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勇者召喚されたのに・・・・・・

 長かった。


 王都戦からはや1年が経とうとしている。


「アレが魔王城だな」


 ようやく魔王城までやって来た。


 本当に、ここまでは長かった。


 冬の雪は深く、2週間ほど、雪に埋もれて生活した時もあった。


 だが、それよりも何よりも。ここまでに戦闘らしい戦闘と言えば、野生のオークやゴブリン、オーガってのも多少は居たのかな?

 そいつらの群れを倒したことくらいだ。


 あれは王城での惨状を見た後だった。


 王も王子ももはや居らず、王国は滅んだも同然となり、とりあえず教会へと取って返したのだった。


 王都壊滅の報に泣き崩れる王女。それを励ます勇者。


 国については王女を新女王として何とか体裁を整えると総主教が言うので、それ以上何も言わなかった。


 だが、勇者の一言で俺たちの行動は決められてしまった。


「大丈夫だ。俺が仇はとって来てやる!」


 そんな言葉で、俺たちは魔王城があるという北を目指して教会を出発していく。


 誰も反対しなかった。


 と言うか、聖女に説得されたと言った方が良いだろう。


「魔王軍があとどれくらい居るか分からないけれど。少なくとも、私たちの居場所はここにはない。過ぎた力を持った私たちは彼らの邪魔でしかないと思うんだよ。あんまり居座ると寝首を掻かれないとも限らないから、行けるとこまで行ってみた方が良いと思うよ?王都陥落の汚名をそそがないと、勇者くんは結婚できないし?」


 そう言われて、嫌だとは言えなかった。


 まあ、勇者くんは魔王討伐する気でいるから、一人で飛び出していくよりもしっかりサポートした方が良いだろうしね。


 そんなこんなで教会を出た俺たちはひたすら北を目指した。


 貧しい村々を抜けて、峠を越えた。


 王国領であるるらしい村々では、何とか屋根の下で眠る事が出来て、マズいとはいえ温かな食料もあった。


 だが、山に入ると干し肉とあの歯が立たないパンだけだった。しかも、野営には見張りも必要だった。


 そんな事を2日も続けて、もうそろそろ限界だという頃に、山の中の村を見つけて飛び込んでいった。


 その村にいたのはケモミミを生やした、見るからに獣人であったり、ドワーフも居た。


 つまり、ここは既に魔王国だったわけだ。


 多少は警戒されたが、俺たちが少人数だった事から敵対するには至らなかった。


 それどころか、聖女が病人やけが人を癒やすと警戒心すら解けて行った。


 聖女の治療を受けたドワーフは俺たちと親しく話すようになり、なぜか、俺や聖女と酒を酌み交わす仲となった。


 やはり貧しい村であるというドワーフに、俺たちは異世界内政チートの知識を披露していった。


 そして、俺や勇者は山狩りに同行して獣やモンスターを狩り、テンプレ的な資金源である魔石を手に入れた。


 そして、その魔石を用いてドワーフに教えた魔道具のアイデアのいくつかが実現する。


「マジックバックは無理だったけど、浄水器と懐中電灯が出来たから良かったんじゃない?ほら、夜番しなくても良いテントまで貰ったんだし」


 という聖女に背中を押されながら、その村を出てさらに旅を続けると、しばらくして今度はエルフの里へとたどり着いた。


 いきなり矢を射かけられるというような事もなく里へと入る事が出来たが、やはり警戒されていた。


 ここでの主役は、聖女ではなく俺だった。


 俺の武器が弓ではなく銃だから、エルフには関係ないだろうって?


 ところが、エルフは既に銃の様なモノを作り出していた。


 魔石を使う銃なもんで、いきなり元込め式だった。


 だが、不完全なスナイドル銃なソレだったので、俺のモシン・ナガンに興味津々な連中。


 ドワーフではなくエルフが鍛冶をするのかと訝しんでいたんだが、どうやら非常に硬い木を材料として作られるとかで、鉄並の強度を持った木を削りだして銃の様なモノを作っていた。


 そんな彼らにボルトアクションの構造を教え、一緒になって銃の制作に没頭した。


 完成したのはチートなモシン・ナガンと比較することはできない銃ではあったが、それまでの銃の様なモノからはレベルの違う進化を遂げ、弓では届かない距離から正確に獲物をしとめる事が出来るようになった。暴発は桁違いのレベルで減少している。


 そのころ聖女が何をやっていたかは・・・・・・、言わない方が良いだろう。


 ちなみに、なぜか戦うことなく受け入れてくれる獣人やエルフの事を、勇者くんはとくに疑問に思わず、自分への畏怖か何かだと都合よく受け止めてくれていた。姉も何やら魔法使いたちと和気あいあい?と魔法精度の上達を行っている姿を見かけた。


 こうして、エルフの里では狩猟効率が良くなり、獣人たちの村で出来た魔道具を紹介すると、里の安全性向上も行う事が出来るとエルフたちも笑顔であった。


 暫くして出発する事を言うと、保存食にもなるという大量の薬草を貰い。獣の解体法も教えてもらった俺たちは、幾分旅が楽になった。


 さらに進むと、ようやく山から降りることが出来たようだったが、まだまだそこは盆地であるらしかった。


 そこで出会ったのは鬼人族だった。


 今度こそはと身構えたが、これまで以上に貧しい状況に、戦うどころでは無かった。


「畑に向いた土地があまりなくて食料が足りていないんですか」


 ここで、エルフの里で見聞きした知識が役に立った。


 エルフに教えてもらった食用キノコの見分け方を使い、鬼人族の村周辺にキノコが無いか探すと、色々見つけることが出来た。


 さらに、エルフたちから教えてもらった木の実や果物も探すと、結構豊富だった。


 すぐにどうなる訳でも無かったが、まずはいくつかのキノコを菌床栽培してみると、成功するキノコが出て来たので、彼らにはその栽培をしてもらう事にした。


 力の強い鬼人族なので、木の実や果物が穫れる樹木の植え替えもやってもらい、果樹園の整備も行った。

 すぐに成果が出る様なモノではないが、無いよりははるかにマシだろう。


 さらに、魔法使いたちを動員しての河川整備も行われ、これまで川が氾濫するばかりだった河原に多少なりとも畑を作る事にも成功していったが、そこで冬となり、ひと月近い足止めを食らってしまった。


 そう、そしてようやく、雪が少なくなった時期に旅立ち、魔王城があるという平地へとやって来た。


「あれが魔王城だな」


 城が見える小高い丘までやって来た。


 すると、向こうから集団がこちらへやって来るのが確認できる。


 近づいて来る集団がハッキリわかるようになると、そこにはドワーフ、エルフ、鬼人、獣人と様々であった。


 そして、ハッキリと相手の顔が見えるところまでやって来た。


「お前らが我が領へと入り込んだ人間どもか?」


 まだまだ寒いのに露出が多いドワーフがそう言って睨んできた。


「そうだ!」


 返答するのは当然ながら勇者である。


「何をしに来たのじゃ」


 そう睨んでくるドワーフ。もしかして、のじゃロリ魔王さま?


「王国はお前らによって滅ぼされた。仇を取りに来た!」


 そう宣言する勇者くん。


「王国は滅んだか。じゃが、全く我らに食料が届いておらん。まさか、お前らが我が軍を倒してしまったのか?」


 あえて、態度で肯定を示す勇者くん。そして


「あんな豊かそうな土地があるのになぜ人間から奪う!あそこを耕せば良いじゃないか!」


 と続けた。まあ、ここまでの旅程でやったことが討伐じゃなく内政だもんな。


「ふん!何も知らん人間どもじゃな。今はあの様に乾いておるが、もうひと月もせんうちに、雪解け水であの大地は溢れてしまう。どうやって作物を育てるんじゃ!」


 ぷっちむにの、控えめに言って美幼女がブリプリ怒っているではないか。


 俺は周囲を見渡し、地形からある事を思い立った。


「確かに、あの平地は低地であるらしく、大量の水が流れて来れば水をさばききれないようだが、そこの山地に穴を空ければ川を迂回させられるんじゃないか?」


 そう、大河津分水路の様なモノを作れば干拓可能ではないだろうか。


「やっておるわ!じゃが、あまりに固い岩盤で出来ておるから、もう100年も掘り続けても半分にも達しておらん」


 どうやら開削は無理だから地下放水路を建設中であるらしいが、100年も掘り続けて半分?


 ドワーフが苦戦するような硬い岩盤か。果たしてどんなもんだろうな。


 だが、やってみる価値はあるかもしれない。


「そうか。もしかすると出来るかもしれん。対価として、お前を要求する」


 と、言ってやった。びっくりしている勇者くん。ドン引きしている姉。分かっていたと言わんばかりの聖女。


「ほほう。それは大見得を切ったもんじゃ。やれるもんならやってみぃ。この首でもよし、体を貪りたければすればよい」


 と、堂々と言い切った魔王ちゃん。さらに騒がしくなった周りを制止て続ける。


「じゃが、出来なければ、分かっておるな?」


 と言われて、少々ビビりはしたが、たぶん問題ない。


 現地へと案内してもらい、放水路予定の穴を見ると、やたらデカかった。これなら離れていても外すことはないだろうな。


 周りの木々を刈り払って穴を露出させ、遠くへと退避する。


「こんな所から狙えるのか?」


 と、訝しむ魔王ちゃんを余所に、銃を構える俺。


「流星火炎魔法紋展開」


 そう言うと、これまでとは違い、大きな魔法陣が何重にも展開していく。


「何じゃこれは。こんなモノを食らえば、どんな街でも一瞬で消し飛ぶ。もしや、これならば・・・・・・」


 そんな声が聞こえたが、集中が大事。


 息を止めて引き金を引くと、何重もの魔法陣を抜けてひときわ光り輝く魔法弾が放水路の坑門へと吸い込まれていった。


「盛大にデカイ壁で穴を塞いでくれ」


 姉の魔法使いにそう言うと、実行してくれた。


「グレートアースウォール」


 魔法弾が吸い込まれた穴を塞ぐ巨大な壁。


「こんな壁、どんな魔法も壊せんぞ」


 唖然とする魔王ちゃんの声が終るかどうかのタイミングで大爆発が起きたらしい。


「地面が揺れておる。何じゃこれは!」


 激しい揺れが収まるのを見計らって、壁を消してもらった。


「あれだけ苦労した岩山を一撃で吹き飛ばしたじゃと・・・・・・」


 そこにはでっかい歪なクレーターが出現し、見通しが良くなっていた。海側の壁はなく、このまま川側を少し開削すれば簡単に流路は変わってくれるだろう。


「お主・・・・・・」


 驚いた顔で近づいて来た魔王ちゃんに倒れ込む。魔力も体力もすべて持ってかれたよ、アレに。うん、魔王ちゃんの柔らかくて暖かい体を堪能しよう……


 それからしばらくすると、魔王の街を流れていた川は例の分水路へと流れを変え、分岐点に設けた水門によって旧河道は用水路へと変わり、干拓した畑に必要な分だけの水を流すことになる。


「ロリコンさん、ここに残るの?」


 ニヤニヤ聞いてくる聖女。いや、この性女。獣人の村で何か怪しいと思って、エルフの里で調べてみれば、乱れ食いしていたよコイツ。


 問いただすと悪びれずに日本での話をした。


「仕方ないし。コスプレしてたのも普通の男に飽きてオタクを食い漁ろうと思ったからだし?」


 などと供述をしていた。召喚された結果、オタク以上の新規開拓が出来て大豊作であったらしい。


 

 魔王ちゃんを配下にしたと言う手がらを携え王国へと戻れば、予想通り、帰る術が無いと言われた俺たち。


 だが、誰も悲嘆に暮れたりしては居ない。


 勇者くんは新国王となった女王と結婚して人間国を率いていく事になり、姉もその手伝いをするという。


 聖女は人間国だけでなく、魔王国もめぐって、男を漁‥‥治療と内政支援をやっている。


 そして俺は、合法美幼女との楽しい生活を送る毎日だ。


 川の流れを変えた魔王の街周辺は穀倉地帯へと変貌を遂げ、わざわざ周辺地域へと略奪に行く必要がなくなった。

 たまに狙われることはあるが、強大な武力と技術力、そして穀倉地帯を持つ強国となった魔王国が早々負けるわけがない。



 つか、何しに来たんだっけ?俺たちって・・・・・・




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