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死んだ恋人に会いにいく  作者: 青空野光
プロローグ
1/50

報せ

 盆休み初日の八月十三日。

 夜が明けたばかりの寝室に着信音が響き渡る。

 6インチのディスプレイに表示された高畑(たかはた)浩二(こうじ)という名は、久しく連絡を取っていなかった高校時代のクラスメイトのものだ。

 友人であることに違いはないが、特段親しかったわけでもない。

 そんな彼がこんな朝早くに、いったい何の用事があるというのだろうか?

 それも電話に出さえすれば即座に判明する。

 あれこれと考えるよりも行動に移すの正解だろう。


「はい、中原(なかはら)です」

『あ、叶多(かなた)君? 朝早くにすいません。高校のとき同じクラスだった高畑です』

 そういえば彼はこんな声をしていたなと、埃を被った玩具(おもちゃ)を押し入れの奥で見つけた時のような懐かしさを覚えた。

「高畑、久しぶり。高校を卒業して以来だから――」

 もう、六年半にもなるのか。


 四方を山に囲まれた田舎の町で私は生まれ育った。

 小学校中学校と顔ぶれは一切変わることなく、高校に入って初めて新しい友達ができたという、そのくらいには小さな町である。

 それだけが理由ではなかったが、私が大学受験に際して持ったささやかな希望は、都会に出て一人暮らしをするという、ごくありふれたものだった。

 本命校に受かることはできなかったが、滑り止めで受けた私大が思いのほか肌に合っていたようで、気がつけば他の学生より一年長く在籍し、卒業後はそのまま現地で就職すると今に至っている。

 最後に地元に帰ったのは、果たしていつのことだったか?


 閑話休題、そんな理由から郷里の人たちとの付き合いが断絶していた私のところに、こんな早朝からさほど親しくもなかった旧友が連絡を入れてきたのだ。

 よもや彼をして、思い出話に花を咲かせるために電話をしてきたのではあるまい。


「それで? 何か急ぎの用事なんだよね?」

 不躾は承知の上で、率直にその理由(わけ)を訊ねる。

『ああ、うん。同級生に水守(みずもり)さんっていたでしょ?』

「彼女がどうかしたの?」

『それがね、亡くなったんだよ』

「え? 亡くなった? 水守さんが?」

『うん。一昨日の朝に、その……自殺したらしい』


 水守(ゆい)は勉強がよくできる優等生だった。

 腰の上ほどまである長く綺麗な髪と、それに西洋人形のような大きな瞳が印象的な美人でもあった。

 もっとも、当時の私と彼女との間にはこれといった交友はなく、連絡先こそスマホに入ってはいたが、ただの一度も連絡を取り合ったことはない。

 言ってしまえば、限りなく他人に近い友人。

 それが私のとっての水守唯だった。


「……そうなんだ」

 たとえ親しくなかったとはいえ、半生を同じ学舎(まなびや)で過ごした同級生が亡くなったと聞けば色々と思うところもある。

 しかも、それが自らの意思でそこに至ったというのだから尚さらだった。

 きっと高畑からのこの電話は、彼女の通夜や葬儀に関するものなのだろう。

 だとすれば、私はどうするべきだろうか?

 この街から生まれ故郷までは、どんな交通手段を用いても数時間からの移動を要する。

 仮に今から支度をしてすぐ家を出たとしても、到着は早くても昼過ぎになってしまう。

 通夜であれば宵の口から執り行われるのだろうから、時間的な心配はさほどないのかもしれないが。

 そもそものところ、私は参列すべきなのだろうか?

 それに亡くなり方から考えると、密葬という形をとるかもしれない。

 もしそうであれば、もともと親しくもなかった私の出る幕などは余計になくなる。


『もしもし叶多君?』

「……あ、悪い」

『いや。こんな朝早くに電話を掛けさせてもらったのには理由(わけ)があってね』

「うん?」

『昨夜の遅い時間に、彼女のお母さんから電話をいただいたんだよ』

「ああ。高畑って確か、三年の時のクラス委員長だったね」


 高畑が水守唯の母親から聞いた話では、葬儀はやはり内内で執り行われるのだという。

 ただ告別を希望する親しい人に限っては、通夜に来てくれる分には構わないとも言っていたそうだ。

 それにもうひとつ、娘のことでどうしても知りたいことがあるとも。

 高畑が早朝から同級生に電話で連絡を取っていたのは、むしろこちらためのようだった。


「それで、水守さんの親御さんは何を知りたいんだって?」

『うん。彼女、自宅のポストに何通かの遺書を残していたそうだんだ。そのうちの一通に書いてあった文言が、どうあっても自分たちでは解決できないからって』

 ならばと娘の旧友に解決の糸口を求めたのだとすれば、それは一体どんな内容だというのか。

「そこにはなんて書いてあったの?」

『うん。それがね』


 彼女が残した遺書に書かれていたのは、たった十一文字だけの短い言葉だったという。

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