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白き翼のセレナーデ  作者: 柚月 ぱど
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エピローグ

最終回です。長い間お付き合いいただき、本当にありがとうございました! 本編終了後に連絡がございますので、お時間があればお読みいただけると嬉しいです!

 ふと、何か欠落感を覚えて目が醒めた。いつも当然に存在するものが失われた感覚。俺はその空虚な隙間に、ゆっくりと両目を開く。

 そこには見慣れない天井があって、俺は自分が廃教会やバレンティーナのセーフハウスで暮らしているわけではないことを思い出す。そのままベッドから上体を起こして、隣を見やる。そこには誰もいなかったが、何者かが眠っていた痕跡があった。俺は少し不安に感じて、ベッドを離れる。

 今は恐らく深夜であり、普通人間が活動するような時間ではない。お手洗いに行っているだけかとも思ったが、俺は内心のちょっとした恐怖心から、彼女を探すことにした。

 ジャケットを羽織りながら寝室のドアを開けて、そのまま廊下に出る。廊下には人の気配が一切なかった。この様子だと、どうにも外に出ているらしい。夜風に当たりたいだけかとも思ったが、やはり心配だ。

 俺はリビングを抜けて、そのまま玄関に出る。そのまま玄関の扉を開けて、外に繰り出した。

 扉を開けた途端に涼しい――むしろ少し寒々しい夜風が舞い込んできて、軽く身震いする。彼女が上着を着て出ていったか不明だったが、風邪をひかれても面倒だし、さっさと連れ戻すことにしよう。

 自宅を出た先は草原になっていて、地球に大きく接近した月がその存在感を示していた。天使の生誕(エンゼル・フォール)以前の月はもっと離れていたと聞くが、実際を知らないので厳密にはわからない。生まれてからずっと月の大きさはこんなものだと感じていたから、何の違和感もないのだ。そんな風に月を眺めつつ草原を歩いていると、ふと視界に入るものがあった。

 それは人影であり、シルエットであった。目を細めて確認するも、当然のことながら彼女であった。栗色――亜麻色に近い髪色に、白い肌。まだ少女の面影を残す輪郭は、こちらに庇護欲を抱かせた。

「マリィ」

 俺は背後から声をかける。マリィは元々こちらの存在に気が付いていたのか、驚くような様子はない。

「どうした、こんな夜更けに?」

 そう言いつつも、俺は彼女の隣に並んで月を見た。ここからでも月の表面の凹凸が確認できて、それぞれに名前が付いていることを思い出す。

「少しね、怖くなったの」

 マリィはそう呟いた。

「本当は、私が天使の生誕(エンゼル・フォール)をもう一度起こして、世界を救わなきゃいけなかったんじゃないかって。私にはみんなを救う力があるのに、それをしなかった」

「後悔してるのか?」

 そう尋ねると、マリィは口を噤んだ。やはり考えてしまうこと自体は仕方ないだろう。だけど、俺はマリィの頭を優しく撫でてやる。

「でも、見つかったんだろ? お前の生きる意味」

 彼女の方を見やると、マリィは嬉しそうな笑顔を浮かべて、確かに頷いた。

「うん。――私の生きる意味は、他人にせがまれるものじゃない。世界のためなんかに犠牲になるくらいだったら、今を精いっぱい生きる。自分の生きる意味は、自分で決めるの。それでね――」

 マリィはこちらの手を握ってきて、本当に満面の笑みで、

「私の生きる意味は、天使に殉じることじゃない――シリウスと一緒に生きることだよ」

 不意に、一陣の夜風がなびいた。その突風は俺たちを包み込んで、そして鮮やかに流れていく。その風は俺たちの選択を祝福しているようで、どうも頬が緩んでしまう。


 夜明けは来なかった。だけど、きっと心は晴れたから。

 生きていこう。俺の生きる意味だって、すぐ傍にあるのだから。


『白き翼のセレナーデ』これにて完結です! 繰り返しになりますが、ここまでお付き合いいただいて、本当にありがとうございました!

細々としたお話は活動報告やツイッターの方でご連絡致しますが、ちょっとした小話を。今作は”生きる意味”がテーマとして存在しています。マリアを喪って心に穴が空いた主人公シリウスが、マリアと瓜二つの少女マリィと出会い、彼女を通して過去から脱却し未来に生きることをメインとして描いています。例のごとく重いお話になってしまいましたが、楽しんでいただけたら幸いです!

それとご報告ですが、十一月の新作投稿はお休みさせていただく可能性が高いと思います(新作の案そのものはありますが、精度を上げるためにお時間をいただきたく存じます)。しかし完全に投稿を止めてしまうのも何なので、十一月は一週間に一度、恐らく土曜日の八時に今作のおまけシナリオを(プラットフォームはまだ決めていませんが)投稿すると思います。しかし変更になる可能性もあるので、興味のある方は続報をチェックして下さると嬉しいです。

長くなってしまいましたが、最後まで読んで下さり、本当にありがとうございます! 今作が皆様の心の片隅に残ることを願っています。それでは、またお会いしましょう! またね~!

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