3
「そう言えば」
しょぼしょぼし始めた目をPC画面から逸らし、机の横の飴を口に入れてから、横でノートPCを操る文乃に尋ねる。
「山川の誕生日、って、いつだったんだ?」
「知らなかったの?」
間髪入れず、呆れた声が返ってきた。
「七月十七日」
「え?」
文乃が口にした日付に、口の中の飴を飲み込みそうになる。司の誕生日が七月三十一日、文乃の誕生日が七月三日、だから。
「私たちの誕生日の丁度真ん中が、山川君の誕生日」
本当に、知らなかったの? 大きめの飴を舌で転がしながら指を折り始めた司の耳に響いた声に、照れた笑みを返す。大学に入るまで、友達同士で誕生日を祝うのは校則で禁止されていたから、文乃の誕生日を初めて祝ったのも、大学院に入って同棲を始めた後。透の誕生日も、いつか祝いたいと思っていたのだが、誕生日を聞き出す前に、透は、不運な事故で亡くなってしまった。
大学一年の時にでも、文乃と三人で誕生日を祝えば良かった。小さな後悔が、胸を噛む。大きめの液晶ディスプレイに向き直り、大学院の課題に集中することで、司は心を戻した。透のことは、忘れない。でも、後ろ向きにはならない。それは、文乃と二人で決めたこと。大学院進学をきっかけに同棲を始めたのも、透なら、きっと祝福してくれると、思ったから。
透は、甘いものは好きだろうか? ふと、いたずらに似た感情が、芽生える。透の誕生日に、郊外のお寺の奥にある透の墓にケーキを供えたら、怒られるだろうか? もちろん、透には悪いが、供えたらすぐに、司が全部食べてしまう予定だが。口の中にある甘さの中に温かさと寒さを同時に覚え、司は小さく咳き込んだ。