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3話 SS+ランクの女の子

 やがて、ある冒険者パーティーが駆けつけた。曰く、討伐対象のこのドラゴンを取り逃がしてしまったらしい。剣士と魔導師の二人だった。二人の内、リーダーらしい剣士の男は何度も頭を下げる。


「本当に申し訳ない! 俺はリーダーのビリヴァ。ウチの魔導師はちょっとドジなところがあって‥‥‥。ほら、お前も謝りなさい」


 そう促されて、大きな帽子を被った魔導師の少女が頭を下げる。


「ごめんなさい」


 魔導師の少女は、無表情だった。声にも感情が感じられない。余程失敗したことがショックだったのだろうか。人は失敗を糧に成長するものだと、クロウは詮索しなかった。


「何も問題はない! この私が速やかに、軽やかに、強かに対処したからな!」


 レナが胸をトンと叩いて言うが。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい‥‥‥」


 少女はそれでも謝り続けた。まるで受けた指示だけをこなす機械のように。




 ――クロウらの活躍(主に――というか完全に少女による)がギルドに評価され、硬貨がしばしば与えられた。上級魔獣が侵入するという非常時に速やかな対処を行ったことが高く評価されたのだった。


 金銭に余裕ができたこともあり、クロウらは酒場に来て夕食を取っていた。夕方から夜にかけて、クエストから帰還した者やその日の功績によって宴を行う者など、人が多く賑やかになる。


 そんな中、クロウらの囲む食卓に並んだ料理の品々。レナはとても分かりやすく目を輝かせていた。


「‥‥‥良いのか!? こんなにたくさん、良いのか!!?」


「お前が居なきゃ、俺どころかこの町が危なかったんだ。遠慮しないでくれ」


「やったぁぁっ!!」


 レナは満面の笑みで料理を食した。まるで誕生日を迎えた子供だ。クロウも笑んだ。


「そういえば、名前を聞いてなかったな」


 ふと思い出したクロウがそう言った。


「何!? キミキミ! 私の名を覚えていないのか!? あり得ない!」


「まずは君がまだ名乗っていないことを覚えていてくれ」


 少女は勢い良く立ち上がり、自身の胸をトンと叩いた。


「仕方ない。三度目はないからよく聞くんだぞ」


「一体どちらで二度目をご使用なさるのでしょうか姫様?」


 クロウの声を無視して少女は名乗る。


「私の名はレナ=ハイド=ヴィーナス! 十六歳! パパに会うために冒険者になったのだ!」


 幼子のような名乗り方と、父をパパと称する辺り、やはり稚拙なところが多い。十六歳になってここまで純真な人はそう居ないだろう。クロウはかつての自分を思い出した。


「とことん元気だな。俺も、冒険者になった当初はその輝いた瞳をしていたんだろうな‥‥‥」


「どうかしたのか?」


 思わず呟いてしまったことに気がついたクロウは話題を転換した。


「いや、何でもない。ところで、親父さんに会うって言ってたが、どこか離れに住んでるのか?」


 クロウが問うと、急にレナは表情を暗くした。


「‥‥‥分からない。私が小さい頃に居なくなったから、顔も覚えてない」


 つまりレナは、どこに居るのか分からず、顔も覚えていない父親を探すために冒険者になったらしかった。


 急に重くなった空気に、クロウは申し訳なく思う。しかしレナはすぐに顔色を変えた。


「とにかく! 私は早く強くなって、パパを見つけるから! サエダン、これからもよろしく頼むぞ!」


「サエダンじゃない、クロウだ。クロウ=レアライズ」


「ふむ! 覚えた! よろしく頼むぞ、クロウ!」


 もはや気持ちがいいほどのレナの性格に、クロウは笑んだ。


「おう。‥‥‥あ、そういえば――――」





 *  *  *  *  *





 エルドの人気のないとある荒ら屋に、その冒険者パーティーは居た。暗がりの陰で、ビリヴァが少女に食ってかかるように言う。


「ふざけるのも大概にしろよゴミクズ! 何だって俺があんなパッとしない男に頭下げなきゃなんねぇんだよ!」


「ごめんなさい」


 その言葉に怒りが増したビリヴァは、少女を殴るようにその帽子を荒く打ち捨てた。


「ごめんなさいで許されるなら誰も苦労しねえんだよ!! 一体俺がどんな良心でテメエを雇ってやってると思ってんだ!?」


「ごめんなさい」


 それでも少女は表情を一つ変えず、そう言い続ける。


「金だ! 金を稼げ! 誠意を見せろ! 俺のために尽くせ! 上級クエスト程度でヘマすんじゃねえ。次は超級クエストだかんな」


「はい」





 *  *  *  *  *





「――――え、SS+だと!?」


 クロウとレナは、パーティーを結成する手続きのついでにレナのランクを知っておこうとギルドの受付を訪れていた。その結果がこのクロウの驚きである。


 すなわち、レナのランクはSS+だったのだ。


「えすえす? サエダ――コホン。クロウ、それって何だ?」


「とんでもないことだ! Sランク以上なら魔王軍と戦えるほどと聞いたが、SS+はその三つも上のランク。レベルによっては魔王軍幹部を数人相手にできるかもしれない!」


「す、すごいってことか?」


「だからそう言ってるだろう!! ‥‥‥道理で採集クエストでレベルが上がらない訳だ。どうして冒険者申請の時点で気づかなかったんだ?」


 クロウは何人ものレベル上げを行ってきたが、Sランク以上の冒険者は初めてであった。


「冒険者になれればそれで良かったからだ! そうか、確かに冒険者になった日に、受付嬢がやたら驚いていたな‥‥‥」


 納得したように言うレナ。


「どこまで天然なんだ、この子供は‥‥‥」


「へへん! やっぱり私はすごいのだ! そうと分かればサエダ――じゃなくてクロウ! 早くパパを探しに行こう!!」


「本当に名前覚えたのか‥‥‥?」

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