表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

第一話:ボロを着るおっさん

・主人公 : 会社員、男性。

・・一人称 : 俺。

・・呼ばれ方 : 兄さん。


・おっさん : ホームレス(見た目)、男性。

・・一人称 : オレ

・・呼ばれ方 : おっさん


「よう、おっさん」

 今日の手土産は、サンドイッチと缶コーヒー。

 目の前には、ボロを着るホームレスのおっさん。

 このおっさん、人通りの多い地下鉄の構内にいながら、誰からも認識されていなかったりする。

 いくら目立たない場所を選んでいるからといって、誰からも見られないのはあまりにも不自然。それが、どこか面白く感じていた。

 だから、ちょくちょく昼の休みを利用してこのおっさんに会いに来ていた。


『兄さん、また来たのかい? おっさんさあ、来ちゃいけないって言わなかったっけ?』


「ほー、なら、このサンドイッチ、要らねーんだな?」


『食う食う。いただきます』


「その代わりさ、暇潰しにまた面白い話してくれよ」


 コンビニの大してうまくもないサンドイッチを、ゆっくり味わって食べるおっさん。

 美味い昼飯なら、そこら中で食える。

 コンビニサンドイッチの利点なんて、値段と手軽さくらいだ。

 それを、よくもまあ。


『……ごちそうさまでした。今日も、うまかったです』


 気合いの入った合掌。


 ……もしかしたら、このおっさん、今日一日の食事はこのサンドイッチだけなのかもしれないな……。


『んで? オレは、面白い話なんか出来んぞ?』


「ほら、前にやったじゃんよ? あの、死人当てゲーム」


『……ゲームなどではないと言っただろう?』


 地震のように腹に響く、恐ろしい声。肝が冷えた。


 どうやら、怒らせてしまったようだ。


 ……とはいえ、見ていた俺は、ゲーム感覚だったんだけどな?



※※※


 しばし、駅を行き交う人を、おっさんと一緒に眺める。


 すると、不意に、おっさんが指を指す。

 その、指の先には……?


「ぶっ!?」


 吹いてしまった。

 いやいや、それも仕方ないんじゃないかな?

 だってさぁ……。


「なあ、おっさん。あの、鬼みたいな姿の小人は、やはり鬼なのか?」


『ふうん? お前さんには、アレは鬼に見えるのか。そうかそうか』


 ビジネスマン風の男性の肩に、おとぎ話の鬼をそのまま小さくしたような、灰色の何かが乗っかっており、男性の鎖骨辺りから、その小さな腕を、男性の体の中へと差し込んでいった。


 ゆっくりとめり込んでいく腕。

 気づかない男性。

 おっさんを見てみれば、真剣な表情で男性と小鬼を見つめていた。そして。


『あの、グレーのスーツのビジネスマン、死ぬぜ。……あと、三十秒』


「……お、おいおい。おっさん、そりゃないぜ? どう見ても元気そうにしか……」


『10、9、8』


 お、おいおい……。なんか、カウントダウン始めたぞ?


『7、6、5』


 や、やめろよ。そんな、心臓に悪いだろ?


『4、3、2、1』


 やめろ、やめろって……。


『……ゼロ』


 うっ、と、うめき声をあげて胸を押さえた男性は、そのまま倒れ込んでしまった。

 そして、小さい鬼は、男性の体から虹色に輝く球体を取り出し、大事そうに抱えてどこかへ消えていった。


 しばし呆然としてその様子を眺めるが、駆けつけた救急隊員が蘇生を試みるも、功を奏することはなかった。



 やがて、どこかへ運ばれていく男性を尻目にしながら、俺は、以前との違いに驚きを隠せなかった。


 以前は、『寿命と死因当てクイズ』とでもいうように、適当な人の残りの寿命と死因をおっさんが語っていく、というものだった。

 その中には、『二週間後、熊に襲われる』や、『一ヶ月後、サメに襲われる』という人もいて、適度にジョークを交えながら、おっさんが適当に語っているのだと思っていた。

 しかし、これじゃまるで……。


『オレが、殺したとでも言いたいか?』


 つい、おっさんから視線を逸らす。その態度は、おっさんの言葉を肯定したとしか思えないもので、軽い自己嫌悪を覚える。


『その通りだ。なぜなら、オレは死神だからな』


 ……が、なぜか誇らしげなおっさんの態度を見ると、ジョークとも本気ともつかない気持ちになってきたりする。


『それより、時間は大丈夫なのか?』


「あっ!? やっべ、おっさん、またな!」


 返事も待たずに走り出す。

 気が付けば、午後の仕事にギリギリの時間だった。


『もう来るんじゃねぇぞ!』


 その割には、コンビニサンドイッチをうまそうに食ってたじゃないか。ツンデレか?

 おっさんのツンデレに、需要なんてあるのか?


 その日の午後、ちょっと遅刻して怒られた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おおー、これは面白い始まり方ですね! 続きも楽しみです♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ