7.危険な街マウエルブルグ
今日は3話更新。2話目。
陽気な日差しの降る昼頃。
山を二つ越えて森を抜け、僕たちは大きな街マウエルブルグへやってきた。
僕は冒険者になって新しい身分を手に入れるため。
シャロンはなぜ【解放】の効果が発動しなかったのか、それを調べてペットの身分から自由になるため。
どちらにせよ僕たちはまず、冒険者ギルドの図書室や王立図書館を利用できる身分を手に入れないといけなかった。
上から見ると正方形に近いマウエルブルグの街は、分厚くて高い外壁にぐるっと囲まれている。街中も分厚い壁で仕切られていた。
街の外れにあるダンジョン入り口から東へと道が伸びて、壁に当たると折り返してまた東から西へ。壁に突き当たると折り返して、今度は西から東へ。それを街の入り口まで何層も繰り返している。
まるで通りを長く歩かせるかのように。
僕とシャロンは石畳で舗装された大通りを歩く。
ランはドラゴンの姿に戻ってもらって、背負い袋の中に入っていた。
テイマーとして登録するとき、ペットを確認されるかなと思ったからだ。
シャロンも街を行き交う人や異性の良い声を上げて呼び込みをする商店を見ている。
「とても活気がありますね……ですが、すこし物々しいような?」
「だね。みんな武装してる。ここのダンジョンは世界で唯一、モンスターが外に出てくるダンジョンだから、みんな戦闘員なのかもね」
世界一危険なダンジョンと呼ばれていた。
「それで道の両側にやぐらや監視塔があるのですね」
通りの両側に点々とやぐらがあって、弓を肩にかけた兵士が監視していた。
「そうだ。シャロンも一緒に冒険者になる?」
「無理なのでは? ステータスを調べるオーブを使われたら、素性がバレてしまいます」
「あ~それもそっか、残念」
「残念?」
「シャロンと肩を並べて戦うのも面白いかなと思ってさ」
なぜかシャロンが頬を赤らめてそっぽを向く。
「そ、そんなこと、できるはずがありませんっ」
「そうだよね、ごめん」
突然、背中の袋からランの小さく鳴く声がした。
「きゅい!」
肩越しに振り返ると、背負い袋の隙間から目が覗いている。
視線の先をたどると店があった。
「ん? ――ああ、魔道具屋さんだね。テイマー用の魔導書も売ってる」
テイマーは魔導書があれば、ペットを本にしまうことができた。
なぜランが欲しがるのかはわからないけど。
シャロンが青髪を揺らして尋ねてくる。
「買いますか?」
「いや、今は手持ちが少ないからいいや。冒険者になると割引になるはずだから」
「わかりました。先に冒険者ギルドへ参りましょう」
僕たちは東西に延びる大通りを何度も折り返して先へと進んだ。
◇ ◇ ◇
街の中央の大通りに面して冒険者ギルドがあった。
二階建ての大きな建物。ただ、戦火の跡なのか、壁に穴が開いたり、窓が破れたりしていた。
一階に入る。
入ってすぐ横手にカウンターがあり、右手の奥には酒場があるようだった。
カウンターには行列ができている。
どうやら各地からやってきた新規登録者たちらしい。
カウンターに座る、がっしりとした体格の中年女性が大きな声で叫ぶ。
「はい次! 申請ね! はいおっけー! こっちが仮登録カード! はい次! 仮登録? はいよ、この用紙に書いて、また並んで提出して! はい次! 買取? はいよ、2万ゲルト! はい次! ……――」
威勢よく次々と冒険者を捌いていく。
それでも行列は途切れない。
シャロンが顔を寄せてきて、こそっと呟く。
「なんだか、私の知ってる冒険者ギルドとは違います」
「僕もだよ。ギルドじゃなくて魚市場みたいな活気だね」
僕たちは行列の最後尾に並んだ。
しばらく受付の様子を観察する。
「あれ? ひょっとして仮登録は紙に書いた必要事項だけで、そのままカード発行されてる?」
「みたいですね……これなら私もなれるかも」
「なっちゃえ。ってか、ここまで簡単になれるとは……いや、だからこそか」
「ノイスさま、どうしました?」
「こうでもしないと人が集まらないんだろうね」
暗殺スキル【気配探知】によって、街の奥にあるダンジョンからモンスターが出てきているのを察知していた。
人々が囲んで倒している。
――あんまりのんびりとは暮らせそうにない街だなぁ。
正式な冒険者になったら、さっさと別の街に行こう。
ふと壁を見ると真新しい賞金首のポスターが張られていた。
眼帯に頬傷のある男で、説明文には「前国王直属の暗殺騎士団【黄昏の紅き使徒】所属。使徒序列一位『死神のリヒト』賞金3億ゲルト。罪状・剣聖殺害、大賢者殺害、大司教殺害、国王侮辱」
国王侮辱って……パンツ一枚にしたこと怒ってるみたいだ。
イケメンなのに意外と心の狭い奴だと思った。
ほかにも『使徒序列二位・黒猫のアーニャ・1億』や『使徒序列三位・亡霊のローランド・8000万』などが張られている。
暗殺騎士団員は10人ぐらい手配されていた。
「ふぅん、捕まったのは3人ぐらいか……みんな逃げたんだ」
「何か言いました、ノイスさま?」
「いや、何でもない。独り言――」
しかし視線をたどったシャロンが驚きの声を上げそうになった。
「あれって――むぐっ!」
ポスターを見たシャロンが叫びそうになったので、慌てて口を押えた。
青い目を見開いて僕に何かを訴えかけてくる。
抑えてる口をむぐむぐと動かして。くすぐったい。
「あとで言うから――あっ、順番だよ」
こくっと頷いたので、僕は手を離した。
その後、受付のおばさんから何事もなく紙をもらい、記入したとおりに仮登録カードが発行された。
テイマーと書いたのにペットの有無すら確認されない。
ある意味、すごい。
当然シャロンも冒険者として仮登録された。
おばさんがいう。
「はい、これがカードね! ダンジョンに五回潜ったら正式登録になるから! 仮の間は街から出られないよ!」
「わかりました。あと冒険者ギルドの図書室は仮登録でも利用できますか?」
「できるよ! 図書室は廊下の突き当りを左! はい次! ――……」
終わったとばかりにカウンター前を追い出された。
僕は図書室へと向かいつつ、厚紙で作られた冒険者カードを眺める。
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名前・ノイス 職業・テイマーLv5
冒険者ランク・G
筋力・D 敏捷・C 知力・D 魔力・E
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新しい名前と新しい職業の書かれたカード。
冒険者ランクは仮のG。表記などは適当に申告した。
本当の数値だと筋力Aに敏捷SSSぐらいになるはず。
――でもこれが新しい僕だ。新しい自由な人生だ。
どんな人生だって僕が選べる。
そう思うと体が軽くなる感じがした。
隣を歩くシャロンが顔を寄せて小声で尋ねてくる。
「ノイスさまっ。死神のリヒトって、確か……」
「僕だったかもしれないね」
「お、恐ろしいですわ……」
「だよね。でも実はそんなに殺してないよ。片手で数えるほどだから」
「そうなのです?」
「僕は最強中の最強だったから、最強の相手としか戦わなかったんだ。あとはずっと国王の身辺警備ばかりだよ」
僕は簡単に過去を話した。
シャロンは神妙な面持ちで聞いていた。
「私だけじゃなく、ノイスさまも追われる立場だったなんて……」
「一緒にいると危険度2倍かもね」
「うう……どうしたらいいんでしょう」
「隠すしかないんじゃない? でも大丈夫だよ。仮登録でも図書室が使えたから、これでシャロンを解放できない理由を調べられるはず。もうすぐ君は自由だよ」
「そ、そうですわね」
「じゃあ、テイマーについて調べよう」
「わかりました」
そして図書室と書かれたドアを見つけて僕らは中に入った。
次話は夜更新。




