71.最終決戦
第67話を一行改稿
「もう2、3日は安静にしてて。そのころには、きっとすべてが終わってるから」
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「もう1、2日は安静にしてて。最後だけ頑張って欲しいから」
に変更しました。
晴れた朝。
朝日を浴びて森の緑は美しく、遠い山並みは峻厳に輝く。
心地よい朝の風景とは裏腹に、エルフ軍は国境を越えた。
人間の奴隷部隊を前面に配置し、次にエルフの長槍部隊、最後に長弓部隊が続く。
長槍部隊の両側にも、守るように少数の奴隷部隊が配置されている。
右翼や左翼はない。
3軍にわけると人間の奴隷という数千人規模の肉壁が足りなくなるためだった。
また、迅速な勝利よりも、多数の王国軍を引き付けて王都を手薄にするためでもある。
作戦的には最悪の部類に入る。
どんなに不利な状況になっても、戦い続けなくてはいけない奴隷を使うからこそできる消耗戦だった。
一方で王国軍は、エルフ軍が森を抜けた先にある平原に陣を構えていた。
歩兵と騎兵を主体にした布陣。
中央軍は長槍歩兵が主体で歩兵の後ろに弓隊と魔法隊がいた。
左翼と右翼は重装歩兵が前面に、後衛に弓を持った騎馬隊が詰めていた。
エルフ軍は森を抜けてすぐ陣を構えた。後衛の長弓部隊が森に隠れたままになる。
王国軍はエルフ軍の正面に位置する奴隷部隊を見てどよめく。
「人間がエルフに協力!?」「いやあれ、奴隷だ……!」「きっと、父ちゃんがいる……」
ざわざわと動揺する兵士たち。
ただでさえ森の中の乱戦になれば圧倒的に不利なのに、士気が下がると戦いにくい。
しばらく両軍ともに、睨み合いが続く。
というか森を背にしたエルフ軍側から動くことはなかった。
すると、王国軍の中から美しい声が響いた。
「やはり、わたくしたちの出番のようですね」
声とともに四人の美少女が髪を揺らして王国軍の前に出てくる。
赤い髪に白い振袖を着たアーデルハイト。
黒髪に猫耳、紅白の巫女服を着たミーニャ。
赤いドレスを着た金髪ツインテールのエカテリーナ。
その隣には裸体をマントで隠したニグリーナ。桃色の髪が揺れる。
ひゅううっと風が吹いて、砂煙が白く舞った。
エルフ軍の本陣にいたミッシェルが目を丸くする。
「えっ! あれはアーデル女王!? ――ローランド、行け!」
命令されたローランドが顔をしかめて前方へと走り出す。
しかし、ミーニャもまた、猫耳をピピっと動かして駆け出した。
「参る――」
「くぅっ! またアーニャか!」
「アーニャじゃない、今はミーニャ」
ローランドが走りながら短剣を投げ、ミーニャの持つ白鞘の短刀が打ち落とす。
また、魔王エカテリーナが金髪ツインテールを風になびかせて、顎をツンっと上げて立った。
強気な笑みを浮かべつつ、右手を振るう。
「この程度の軍勢で、あたくしに勝てるとでも? ――魔神召喚! いけ、魔神たち!」
ドゴォ――ッ!
と盛大な煙を辺りにまき散らして30体ほどの魔神が現れた。
物見の棟ほどに巨大な魔神から、極悪な様相をした寸胴の魔神まで。
突然の凶悪な者たちの出現に、エルフ軍が混乱に陥る。
「な、なんだあれは!」「化け物!」「ま、魔神か!?」「に、逃げろ!」「うわぁぁぁ!」
ミッシェルが金髪を振り乱して叫ぶ。
「ええい、逃げるな! 戦え、このゴミどもっ!」
逃げ出そうとする奴隷たちに部隊長たちが命令して戦わせようとする。
だが、奴隷部隊を率いるエルフの表情が、突然とろんと呆けた。
「奴隷たち、仲間を攻撃~」
「えっ!?」「なっ!」「何をする!」
突然の反乱に大混乱に陥るエルフ軍。
裸にマントを着ただけのサキュバス、ニグリーナが赤い唇を舐める。
「テンプテーション……離れてても意外と効くじゃん」
さらにはアーデルが横笛に口を付けて吹く。
「――【万物操死】」
戦場に響き渡る笛の音によって、次々とエルフ軍の兵士や将校が意思とは違う動きをさせられていく。
「な、なんだこれは!」「手が勝手に!」「うわ、やめてくれ!」
エルフ兵士と人間奴隷がもみくちゃになって殴り合う。
エルフ軍は四人の女性によって翻弄された。
◇ ◇ ◇
一方そのころ。
グランツフェズン王都上空。
50匹の大きなドラゴンが雲の上を飛んでいた。
背中には大きな樽をいくつも背負い、手や足にも樽を持っている。
先頭には金色に光るドラゴン、ジンフォンが飛んでいた。
ジンフォンが首を曲げて見下ろしつつ言う。
「そろそろ目標上空っ! 皆の者、手筈通りに心してかかれ!」
「「「はいっ!」」」
まず緑色のドラゴンが呪文を唱えた。
「――竜風道」
強い風が王都に向かって吹き流れる。
そしてドラゴンたちが油の詰まった樽を、その風に載せて落としていく。
樽を必ず王都に落とすためだった。
次々と目標たがわず、樽が王都に向けて落ちていく。
――が。
王都の真ん中にある城が、キラッと青く光った。
はっとジンフォンが息をのむ。
「総員、避けるんだ!」
ジンフォンが金色の翼を羽ばたかせて急旋回する。
そこを青い波動が空へと突き抜けていった。
避けきれなかった一匹が、体を波動がかすめる。
「これは竜撃破! ……シャロンは城にいる――ん!?」
体をかすっただけなのに、そこからピキピキと青白い氷が発生して、体や翼を覆っていく。
「た、助けてください~皇子~!」
翼が氷で固まり、錐もみ飛行で落ちていった。
ジンフォンは愕然として、牙の並んだ口を開く。
「ば、ばかな! 絶氷竜撃破!? シャロンは奥義が使えるというのか!」
さらに青い光が飛んでくる。
ドラゴンたちは樽を落とすこともままならず、必死で青い波動を避ける。
――と。
そこへ別の明るい光が差し込んだ。
城から光が帯のように発生して、青空を照らす。
ただし痛みも、なにもない。
ジンフォンは一瞬首をかしげるが、すぐに目を見開いた。
「はっ! これは探照灯! ――まさかっ!」
王都から、ズドドドドッと連続する爆発音が響いた。
◇ ◇ ◇
王都の城。
テラスやバルコニーでは、大小さまざまな妖精たちが、高射砲や高角砲に飛びついて引き金を引いていた。
「ふぁいやー!」「敵機いちにまるまる~」「アハトアハト~!」
バババッ、ドドドッとお腹に響く重い音が響く。
巨大な薬きょうが高射砲から飛び出しては床を転がった。
小さな妖精が弾薬を頭の上に載せて運ぶ。
◇ ◇ ◇
王都上空。
下から飛来する高速の弾丸が、次々とドラゴンたちを打ち抜いていく。
しかも高速飛行でかわそうにも、樽を沢山背負っているため機敏な動きができなかった。
また弾幕の隙間を縫うようにシャロンの竜撃破も飛んでくる。
ジンフォンは抱えた樽が少なかったため、何とか羽ばたいて避けていた。
しかし撃ち落とされていく部下たちを見て、口をわななかせる。
「そ……そんな! 妖精軍が、なぜ……! なぜここにいるっ!」
ジンフォンはさらに青空高く舞い上がりながら、もう悟った。
――失敗か。
妖精軍を動かせたということは、ドラゴニアの脅威がなくなったということ。
つまり暗黒竜アンヘイロンが討たれ、シャロンが王位に就いて和平を結んだのは真実か。
――私の野望は、ここまで。
行く場所も帰る場所もなくなった。
何もかも終わりか……。
ジンフォンは目を閉じて飛翔した。
金色の巨体が太陽に輝く。
だが、急にクワッと目を開けた。
血走った目で地上を睨みながら叫ぶ。
「いいだろう! ならば、シャロン皇女よ! 貴様もろとも、すべてを道連れにしてくれるっ!」
ジンフォンは大きく羽ばたくと、太陽を背にして一気に急降下した。
長い首をまっすぐ伸ばし、翼を閉じて、一本の槍のように突進する。
「――竜命爆絶!!」
叫んだ瞬間、全身が真っ赤に燃え上がった。
鱗の金色と合わせてまるで小さな太陽のように眩しく輝く。
自分の命と引き換えに半径10キロを消し飛ばす、超自爆魔法。
たとえ神のごとき強さを持つドラゴンでも耐えられない。
ジンフォンは燃えながら落ちていく。
その速度と炎に耐えられず、金色のうろこが一枚、また一枚と剥がれては後ろに跳んでいく。
王城が迫るにつれて監視していた妖精が叫んだ。
「敵機、直上、急降下ですぅぅぅ~!」
声に反応して高射砲が向けられるが、ジンフォンの下降は弾着するより早く、すべての弾丸は通った後を通り過ぎる。
「退避です~! 総員、退避です~!」
妖精たちが慌てて逃げ出す。
小さな手足を懸命に動かして。
けれど逃げる暇はない。さらに転んでしまう妖精もいた。
小さな太陽と化したジンフォンが、今まさに王城の真上にまで迫り来る――。
――が。
城の一番高い尖塔の上に、一人の男が立っていた。
黒いロングコートをはためかせ、左手にナイフ、右手には刀を持っている。
落ちてくる光を見上げて、朗々と名乗りを上げた。
「ドラゴニア女皇直属・暗殺騎士団『黄昏の紅き使徒』所属! 使徒序列一位『死神のリヒト』見参!」
「今頃遅い! もう何もかも終わりだぁ――ッ!」
「――【万象死滅】」
ノイスは黒髪を揺らして左手のナイフを頭上に掲げた。
灼熱のジンフォンに触れた瞬間、彼の速度と光と炎はすべて消える。
ふわっと重力に惹かれて巨体が揺れた。
彼は目を見開く。
「な、なにぃ! ――バカなっ!」
「さよなら――【万物即死】」
コートの裾を揺らして飛び上がると、両手に持ち替えた刀を思いっきり振り抜いた。
ズアァァァ――ンッ!
巨大な斬撃が金色の身体を頭から尻尾まで真っ二つに切り裂く。
「グワァァァァ――ッ!」
ジンフォンの断末魔は王都を震わせ、そして消えた。
少し遅れて、ズシッと重いものが落ちる鈍い音が響く。
お城にいる妖精たちが、兵士たちが、そして街の人々が叫ぶ。
「やったー!」「倒したです~!」「ばんざーい!」
「「「うおぉぉぉ!」」」
人々の喜びや叫び声は一つになって、うねるような音だけが響いた。
ノイスは屋根の上からバルコニーへと移った。
シャロンが青いドレスを揺らして傍へ来る。
「お疲れさまでした、ノイスさま。さすがでしたわ」
「シャロンもがんばったね。さあ、あとは締めだね」
「はいっ」
そしてノイスはテイマースキルを発動させた。
終わりまで、あと2話ぐらいのはず……。
内容はダイジェスト気味でしたが、どうでしたでしょうか?
なんとか話は通じてるはず……。
時間がかかっても完結させますのでどうかお待ちを。すみません。
次話はたぶん→72.終わりと始まり




