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異世界訳アリ料理店〜食のお悩み承ります〜  作者: 地野千塩


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油っこい鍋(1)

 不倫は心の殺人という言葉がある。皐月は、それは本当なんじゃないかと思ったりする。


 先月、離婚が成立し、今は一人で暮らしていた。元夫とは子供はいなかったが、今はそれで良いのかも知れない。元夫は不倫の常習犯で、結局離婚にいたった。元夫とよく似た子供を愛せる自信は、皐月にはなかった。


 心の傷は、案外物理的にも影響を及ぼす。なかなか眠れなくなり、家事も敵とになった。食事もコンビニやスーパーの惣菜で胡誤魔化す日々だった。


 離婚してすぐに仕事が決まったのは、ラッキーだったのかも知れない。派遣の仕事だがコールセンターで顧客対応をやっていた。大手の銀行の顧客対応で、夜勤も多かった。不眠が続いていた皐月にとっては、この仕事もかえってしやすい面もあった。


 今日も早朝に仕事を終え、自宅のアパートに向かって歩いていた。もう空は白っぽく明るくなっていたが、まだ静かだった。


 最寄りの駅に降り、コンビニに直行する。コンビニは皐月にとって台所になっていた。離婚の心の傷が深く、家に帰って家事をする気にもなれなかった。掃除をするのもしんどく、家もすぐ散らかってしまっていた。カバンの中もぐちゃぐちゃで、すぐに闇鍋状態になる。アラサーの女としては恥ずかしい限りだが、どうも心のやる気スイッチが壊れていた。メンタルクリニックに行くと、鬱病とも言われていたが、調べると投薬は抵抗があり、カウンセリング中心の治療も受けていた。ただ、今は何をしても全く癒やさる感覚はない。


 皐月は、そんな事をぼんやりと考えながら、コンビニのチルドケースを見る。おにぎり、サンドイッチ、チルド惣菜をドサドサとカゴに入れていく。最近はずっとこんな食事ばかりだった。本当は野菜や味噌汁、納豆なども食べるべきだが、全くやる気がしなかった。医者にはプチトマトだけ食べましょうと言われていたので、それだけは無理矢理食べるときもある。プチトマトは洗うだけなので、食べるのにハードルはかなり低かった。時にはカップスープを作るのもしんどい時があったりする。一見、自堕落な人と差異がないため、自分を責めて泣いてしまう事もあった。仕事をしているので、ギリギリ人間らしい生活ができている状態だった。仕事がなければ、風呂もメイクもやめているだろう。


「お箸とおしぼりはおつけしますか?」


 コンビニのレジで支払うと、店員に話しかけられた。マニュアルのサービスだろうが、こうして気を遣われると、少しホッとする。皐月はそこれぐらい心が壊れているようだった。


 まだ若い女性のコンビニ店員だった。おそらく日本人ではなく、アジア系の店員だが、日本人にない素朴さが少しホッとしてしまう。上手ではない日本語も悪くはない。


 思えば日本は、村社会の閉鎖感は否定できない。実家に帰ろうとも思ったが、近所の人の目が気になる。特に皐月の実家は農家で、田舎にあるので、都会より閉鎖感があった。


 もちろん、日本にも良いところはいっぱいるが、恥の文化で、人に迷惑をかけてはいけないというのは、大変だった。インドでは、日本と違ってお互いに迷惑をかけ合うのを前提に子供に教育しているらしい。


 本当は誰かに思いっきり迷惑かけたい気持ちもあったりする。しかし、心は傷ついていた。


「ありがとうございました!」


 コンビニ店員の明るい声を聞きながら、店を後にする。日本は治安もよく、食べ物も美味しい良い所だ。日本人も良い人や真面目な人も多い事はよく知っている。


 それでも全く別の世界に逃げたくなる事もあった。例えば異世界のような場所に行けたら、楽しそうだと思ってしまったりする。


 夜勤明け、家で一人で録画している異世界転生のアニメを見るのは、こんな生活の中で癒しにもなっていた。


 魔法や妖精が普通に存在する異世界アニメを見ながら、この国に居たくない気分にもなってきた。


 こんなアニメを見ながら食べるコンビニのおにぎり、サンドイッチ、惣菜もあまり美味しくはない。本当は自炊して野菜やヘルシーな食事をするべきだが、心は全く動かなかった。


「異世界転生しないかな。転移でもいいよ……」


 そんな呟きが漏れていた。

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