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王都陥落って、そりゃあないでしょう!!

 馬の背に揺られて王都へと向かっている。


 ドラグーンと言うのは馬を操る事が出来るらしい。


 それ以前に、クリンコフ少尉も馬に乗ってたような。


 護衛なのか監視なのか、3人が乗る馬車の周りには騎士も幾人かいるが、それだけしか戦力が居ない。


 ちなみに、さすが勇者召喚ってのはご都合主義だったな。薬莢受けなんか要らなかった。排莢された薬莢は、そのままポーチに戻りやがった。


 しかも、ポーチに入っているクリップに勝手に戻るんだから楽で良い。


 問題は、あの後より低威力の指弾や散弾も試し、狙撃もやってみた。もちろんの事、すべてアニメの描写以上に上手くいきやがった。


 ただ、どうせ弾なんか出て無いんだから、薬莢無しでも行けるんじゃね?と、撃ち切った銃を空撃ちしてみたのだが、魔法紋こそ展開されたが、弾は飛んでいかずに霧散しやがった。


 どうやら薬莢は必要らしい。


 何はともあれ、召喚されたは良いが、持ちモノが役立たずと言う話にならなかったのは幸運だったかもしれない。


 と言うのも、俺が買った銃というのが普通の排莢式エアガンでは無かったからだ。


 別にサバゲが趣味と言う訳でも無く、昔やったな以上のモノでは無かったのだが、たまたま。そう、たまたま、人気アニメである皇女戦記のコラボをいくつかのメーカーがやっており、そんな中に中華メーカーからモシン・ナガンのクリンコフ少尉モデルが発売されていた。


 たまたまその広告を目にし、サバゲではほぼお目に掛かれない排莢式エアガンと言うモノに興味が湧いてしまった。


 考えても見て欲しい。


 サバゲでスナイパーや第二次世界大戦スタイルのゲーマーは確かに居る。


 しかし、彼らが使う銃は既存の弾倉にBB弾のみを装填しているので、ボルトアクションという操作を必要とはするものの、弾数は20~40発装填されている。


 ところが、ボルトアクションライフルの実銃となると多くて10発程度。継戦能力がまるで違う。


 第二次大戦モデルだと、おおむね5発しか装填できないので、ボルトアクションと言えど、常に残弾の心配をし、再装填も当然に行う必要が出てくる。

 それも、マガジンを差し替えれば良いって訳ではないから大変で、時間もかかる。


 ついでに言えば、排莢式はBB弾を薬莢ひとつづつに詰めて行かないと撃てないのだから、準備も必要になって来る。


 そんな使いにくい排莢式だが、モデルガンとして部屋で遊んでも良いし、弾も出るので装填、射撃、排莢という本物と同じ動作を楽しめ、実際に目標を狙える利点は、他にはない。


 そう思って、何やらセット売りしていた軍服ともども買ってしまった。


 ついでに、なぜか通常の薬莢よりも安かったクリンコフ少尉モデル専用の赤い薬莢をもうワンセット追加で購入した。


 アニメコラボ商品として売り出していたみたいだが、さすがに排莢式エアガンには人気が出なかったのだろう。結構なバーゲン価格になっていたよ。


 もし、通常仕様の銃だったら?標準仕様の薬莢だったら?


 それが使えなかったらと思うと怖いね。


 なにせ、この国、すでに首都に魔王軍が迫り、何とか国が滅びるギリギリで俺たちの召還に成功したらしい。


 あの場にいたのが総主教と呼ばれた高位の神官とその取り巻き、そして、聖女と教会へ逃げていた王女の一人、その使用人数名。


 それが、デッカイ教会施設に居る全員だった。


 テンプレ召喚だと勇者の教育係だの魔王軍と戦う騎士団だのが居るはずが、まるっきり居ないからおかしいと思ったんだ。


 ただ、無邪気にはしゃぐ勇者くんにはそんな現実を聞かれない方が良いと思い、総主教に詰め寄り問いただした。


 すると、召喚に何度も失敗し、教会施設に居た聖職者や魔力保持者のほぼすべてを生贄として、最後の賭けに出て何とか俺たちの召喚に成功したらしい。


 時間も無かったので即戦力を求めてなんとかかんとか御託を並べていたが、まあ、どうでも良い。俺たちを召還するために、きっと数百人が犠牲になっているのは間違いなかった。


 召喚された方の聖女は俺の顔つきで察したらしく、総主教の言動にキレた俺が言い出した、魔王討伐を達成した暁に勇者と王女を結婚させるという話をまとめてしまった。


 はしゃぐ勇者くんに顔を引きつらせる王女さん。でも、仕方ないよね?高貴な我が身が可愛いのかもしれないが、犠牲の多さを考えれば、そのくらいしないと。


 そんなこんなで、テンプレ的な勇者のレベルアップイベントなんてものは全てスルーして、いきなり危機迫る王都の救援に向かう事と相成った。


 救援のために赴いた戦力は僅か10人にも満たない。それが、教会に残された出せる全力だった。


 修業の場として山の中に作られた教会を出て2日ほど、何とか王都へとたどり着いたのだが、食事は干し肉と乾パンみたいな硬すぎるパンだけ。


 俺の不思議収納ポーチがマジックバックかと期待したが、薬莢以外は収納する事が出来なかったし、魔法使いも残念ながら、魔法収納(マジックバック)を持っていなかった。

 勇者?普通に考えて無理でしょ。聖女もね。


 そんな訳で、物語では簡単に端折られる苛酷な食生活を送りながらの道程だった。


「あれが、王都!」


 そんな食生活でも元気な勇者くんが、山を背にした煙立ち上る街を見ながら叫ぶ。


「ああ。間に合わなかったか・・・・・・」


 その隣では、黒煙を上げる王都を見た騎士達が悲嘆に暮れている。


「そんなの分からないじゃないか!魔王軍を蹴散らしに行くぞ!!」


 そう言って駆けだす勇者くん。そして、それを追いかける俺たち。


 王都と言うだけあってかなりの規模を誇るんだろう。しかし、それを取り囲む軍勢の数はそれ以上と言ってよく、魔王軍へと勢いよく突っ込んでいった勇者くんは波間に浮かぶ葉っぱ同然だった。


 それを支援する姉


「アイスニードル・レイン!」


 半径数十メートルの範囲につららの雨を降らしながら、つららの降りしきる魔法陣を移動させている。


 きっとかなり高度な魔法なはずだ。


 その魔法使いへと魔力の補充を行う聖女。


 さて、俺も。

 

 火炎弾を軍勢に撃ち込んでいくが、なかなか数が減らない。


 そもそも、アイツら恐怖心とかあんのか?


「おい、埒があがねぇよ、こいつら。恐怖心とか無いのか?」


 10発を撃ち切り、3クール目の装填をしながら聖女に問うた。いや、愚痴った。


「仕方ないんじゃない?あのゴブリンやオークみたいなのって、後ろの連中に操られているだけみたいだし」


 その返答に、よくよく軍勢を観察してみると、少し後ろでより人らしい姿かたちをした連中が見える。

 指揮を執っているのはあいつらか。


 そいつらのいる辺りへと火炎弾を撃ちこむ。また探しては撃ち込む。


 5発で一方面の軍勢が驚くほどに動かなくなった。


「どうやら正解らしいな。なら、より大物を探して狙撃してみるよ」


 そう、聖女に言ってその場を離れ、


「索敵」


 と念じて、辺りを俯瞰する。


 すると、山の中腹辺りに天幕が設えてあるのが見えた。どうにもそこが怪しい。


 新たにクリップから5発を装填し、ボルトを戻す。


「狙撃、探索」


 銃を構えて狙うべき目標を天幕周辺から探す。まるでスコープを除くかのように遠方の状況が鮮明に見える。


 天幕前には高級そうな鎧をまとった角のある人物と背の低いガッシリした人物。耳の長いあいつはエルフか?

 その特徴的なトリオを少し観察していると、伝令であるらしい者が駆け込んできた。よし、これから連中の動きを見れば、誰が指揮官か分かる。


 伝令の報告を聞いたエルフっぽい人物が鬼人とドワーフ?へと振り向き、何やら報告だろうか。


 そして、鬼人がドワーフを見、ドワーフが街の方角を指さして何やら言っている。


 確定だな。あのドワーフが指揮官だろう。


「狙撃魔法紋展開」


 銃口がほのかに光り、魔法が展開され、引き金を引くと魔法の弾丸が飛び出していった。


 そのまま天幕前を観測していると


「くそ、エルフ!」


 こちらの気配を察知したのか、はたまた偶然か、エルフが射線に入り、被弾した。


 しかし、弾を完全に受け止め切れてはいないらしい。貫通した弾が当たったドワーフも負傷している。


「狙撃魔法紋展開」


 すかさずコッキングし、ドワーフへとトドメの2発目を撃つ。


 もしもの為に観測しながらコッキングしておく。


「よし。だが、狙撃魔法紋展開」


 念には念を入れて副将であろう鬼人も狙撃する。すでに二人が倒れたところへ飛来した弾は遮るものなく鬼人の胸に風穴を開けた。


「指揮官と側近連中は倒した!」


 俺が魔法使いと聖女にそう伝え、残った前線指揮官たちへと火炎弾を浴びせていく。


 そこからは消化試合的な経過をたどり、指揮する者が居なくなったゴブリンやドワーフをただ駆逐するだけとなったが、倒れていく周りに恐怖心がよみがえったのか、それとも魔法や催眠が解けたからなのか、蜘蛛の子を散らすように残されたモンスターたちは逃げ散って行った。


「よっしゃ!俺たちの勝利!」


 最前線で斬った張ったを続け、血みどろになった勇者くんは、周りの惨状に怯えるでもなく元気に勝鬨を上げていた。


 しかし、王都からは追撃の軍が出てくることも無く、ただただ燃え続けるだけとなっていた。



「うわぁ、酷い・・・・・・」


 理由は簡単だった。


 すでに内部にも侵入され、生き残っていたのは街壁を守る僅かな守備隊だけ。王城へと駆けていく騎士たちについて行ってみれば、そこもやはり戦場だった。いや、戦場の痕だな。人であったナニカが生者を求めて蠢く姿は、モンスターの死骸よりもクルものがあった。


「汝らの魂よ、安らかにあれ」


 聖女の魔法によってバタバタと糸が切れたように倒れていく騎士や兵士。ネクロマンサーか亡霊系の敵でも居たんだろうか?


 まあ、今の広範囲浄化魔法で退治できているだろうが。


 そして、騎士達を追いかけたどり着いた王城の奥では、豪奢なドレスを着た王妃であったのであろう亡骸が、血まみれの剣を持って倒れていた。少し離れた場所には王冠が転がり、ふくよかな男性の遺体も倒れ伏していた。


 すでに攻略戦は終盤だったわけだ。


 終わってるじゃないか、王都・・・・・・

 


  


 

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