
「大丈夫。ぽっちゃり好きのおっさんとか居るから」
「でも」
さすがにパパ活はどうなんだろうか。舞子はお金に困ってはいなかった。
「暇つぶしにパパ活やってみたら? 私も暇つぶしにやってるし」
「へえ」
「舞子好みのパパを紹介あげるよ」
そう言われてしまうと、好奇心が刺激されていた。パパ活なんて言われると、ハードはだいぶ低い。厳しかった父や母の困惑した表情を想像すると、余計に好奇心が刺激されていた。自殺や殺人などをする人達は、両親に復讐している所もあるのかもしれないと思った。もし、愛されて育っていたら、それは抑止力になる。今の舞子にはそんな抑止力は無かった。
「美食家のおじさんって知らない?」
「あー、舞子は食べるの好きだもんね。オッケー、後で紹介するわ」
こうして舞子は、パパ活をする事になった。お金やおじさんに興味はない。自分が知らない美味しい物を知っている男と出会いたかった。それぐらい舞子は、今までに見たことも無い美味しいものが食べたかった。




