ご
職員室と同じ二階で、だけど一番遠い校舎の廊下の隅の隅っこ。
そんな危険過ぎる位置に噂の危険人物は潜んでいる。
『笹原さ、昔生徒を襲った事あるんだって』
『あいつ族に入っててつい最近まで刑務所にいたらしいぞ』
『風俗に通ってるって。年下の彼女が何人も……』
高校に入学して以来、たくさんの笹原に関する噂を聞いてきた。
中にはあからさまにでっちあげだろ、と思う物もあったが別に笹原に恩を売るつもりもなかった。
だから、いざこうしてこの古びた生徒指導室のドアを目の前にすると足が動かなかったりする。
もしあの噂やあの噂が、全部本当だったとしたら……。
「何してんの新崎。早く入りなって」
き、来た……っ。
私は背後の存在に気付かないまま突っ立っていたらしい。
手の平で部屋の中に押し込められて私はつまづきながらその殺風景な部屋を見渡す。
カーテンの閉めきられた部屋にデカイ長丸のテーブルがどんっと置いてあった。
「あの、何なんですか?私早く教室に戻って勉強したいんですけど」
「さすが我がクラスのマジメちゃん。ホント、尊敬しちゃう」
馬鹿にしてるのかと思った。
ぱちぱちと手を叩いているのがやけに気に障る。
「先生、用事は!」
「意外と短気?」
ククク、と笑う憎たらしい声に私の頭の中でプツンと。
確かに張り詰めていた筈の何かが弾けた。
「用がないなら帰ります」
「待て待て。人生急がば回れだ」
「……先生、意味分かってますか?」
と、腕を掴まれた感触がする。
出てってやろうとしたドアを掴んだ手まで奴のでかい手に包まれていた。
「昨日、あんな所で何してたんだ新崎。もしかして俺の事見てたの?」
……は?