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白き翼のセレナーデ  作者: 柚月 ぱど
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第一部 1 世界で最も罪深き場所

今日の分ちょっと長いです。申し訳ない......

 白く崩れ落ちた瓦礫が、歩道に散乱していた。瓦礫のもととなった廃ビルの類はほぼ全てが倒壊しており、コンクリの合間から突き出た鉄骨が月に照らされて鈍く輝いている。あらゆる建物が耐久年数を超過しているからか、綻びがない建築物など存在せず、破砕や崩壊、欠損などの状態に陥っていた。建物には苔などが自生していて、植物と人工の建築物との融和は、むしろ芸術的なものにも思えた。

 倒壊したビル群から眼下に視線を戻す。するとビルの足元や歩道には、朽ち果てた人間の死体だったものが数多く安置されており、過去には人が存在していたことを教えてくれる。しかし死体は大量に転がっているものの、生者と呼べるものは俺以外に一人もおらず、この都市が屍者の街(ネクロポリス)と化していることを雄弁に語っていた。

 屍者の楽園。そう表現するのが適切だろうか。白骨化した遺体で埋め尽くされた歩道は、その死骸だけで白々とした色彩を主張していて、生者がここに存在することを拒んでいるかのようだった。彼らは最期に、一体何を思ったのだろうか。まるでアリの大群のように埋め尽くされた人々は、その一つ一つに意思と呼ばれる自我が存在していたのだろう。しかし今の俺から見てみる限り、有象無象の一つにしか思えなかった。

 人は、一人一人の意味を持って生きている。誰かから聞いた言葉。それは自分がこの有象無象の一部だと理解しないようにかけられた呪いのようなものだ。こんな惨状を見ても、人が一人一人の生きる意味を持っているなど言えるのだろうか。人は、本当に呆気なく死ぬ。他の動物のように爪も牙もない。ある意味、人間は智慧で武装しなければ地上で一番脆い生物だとも言える。そんな矮小な個体一つ一つに、生きていく意味や、生きてきた意味というものが存在し得るのだろうか。不意の事故で呆気なく死ぬ。生まれてきた瞬間に呼吸ができずに死ぬ。そんな人間がいる以上、生きる意味をほざくというのは彼らに対する冒涜なのではないだろうか。

 地上に転がった屍者の大群から目を背けて、視線をもっと先の方へ向ける。廃ビルや死体の山を抜けると、そこには大きな空洞があった。

 過去には、核爆弾と呼ばれる史上最悪の兵器が存在したとされている。その兵器は都市を一瞬にして穿ち、万を超える人々を秒で殺戮するという。今となってはそんな兵器の存在信じることなどできないが、目の前の状況を見てみると、そうも簡単に否定することもできないのだ。

 俺は防護服越しに息を吐いて、ゆっくりと移動を開始した。この場所は毒素が多すぎる。特殊装備なしで訪れようものなら、すぐさま死神が迎えに来るだろう。昔からこの場所は第一級汚染区域と呼ばれており、基本的に人間が立ち入れない場所だった。ミハイル教会の連中は聖域と呼んで巡礼地に指定しているが、まぁ普通の人間が入れないという意味では共通している。

 少し歩くと、まもなくその大穴の目の前まで到着した。大穴は半径数百メートルを優に超えており、掘削深度も百メートル単位だろう。巨大な大穴はそこに存在していたものを全て焼き払っており、ただ空虚な洞が刻まれているだけだった。

 この大穴を作り上げたのは、天使の生誕(エンゼル・フォール)と呼ばれる世紀の悲劇らしい。らしいと言うのは他でもなく、天使の生誕(エンゼル・フォール)が起きたのは数百年も前らしく、伝聞でしかその情報は伝わっていないのだ。

 数百年前、ここはニホンと呼ばれる国だったらしい。核兵器を持たず、戦争放棄を絶対条件としていた平和の国らしいが、ある日、そのニホンに核弾頭が撃ち込まれた。

 ニホンと言っても、ここは東京と呼ばれる場所で国の首都だったらしい。だから大勢の人間がいたわけで、天使の生誕(エンゼル・フォール)の一件で死の街と化したようだ。放射能で被曝した人間たちの楽園。それは確かに屍者の街と呼べるようで、皮肉が聞いていて笑えない。

 しかしそれだけならまだマシだった。ニホンという国の東京が壊滅するだけなのだから。しかし悲劇はそれだけでは終わらなかった。

 天使の生誕(エンゼル・フォール)がもたらした悲劇は、他にもある。東京に落ちた核弾頭の威力は想像を絶するものだったらしい。その結果何が起きたかと言うと、この星、地球の位置がズレてしまったようなのだ。

 地球は太陽の周りを自転している。その天文単位と自転周期が奇跡的だったからこそ、人類は生存できたのだ。しかし地球は天使の生誕(エンゼル・フォール)によってズレてしまった。それも致命的な具合で。

 地球は全体的に太陽の天文単位から少し離れてしまった。その結果地球には驚異的な寒冷期が訪れ、作物が育たなくなった。もちろんそうなれば食料自給もできなくなり、多くの人間が死んでいくこととなる。すぐさまインフラと呼ばれるものも崩壊したらしく、過去に電波で繋がっていた人類は一瞬にして孤立し、死んでいったらしい。

 作物が育たなくなると言っても寒冷地で育つ作物もあるにはあるが、それも致命的な打撃を受けていた。それはこの地域――夜の国(ノクターン)と呼ばれるこの国限定の話ではあるが、先の天使の生誕(エンゼル・フォール)によって、地軸もズレてしまったのだ。その結果このノクターンは――旧東京外周区と呼ばれる区域は特に――極夜と呼ばれる状態に陥り、永遠に夜が明けない場所になってしまったのだ。

 夜明けが来ない国、ノクターン。悠久の夜に包まれた場所で作物など育つはずもなく、俺たちは他の地域との貿易で得た食料に頼るしかなかった。しかしそれは食料を自給できないということの裏返しであり、もし不作などに陥ればこの国は簡単に滅びる。それくらいノクターンは死に瀕していた。

 一応ノクターンにも暫定的ではあるが政府が存在し、どうにか食料の確保に尽力してくれているが、このノクターンは海運で物資を他の国から輸送してもらう他なく、それが滞ったらお終いというわけだ。

 なら他の国へ移住すれば良いと思うが、そういうわけにもいかない。ノクターンのみならずどの国も物資不足は深刻であり、これ以上どの国も人口を増やそうものなら自滅するのが目に見えているのだ。だから他の国からの移民など受け入れるはずもなく、門前払いされるのが関の山だ。

 ならばノクターンの人々で手を取り合って生きればいいとなるが、物事はそう簡単には運ばない。この国、ノクターンには燻ぶった灰が満ちている。確かに比喩ではあるが、この表現が適切であろう。ノクターンでも特に旧東京外周区と呼ばれる区域は汚泥が積もりに積もっていた。

 旧東京外周区は暫定政府の権能が及ばないほどの無法地帯であり、殺人や強盗、強姦や飢餓、麻薬と暴力に満ちている。人々は皆堕落し、生殺与奪の権利を他国に握られているからか、生きる希望というものを見いだせていない。だからこの国――もとい旧東京外周区は腐敗しきっていた。

 だけど、腐敗した旧東京外周区を立て直そうと考えた大馬鹿者も存在していた。腐りきった外周区に暫定政府以外の組織の手に依る統率を取り戻して、秩序を敷こうとした者。彼女が作った組織は連合同盟ギルドと呼ばれており、その頭領ギルドマスターの座にはもちろん彼女――バレンティーナが鎮座している。

 バレンティーナと俺は腐れ縁で、十年来の付き合いだ。俺たちの関係をどう描写すれば良いかは困るが、師弟、義兄妹、母子――このような表現が当てはまるかもしれない。俺は昔、盗みをやって生きながらえていた時に彼女に拾われ、共に戦い、最終的には彼女の望んだ連合組織、ギルド設立を支援した。厳密には俺は連合同盟の人間ではないが、頭領がバレンティーナということもあって、深い関係にある。

 連合同盟は腐敗した旧東京外周区の自治体として君臨し、過去のそれとは異なりある一定の秩序をもたらした。暫定政府とも積極的に交渉し、自治権の容認、支援物資の優先的配給、連合同盟独自の法整備の追認などを持ち掛けた。その結果過去の外周区とは比べものにならないほどの秩序がもたらされたわけだ。女、子どもは怯えることなく外出できるようになったし、市場バザールも整備された。安全とは言い難いものの、比較的安定した暮らしを送れるようになったのだ。

 けれども、一定の安寧を取り戻した旧東京外周区にも不安要素はあった。それはミハイル教会という宗教団体であり、今この国で絶対的な権力を有している団体である。

 ミハイル教会は飢餓に苦しむ者や暴行を受けた者、つまり社会的弱者を取り込んで、現在も急成長を遂げている組織だ。今この国には貧困が蔓延っていて、そう言った意味では信者の獲得に事欠かないと言える。しかしそれだけならただの宗教団体なのだが、ミハイル教会の特別性は他にあった。

 ミハイル教会はあの天使の生誕(エンゼル・フォール)を神の使いが降臨したから起きた出来事だと吹聴している。だから爆心地や第一級汚染区域は浄化された聖域であり、容易く足を踏み入れてはいけないとしているのだ。どうもトチ狂った連中だが、信者は食事や寝床を貰えれば良いわけで、そこまで頭ごなしに信用しているわけでもないのだろう。ミハイル教会は世界中に組織が細分化されているらしく、暫定政府を通さない独自のルートで食料などを確保できるらしい。そんな能力があるのならこちらにも少し分けて欲しいくらいだったが、暫定政府の建前上、接収以外にそのロジスティクスを享受できないのだろう。連合同盟としても、縄張りの人手を回収されてしまうので犬猿の仲というわけだが。

 まぁそんなこんなで、この世界は終わりを待ち続けている。いつこの国が滅ぶかなど、考えるだけ無駄だ。人は死ぬときあっさり死ぬし、それに意味なんてない。食料の供給が断たれるだけで全滅する国など、国と言えるのかも疑問だが。

 そんな中で、俺は一人爆心地を訪れていた。何も好き好んでこんな毒素に満ちた場所にやって来たわけではない。これは俺が依頼人クライアントから受けた依頼であり、俺が何でも屋である以上、いやバレンティーナの義弟である以上、こなさなければならない任務であった。

 この任務を受注したのは、昨日の夕方――と言っても夕焼けは見れないが――だった。

 俺は先の任務の完了報告を行いに、旧東京外周区の中央に位置する連合同盟の本拠地を訪れていた。重い玄関扉を両手で押し開けて、早いところ帰りたいと思っていた矢先。

「おや、シリウスじゃないか。今日もお疲れさん。完了報告か?」

 右の方を振り返ると、こちらに歩み寄ってくるバレンティーナの姿があった。その背後には二人の強面用心棒が付き添っている。言うまでもなく、この連合同盟内では要人である彼女の護衛だろう。その剣呑な雰囲気には少し溜息が出るが、この様子だとバレンティーナは俺に厄介事を押し付けようとしているらしい。このように偶然を気取って声をかけてくるときは、決まって俺が戻って来るのを待っているのだ。

 俺はあからさまに舌打ちして、その場を離れるふりをした。

「まぁ待て。今日も疲れただろう。久しぶりに姉弟水入らずで話さないか?」

 間違いなく、バレンティーナは俺に面倒事を押し付けるつもりだろう。それがわかっていたので、俺はわざとらしく大きな溜息を吐いた。

「……どうせ誰もやりたがらない外れの仕事が余って困ってるんだろ? それなら新人ニュービーにでも押し付ければ良いじゃないか。俺は忙しい」

 まぁ彼女が持ち寄ろうとしている仕事が新人になど務まるはずがないことはわかっていたが、ぶっきらぼうにそう答える。外れの仕事というのは報酬と難易度が釣り合っていないものも指すが、あまりにも危険度が高いものも外れ認定される。バレンティーナが持ち寄ったのはもしかしなくても後者だろう。

「まぁそう言うな。姉弟水入らずで話したいというのは本当だ。最近はお前も溜まっているんじゃないかと思ってな。少しでも私で発散すれば良い」

 そう言うと、バレンティーナは元々はだけさせていた胸元を更に広げた。こういう誘い文句は相変わらず下手くそなままで、色気も糞もない。

「女は結構だ。それだけなら帰らせてもらうぞ」

 溜息を吐きながら、バレンティーナに背を向けようとした。しかし彼女は俺の肩をしっかりと掴んで離さない。腕っ節が強いのも相変わらずらしい。

「冗談だ。――ここだけの話、お前にしか頼めない仕事だ。話だけでも聞いて欲しい」

 バレンティーナは唇を俺の耳元まで寄せると、囁くようにそう呟いた。俺にしか頼めない仕事。それはバレンティーナが俺を信用しているという証でもある。彼女はこう言えばこちらが諦めてついてくることを知っているのだ。相も変わらずズルいところはとことんズルい女である。

「……はぁ。わかったよ。ついてくからその手を離せ」

 諦めてそう呟くと、彼女は嬉しそうに肩から手を離した。

「流石私の弟だ。美味い酒もある。まずは世間話といこう」

 俺が酒嫌いなことを知って言っていると考えると、バレンティーナという女は中々に侮れない奴だった。


 通されたのは、いつもバレンティーナが面倒な依頼を押し付けるときに使う彼女の執務室だった。普段は彼女の雑務や暫定政府からの使者などの対応に使う部屋だが、そもそも政府の連中は連合同盟を毛嫌いしているきらいがあるので、あまり使いは来ない。だからこうして俺に厄介事を押し付けるための部屋になってしまったのだ。

 バレンティーナは俺が執務室に入ると、護衛の用心棒二人に人払いをかけた。まぁそもそも狂犬クレイジードッグと呼ばれているバレンティーナに警護が必要かどうかは疑問だが。

「用心棒と言っても、もしかしたら暫定政府の間諜かもしれない。特に今回の一件に関しては、私とシリウスだけの秘密にしたい」

 俺の内心を読み取ったのか、バレンティーナが苦笑した。俺は取り敢えず肩を竦めておく。

 バレンティーナは執務室に向かい合う形で設置されたソファの片方に腰掛ける。そして手前のテーブルに常備されている葉巻を手に取った。

「おおっと。酒を出す約束だったな。ちょっと待ってろ」

 そう言って彼女は葉巻を置いて背後にある戸棚に向かおうとするが、俺は溜息を吐いてそれを止める。

「いらん。俺が苦手なの知ってるだろ」

 バレンティーナも冗談のつもりだったのか、薄く笑って戸棚に向かった。

「まぁ座れ。茶で良いか? あまり良い茶葉は持ってないが」

「今はいい。先に依頼内容を聞かせてくれ」

 そう告げてバレンティーナとは反対のソファに腰掛けた。それと同時にバレンティーナがソファに戻って来る。彼女はテーブルに置いた葉巻の先をナイフで切ると、ポケットから出したマッチで火をつけた。

 白い煙が立ち上り、バレンティーナは一息ついた。

「葉巻も入手しづらくなった。職人もこの国にはいないし、輸入するしかない。鹵獲サルベージも底をつきそうだ」

「そろそろ止めどきなんじゃないか? 手に入らなくなった時辛いぞ」

「忠告痛み入る。だがこれ習慣のようなものでね。止めようったってそう簡単にはいかないのさ」

 葉巻独特の匂いが周囲に立ち込める。紙巻きも入手しにくくなった中、バレンティーナは葉巻にこだわってきた。煙草を吸わない俺にはわからない執着だが、彼女なりのこだわりがあるのだろう。

 数回葉巻に唇を付けたバレンティーナは、小さく溜息を吐いた。

「すまないな、毎回。お前ほどの手練れはもういないのだ」

「世辞はいい。それで、今回はどんな厄介事だ?」

 バレンティーナは煙を吐くと、こちらを真っ直ぐに見つめた。

「第一級汚染区域、に向かってもらいたい」

 その一言で、俺は俯いていた顔を彼女の方に向け直した。今の一言にどのような思惑が絡んでいるのか探るためだ。だけどバレンティーナの表情は真剣そのもので、この依頼が下心の混ざったものではないことを物語っていた。

「それはどうして?」

 第一級汚染区域と言えば、天使の生誕(エンゼル・フォール)の爆心地だ。そうともなれば汚染濃度も深刻で、現在の防護服でも放射線を防ぎきれるか疑問が残る。連合同盟の任務とは言え、二つ返事で了承するわけにはいかなかった。

 バレンティーナはまた葉巻に口を付けて、ゆっくりと紫煙を吐き出す。

天使の生誕(エンゼル・フォール)の一件について、その殆どの情報を暫定政府が独占していることは知っているな?」

 バレンティーナの問いかけに、俺は無言で頷いた。

 天使の生誕(エンゼル・フォール)については、今現在でも詳細な情報は闇の中だ。件の事件について知ることは、今後生活するうえで生死に直結する情報であることは確かながら、そのインテリジェンスのほぼ全てを暫定政府側に握られていた。連合同盟としては旧東京外周区の自治を行っているからして、面白くないことは確かである。すぐ隣に天使の生誕(エンゼル・フォール)の情報が眠っているというのに、その開示を請求できないのだから。バレンティーナとしても現状を打破する切り札を奪われているも同然なので、歯がゆい思いをしているだろう。

天使の生誕(エンゼル・フォール)の子細な情報を収集することは、この先の見えない暮らしを突破する糸口になると信じている。しかし暫定政府との取り決めで、我々は天使の生誕(エンゼル・フォール)の情報について手を出せんのだ」

 連合同盟を発足する際に、暫定政府に旧東京外周区の自治権を認めさせる見返りとして、天使の生誕(エンゼル・フォール)の情報に干渉しないという契約がなされた。つまり連合同盟は――公式には――その類の情報について知ることは許されないのだ。その時点で天使の生誕(エンゼル・フォール)に民衆には知られたくない情報が眠っていることがほぼ確実になったわけだが、バレンティーナとしては連合同盟を屹立させるために必要な取引であっただろう。歯噛みしたくなる気持ちはわからなくもないが、過ぎたことだ。

「それで、不干渉の取り決めがある中、俺に爆心地の様子を探って来いと?」

 確かに俺は連合同盟発足に協力はしたものの、構成員ではない。つまり連合同盟員なわけではなく、“俺個人が勝手に”天使の生誕(エンゼル・フォール)について探るのはいわゆる脱法に収まるわけだ。恐らくバレンティーナも俺を連合同盟に引き入れなかったのは、私兵として便利に使える遊撃手が欲しかったからだろう。その実が結ばれようとしているわけだ。

「ああ。これは連合同盟外の人間で、かつ手練れにしか頼めない。やってくれるか?」

 俺は細く溜息を吐いて、ソファに沈み込んだ。

「しかし、俺は暫定政府の連中に山犬ビッグドッグって呼ばれてるんだろ? 連合同盟の連中と同じ扱いにならないのか?」

 俺は元暗殺者で、バレンティーナの義弟であったことから狂犬にちなんで山犬と呼ばれていた。暫定政府の連中からしたら、俺もバレンティーナも連合同盟の一員だと映るだろう。

「物事には線引きと言うものがある。こちらが仲間ではない証拠を示せれば、納得する他なかろう?」

 まぁ俺は構成員名簿に記載されていないが、そんな状況証拠で大丈夫なのだろうか。

 相変わらず無茶な論理を展開するバレンティーナに半ば辟易して苦笑する。だけどこのような無茶ぶりは日常茶飯事――不本意ながら――であったので、呆れるくらいで済ませられる。そもそも俺のように身軽な行動を起こせる人員は連合同盟としても限られてくるはずなので、仕方ないと言えば仕方ないが。

「――わかった。その依頼受けよう。だが報酬は弾んでもらうぞ」

 小さく溜息を吐きながらそう呟くと、バレンティーナは満面の笑みを浮かべた。

「そう言ってくれると思っていた。装備はこちらで用意しておこう。流石に防護服となるとそう簡単には手に入らんからな」

 その辺りの準備がよろしいのは、バレンティーナらしいと言えた。

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