いち
学ラン二人組をちらちらうっとり見ていると、胸ポケットに入っていた携帯のブザーが振動する。
私はチッと舌打ちしてから携帯の画面を覗いた。
「チヨ?何?何か用でも?」
『何?じゃねぇよ!お前いつまで勉強してるつもりだよ!俺もう部活終わって山川と校門で待ってんだけどッ』
明らかに不機嫌な声で出たら携帯を突き抜けるような大声で怒鳴られてしまう。
仕方ない、と私は本を元の位置に戻して名残惜しくも外に出た。
まだ春とはいえ肌寒い。
「あ、ごめん。今駅前の本屋来てる」
『は!?朱麗教室で勉強してるっつってたじゃんか』
「ごめん。気付いたら帰ってた。じゃ、明日学校で」
『うわっ!おいちょっ、この夢遊びょ……っ』
驚いた声はツーツー、という機会音に変わる。
何でか本能が私を呼んでいた。もうすぐ学ラン二人組が本屋に到着しますよーって。
しょうがないから首に巻いたマフラーを強く握り締めて顔を埋める。
私は春になっても防寒具が手放せない極度の冷え症だ。
ぼうっと、いやふらふらと歩いていたらある事に気が付いた。
軽い。
異常に鞄が軽い。
嫌な予感がして中を漁ろうとしたらその必要はなかったらしい。
何にも入ってなかったんだからね。ハハ。
私はじっとそれを見つめてチャックをし、元来た道をひたすらに進んで行く。
明日は小テストがあるのに満点以外ありえないから帰って行った。
ただそれだけの事。
てくてく戻った頃にはもう日はすっかり沈んでいた。
私はかろうじて開いていた校門の隣の小さなドアを抜け、教室に侵入して小走りで野球部の邪魔にならないようグラウンドを駆けて行く。
息が白くなった。
体温が上がってるからかしら。
ふと、グラウンドの角の目立たない体育館との繋ぎの廊下に人影を感じた。