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2話 レベルアップ

 少女は強化素材を抱きしめ、やや赤い頬で擦った。強化素材はされるがままに身体を伸ばしている。


「そーだなー、キミはとってもモチモチしてるから、モッチーと名付けよう!」


 クロウは半目でその様子を眺めている。まさか強化素材に名を授け、ペットの如く扱う者が居ようとは。確かに一見すれば小型動物を手懐けてじゃれているようにも見えるが。


「あくまでも強化素材だからな。まさかペットにして飼おうとか言う訳じゃ――」


「グロォォォォォォォゥル!!!!」


 ――突然、凄まじい音が野原に響き渡る。クロウの言葉を遮ったのは、彼が聞き覚えのない声だった。野原がどよめく。おぞましい殺気に悪寒が走り、クロウは恐る恐る後ろを向く。


 まず目に入ったのは黒光る装甲と黒翼、それが視界一杯にある。視線を徐々に上方に移すと、赤く輝く眼光。それだけでクロウの全身を超える頭部。鋭利な牙が幾つもある口腔から、生気を感じない冷たい吐息がクロウを覆う。


「あの‥‥‥、ここ国の中ですけど。どちら様でしょうか」


 クロウは棒読みで言った。それに少女が反応して。


「ドラゴンだよ! キミキミ、ドラゴンを知らないの!?」


「知ってるよ!! 見てすぐに分かるよ!! どうやってここまで来たのかって話だよ!!」


「グアァァァァァァァァァッ!!!!」


 クロウの怒りを無視してドラゴンは雄叫びをあげる。辺りに人が居ないせいか、はたまた単なる事実か、それは圧倒的な威圧感と絶対的な存在感を伴っていた。


 クロウは思う。E-ランクの自分では対処のしようがない。情けないが、レベルアップを求めた冒険者の少女に頼む他ない。


「なぁ! お前は冒険者なんだろう!? レベルカンストは約束する!ひとまず、このドラゴンをどうにかできないか!?」


 少女は目を丸くした。クロウの頼みに驚いたのだろう。クロウはそう思っていたが、彼女の口から出た言葉は――


「私はまだレベル3だぞ!? 倒せるはずがない!!」


「‥‥‥レベル3って、嘘だろう!? Aランクでも採集クエストをこなすだけで5レベルくらい上げられるはずだぞ!?」


 クロウはこれまで、何度も、様々なランクの冒険者らのレベルアップを行ってきたので、必要な経験値の量や、ランクによる違いは大体把握していた。しかしこれには驚きを隠せなかった。


「う、うるさい! 何度一人で初級クエストに行っても全然上がらなかったんだ!」


 少女は先程の強化素材――曰く、モッチーのように跳び跳ねながら叫んだ。事情がどうであれ、今が危機的状況であることに変わりはない。


 クロウはドラゴンと少女を何度か見て、腹を決めた。


「俺が少しでも時間を稼ぐ! 強化素材をできる限り消費してくれ!」


 クロウの提案に、レナは衝撃を受けた。


「モッチーを殺せって言っているの!? 私にそんな無慈悲なことはできないよ!!」


「言ってる場合か!? ドラゴンと渡り合えそうなのは君だけなんだよ! 強化素――モッチーならいくらでも生成してやるから!!」


 その時、ドラゴンが鋭い爪でクロウに襲いかかる。


「うわぁっ!?」


 クロウはどうにか全身を振り、爪を回避して転ぶ。直後には暴風が吹いた。少女は緊張感に襲われ、決断を迫られる。


「うーん‥‥‥! 仕方ない! キミキミ、時間稼ぐって言ったからね!」


「――おう!」


 クロウはなんとか立ち上がった。そして、懐から短剣を取り出して構えた。その額には汗が伝う。ドラゴンは、上空に舞い上がり、威嚇をせんばかりに。


「グォォォォォォォッ!!!!」


 目一杯に鳴き声を轟かせた。竜の類いはいずれも上級以上と定められている。それを身をもって実感する。


 クロウは他のパーティーに所属している間も、精々中級クエストしか参加したことがなかった。パーティーが上級クエストに挑む頃には、荷物番だったり、既に脱退させられたりで、今回が初めてということになる。


「来い!」


 クロウが叫ぶと、ドラゴンは上空から急降下し出した。その重機のような身体が全体重をもってクロウに向かう。恐らくそれは着地寸前で地面と平行に飛行し、クロウは愚か、少女をも襲うだろう。


 クロウは右手側に走る。ドラゴンはクロウの方へと重心を変えていく。距離を見計らい、クロウは短剣をドラゴンに向けた。そして、ドラゴンの顔面の頂点と触れる。直後、当然ドラゴンの体重を受けきれるはずもなく、飛ばされる。


「がぁっ!!」


 ドラゴンが少女に衝突することはなかった。しかし飛ばされたクロウは身体を地面に激しく打ちつけた。倒れたまま動けない。


 ドラゴンは再び上昇する。そして、クロウを睨む。


「ああ、勘弁してほしいな。自分で時間を稼ぐと言っておいてなんだが、E-に上級は厳しいや‥‥‥」


 クロウは諦めた表情で薄く笑む。ドラゴンは上空を向くと、大きく口を開けた。その先では魔法陣が出現し、炎の渦が次第に大きくなっていた。このドラゴンは魔法の類いを扱えるようだった。そして、その炎を放とうとした瞬間。


「てぇらぁあぁっ!!」


 ――その時、少女が空中で長剣をドラゴンに振りかざした。距離があり、明らかに、剣先すら届いていない。しかしその風圧だけでドラゴンが後方に押され、落下する。少女は落下際に、さらに一太刀を浴びせる。剣の軌道上には光の帯が生まれ、ドラゴンを襲う。ドラゴンの鋼鉄のような装甲が割れ、肉体をも裂いた。


 クロウは目を丸くする。確かに強化素材を消費するように言ったのは自分だが、あの短時間でこれほどまでに強化ができるだろうか。


「あの装甲を‥‥‥、たった二度の剣撃で!?」


 ランクが低く、レベルが上がりやすかったなら分かるかもしれない。しかしそれなら初級クエストをこなしてレベル3止まりが府に落ちない。一体――


 痛みすら忘れて熟考するクロウの視界の先では、レナが立っていた。二撃でドラゴンを仕留めた少女の姿は、あまりに勇敢に見えた。


 少女はクロウに振り返る。そして純情な笑顔を見せた。


「キミキミ、サンキューな!」


[レナ=ハイド=ヴィーナス【SS+】 Lv.18]

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