8.ペットのひみつとシャロンの本心
今日は三話更新。三話目。
僕らはギルドに併設された図書室へと入った。
中は広かったが、たくさんの本棚で埋まっていた。
壁際も本棚で埋まっている。
部屋の中央に何人かが座れる読書机があったが、人はいなかった。
「あんまりみんなは利用しないみたいだね」
「人がいないのは好都合ですわ」
「そうだね。よかったね、シャロン。これで危険な僕と別れる方法が見つかるよ」
「そ、そうですわね……」
シャロンは微笑んだが、どこか寂し気だ。
おや? と思った。
ペット状態が嫌で、早く僕から離れたいだろうに。
「じゃあテイマーについて書かれた本を探そう。シャロン右の本棚を探してもらえるかな?」
「わかりました」
「きゅい!」
背負い袋からも返事がした。
読書机に袋を降ろして中を開ける。
首の長いずんぐりした体格のドラゴンのランが出てきた。
「手伝ってくれるの?」
「きゅい」
長い首で頷くラン。
「ありがと。飛べるから上の方探してね」
「きゅいっ」
ランは背中の翼を広げてぱたぱたと飛び上がった。
それからしばらく本を探した。
最初に見つけたのはシャロンだった。
すらりとした手に分厚い本を持っている。
「この本にテイマーの基本が書かれていますわ」
「ありがと……どれ」
本を受け取って見ると『テイマー学概論』と書かれていた。
中を開けて目次を見る。
「なんだか難しそう」
「わからないところがあれば、私が解読しますわ」
「うんお願い……えーと、スキル解説のページは……56ページか。ふむふむ」
「なんて書いてあります?」
「テイムの次に覚える【解放】は、使えば即座にペットと別れることができる。解放したペットはすぐに元の場所へ逃げかえるだろう、って」
「なりませんでしたよ?」
「う~ん。あ、続きがある。ただし、ペットの好感度が最大値の場合、テイマーからの一方的な解放は拒絶される、だって。これかな? シャロン、僕に対する好感度高いんだ?」
「そ、そんなことはないわですよっ! 知り合ったばっかりで、そんな、すぐに好きになったりしますんですよっ!」
口調をおかしくしながら、息を喘がせつつシャロンが言う。頬も赤くなっている。
僕も頷く。
「まあ、そうだよね。好感度の上下って、どうなってるんだろ……えっと、好感度とはペットの主人に対する親愛の気持ちである。この数値が低いと命令を聞かなかったり、逆らったりする。逆に高いとよく言うことを聞く。基本的に好感度はエサをあげたり、毛づくろいをしてあげたりなどで上がる。丸一日何もしないと下がる……ということは、あれから何日かたってるから、解放できるかも?」
「そうですよ! できるますよ!」
おかしな言葉で必死に好感度を否定してくる。
――なんでこんなに必死なんだろう?
とりあえず僕は手を伸ばしてシャロンのすらりとした手を握った。
びくっと体をこわばらせる。
「どうかした?」
「なんでもないですわのですよっ!」
「なんだろ。まあいっか――テイマースキル発動【解放】」
しかし何も起きなかった。
シャロンのステータスを見ようと思えば見れた。ペット解除できていない。
シャロンは赤い唇を噛みしめて、目の端に涙を浮かべる。
「きっともう離れられない運命なのですわ」
一見、悲しんでいるように見えたが、よく見ると嬉しさを噛みしめた表情にも見える。
ますます様子がおかしかった。
僕は首を傾げつつ続きを読む。
「そんな。きっと何か方法があるよ――おや? こんなことも書いてある。……長い時間をかけて触れ合い、語り合い、エサやアイテムをプレゼントをして、とても仲良くなってからテイムすると『テイム大成功』する場合がある。この場合一生好感度が下がらず友好的なままである。相思相愛の結婚状態と言える」
「結婚――ッ! くはっ」
シャロンが息を吹いて、さらに喘いだ。青い髪が乱れてドレスの裾も乱れる。
挙動不審すぎる。
「テイム大成功したらもう離れられないんだ。これっぽいけど――でも違うよね? 長いふれあいとかプレゼントとか、何もしてないし」
「そ、そうですのわよっ」
「きっと、テイムするときにシャロンまでテイムする気がなかったとか、ランと同時にテイムしちゃったのが原因になってるんだよ」
「そうです、その通りですわのよ」
――ところが。
ランがパタパタと翼音を響かせてテーブルに戻ってきた。
「きゅい」
ランが開いた本を差し出してくる。
このページを読めってことらしい。
受け取りつつ表紙を眺める。
「何の本? ――『ドラゴンの飼い方』かぁ……えっと、ドラゴンはとても気位が高い生き物です。特にドラゴンのメスはプライドが高くて、エサや宝石のプレゼントなどでは決して心を開きません」
「そのとおりですわ! 安い女でなくってよ、おほほっ」
シャロンは顔をこわばらせて笑う。声までがちがちに固い。
気にせず僕は、さらに続きを読んだ。
「なになに……そんなメスにも例外があります。その条件とは。
1.メスが自分より強いと認めた二匹のオスが、
2.メスの目の前で、
3.メスを取り合って戦い、
4.勝利したオスにのみ、
メスは最大限の愛情を持って心を開きます。好感度が最大になります。この気持ちはオスが別のオスに負けるまで一生涯続きます」
「ひゃぁぁぁぁっ」
耳まで顔を真っ赤にしたシャロンが、恥ずかしそうに両手で顔を覆ってしまった。
――さっきから様子がおかしかったのは、好きな気持ちがバレることを恐れていたからのようだった。
しかし、僕は首をかしげる。
「でもここに書かれてるようなことなんて――え!? ちょっと待って!! ひょっとして、僕とペイエンディがシャロンの目の前で戦って僕が勝ったから、シャロンは僕を好きになっちゃったってこと!? ある意味、シャロンの奪い合いだったけど!」
「好きじゃありません! 大好ぎなんです! もう、理性が保てないぐらい大ちゅきっですぅっ。でもこれは私の意思じゃないでづから、ドラゴンの本能としてノイスざまと一生添い遂げたい……うわぁぁ!」
思わずとんでもない内容を口走ったシャロンが突然、床に倒れ込むと頭を抱えてじたばた暴れた。王女様としての気品なんか、かけらもない姿で。
でも、めくれたドレスの裾から見えるすらりと長い足が可愛らしい。
あられもない姿で暴れるシャロンに、なんて声をかけてあげたらいいのか、わからない。
僕はしばらく見守ることしかできなかった。
明日は2話更新。




