油っこい鍋(3)
このダイナーの料理は、全体的のおかしいようだった。メニューには、石のように硬いパン、酸っぱいスープ、味のないスープ、油っぽい鍋など、全く美味しそうではない料理名が書いてあった。
値段はワンコインぐらいなので良心的だったが、この料理は一体なんだろうか。確か異世界アニメでも似たような不味い料理が出てきた。石のようの硬いパンや油っぽい鍋はアニメで見たことがある。それで主人公が美味しい日本食を振る舞い、みんなから愛されていくストーリーだった。
逆に何で異世界風の不味そうな料理がここのにあるのか?
皐月は首を傾げ続けていた。まあ、異世界は下水道の設備はよくなさそうなので、日本の水道で作ったなら、それだけでも美味しくはなりそうだった。
さっきは不味い料理でも良いなんて思っていたが、こうして異世界風のメニューを見せられると、ドキドキしてきた。確か異世界アニメでは主人公が不味い料理を食べて嘔吐してしまうシーンもあったが……。
しかし、常連客は楽しそうだし、店内はスープやコーヒーの良い香りが混じりあっていた。そこまで壊滅的に不味くは無いかのしれない。
大丈夫だろうと、メニューブックを閉じようとした時、再び目が丸くなった。
「食に関する相談に乗ります 0円」
全く予想外のメニューが最後に書いてあった。こんなメニューは、アニメでも見た事はなかった。
「お待たせいたしました!」
ちょうどそこに店員がやってきて、テーブルの上にサンドイッチとコーヒーを置いた。チョコレートカラーのテーブルの上の料理があると映える。しかし、今はそれどころではない。
「店員さん、このメニューってなんですか?」
「ああ、これですね。本当にタダで相談に乗りますよ」
店員は白い歯を見せながら笑う。クシャリと笑いジワが出来、とても嘘をついているようには見えない。少し日本語が訛っているおかげで、より純粋そうに見えてしまったというのもあるが。
「何かお悩み無いですか?」
キラキラした目で再び質問してきた。
ふと、頭の中に夫から言われら数々の言葉や態度、コンビニで買っておにぎりやサンドイッチが頭に浮かぶ。美味しくないコンビニの料理、散らかった部屋、異世界アニメ。
色んな映像が頭を駆け巡るが、皐月はこう言っていた。
「いえ、今は思いつかんかな」
「そうですか。では、ごゆっくり」
店員は伝票を置いてカウンターの内側にある厨房の方へ向かってしまった。
サンドイッチは2種類あった。生ハムとレタスのものとクリームチーズとトマトのものだった。三角状ではなく、パンは半月型に薄くスライスされていた。おそらくライ麦パンで生地は土色だった。ぎっしりとすた生地で、空気感はない。確かに異世界アニメで嫌われている石のように硬いパンを使っているようだったが、こうしてサンドされていると、不味そうではない。特に端から見える生ハムは、スーパーで売っているものと違い、油がのり、ツヤツヤだった。
マグカップに入ったコーヒーもいい香りだ。たぶん、このコーヒーは普通に日本で売られているものと大差ないが、このサンドイッチと合うだろう。これで値段はワンコインだった。コンビニでサンドイッチとコーヒーを買うよりは、コスパは良いかもしれない。
メニューはだいぶ変だったが、悪い店では無いだろう。むしろ、良心的といえるほどだった。
「いただきます」
皐月はまず生ハムとレタスのサンドイッチから食べてみた。確かにパンは硬く、何回も咀嚼が必要だったが、味自体は悪くない。パンは雑穀も入っているようで、素朴な味わいだった。何より生ハムとよくああった。
クリームチーズとトマトのサンドイッチも美味しかった。パンの酸味とクリームチーズがマッチしていた。サイズあ大きくは無いサンドイッチだったが、噛むのに時間がかかり、満腹感がある。コンビニのサンドイッチやおにぎりはここまで咀嚼しなかった。噛むと満足感があがるという新たな発見があった。久々に食べた野菜も何だか新鮮だった。
元夫はふわふわなパンが好きだった。このパンを食べたら絶対文句を言いそうだったので、食べていると逆に笑えてきた。
食後コーヒーのコーヒーを飲んでいる時には、満足感で自然と笑顔になってしまうぐらいだった。他のメニューは食欲はそそられないが、このモーニングのサンドイッチは確かに美味しかった。
自炊ができない今は、ここで朝ごはんを食べても良いかもしれない。
久々に皐月の心は、明るくなってきた。




