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7話 炎の魔法

 ――――数分前のこと。レナと超級魔獣スライムは、単純な技で、しかし凄まじい攻防を繰り広げていた。レナは少しも気を緩めることなくスキルを使い続けた。


 彼女に肉体的な疲労というのはあまりない。動きの根底こそ彼女自身の身体能力によるが、実際のところ、動きの大方はスキルで成り立っていた。移動・回避は《飛躍》、攻撃は《全部斬り》だ。


 対してスライムは、常時発動されているスキル《吸収》、《分子操作》を行使して攻撃を生み出している。


 スキルを使用するには基本的に『精神力』を消費する必要がある。これは肉体的な力と対になるもので、消費し過ぎれば集中力や思考力が低下してしまう。


 スライムの場合、スキルがそのまま体質になっているので、体力と精神力を共に消費して活動をしている。つまりレナの場合は、体力ではなく精神力を莫大に消費していることになるので、次第に事物を正確に考える力が低下していっているのだ。


 激しい攻防の中、その影響がだんだんと垣間見えてきた。初めはレナが《全部斬り》を空振りするところから。レナは気にしなかったが、既にレナの集中力は十秒間何かをじっと見つめることもままならない程に低下していた。


 《飛躍》の使用も、スライムの攻撃の手数に合っておらず闇雲だ。


 確かにレナはクロウとの約束を守るために必死だ。しかしそれ以上に致命傷なのが、スキルの使用を自覚していないことだった。


 無自覚の内に精神力を浪費し、想定以上の動きをしているので、レナが平行感覚を失うには十分過ぎた。


 ただ、全て自分の身体能力だと思い込んでいるのと、ある一つのことに一生懸命だということが相まって、レナはこれまで無制限のようにスキルを酷使し続けることができたのだ。


 レナの視界は朦朧としている。ぼんやりとした景色の中に泥色の何かが見える程度だ。景色に伸びる黒っぽい線を必死にかわしている。しかしその線は視界のほとんどを占めていた。



 ――やがてレナはスキルの衝動に耐えられず、着地で足を踏み外してしまった。その隙を逃さず、スライムの手が襲う。咄嗟に剣を向けるが、ことごとく弾かれ、剣はレナの手から離れてしまった。


 しかしレナは諦めていなかった。剣がなくとも避けることはできる。そうして、再び《飛躍》を使って跳ぼうとするが。


「あ、足が‥‥‥!」


 一度スキルの発動を止めてしまったため、再発動を身体が拒否したのだった。


 そしてとうとう、スライムの手がレナを取り込んだ。レナは抗うが、スライムの体内で身動きがとれず、だんだんと脱力していった。同時にスキル暴発の反動で、レナの意識は途切れた。


 レナはスライムの体内の中央まで流された。《吸収》を行うためだ。



「レナ! 待たせた! ――――――――って、レナ‥‥‥?」


 クロウらが駆けつけた頃には、既にレナの衣服が半分近く溶けていた。


 クロウは衝撃を受けた。うるさいほどに明るかったレナが大人しく呑まれつつあるのだから。誰のせいでレナはこんな酷いことに? 答えが分かりきっているはずの疑問を抱いた。


 クロウは戦えない。弱すぎる。しかしクロウは短剣を握りしめ、スライムに向かった。自分への怒りだけを糧に動いた。


 スライムはクロウに気づかなかった。意識を失ってもなおレナのスキル《挑発》の効果が解けておらず、未だにレナのみを認めていたからだ。クロウはスライムの体内に飛び込んだ。


「レナを離せぇぇぇ!!!」


 スライムの体内に入るのは容易だった。しかしその巨体の中心に至るにはそうはいかなかった。即座にクロウの衣服が溶け始めた。クロウは気にもせず、一心にレナのもとまで行こうとしている。


 魔導師の少女は杖を掲げた。魔法を放つ準備である。一刻を争うので、着いたらすぐに魔法を放つようにクロウから言われていたのだ。


「炎の陣、展開」


 少女が唱えると、スライムの下に赤く巨大な魔法陣が展開された。魔法陣と接するスライムの肉体の一部が溶け、蒸気が発生する。


爆炎地帯(バーニングゾーン)‥‥‥」


 魔法陣はスライムの上空にも出現し、その空間を激しい炎が覆った。渦巻く炎がスライムを刻み、燃やす。スライムはなす術なく、みるみる内に蒸発していった。


 クロウは窒息しそうになりながらも中心を目指した。とにかく掻き分け、掻き分け、進んでいった。身体中が痺れるように痛む。少女の魔法で熱が伝わってくる。もう時間はない。レナは目と鼻の先だ。必死に手を伸ばした。


「グラァァァァァ!!!!」


 スライムが高音で断末魔をあげる。それによりクロウは口を開いてしまい、一気に窒息した。しかしそれでも手を伸ばし続けた。


 そしてスライムが消滅するその瞬間、クロウは確かにレナの手を握った。クロウらの身体はスライムの体内で発生した大きな気泡によって上に打ち上げられた。


 直後、スライムの完全消滅により水蒸気爆発が起こった。クロウらは爆風で飛ばされたが、クロウは最後の力を振り絞って自らが地面に接するようにレナを抱き締めていた。


 他に何をする体力も残さず、クロウはそのまま倒れた。そして、少女のとてつもない炎の魔法と爆発を尻目に、気を失った。


 こうして、クロウらは超級魔獣スライムの討伐に成功した――――。

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