69.大いなる女王就任式
次の日の朝。
僕はグランツフェズンの王都クラークへと帰ってきた。
山越えしなくてはいけないので大変だった。
ミーニャもすでに帰っていた。
獣人国とは平地で続いているので、僕よりも往復が早かったようだ。
王城の執務室にて、赤い髪に白い振袖を着たアーデルが出迎える。
「お帰りなさいませ、ノイスさま。エルフ国はどうでしたか?」
「ああ、穏健派と連絡取れて協力を要請できた」
「さすがノイスさまです。この短期間でエルフと話を付けるとは」
「まあ、テイムしたからね」
「はっ!? またですか!?」
アーデルが赤い瞳を見開いて驚く。
僕は困ってぽりぽりと頭を掻いた。
「うん、そうなんだ。まあ、うまくいったからよかったよ――ミーニャのほうは? 首尾は上々だった?」
「にゃ。面倒だから、全員倒して女王に就任してきた」
「「ええっ!?」」
俺とアーデルが驚愕の声を揃えて叫んだ。
ミーニャは黒い尻尾を嬉しそうに揺らしつつ、淡々とした声で言った。
「獣人は強いものが偉い。言うこと聞かせるには戦って倒すのが一番早い」
「そ、そうか……大変だったんじゃないか?」
「5000人ほど倒したら、もう誰も挑んでこなくなった。わたしが女王と認められた。――権利を返還する代わりに、不可侵条約結ぶことも、エルフ国に協力しないことも認めさせた」
「す、すごいね……よくやったよ、ミーニャ」
「ん」
なぜかミーニャは僕へと頭を出してきた。肩で切り揃えた黒髪がさらりと揺れる。
いろいろ察して頭を撫でると、頭の上の尖った猫耳がピピっと嬉しそうに跳ねた。
――ていうか、これでランとニグリーナ以外、全員女王になったわけで。
複数の女王を従える僕って、うまく言えないけどヤバいんじゃ……?
困惑していると、落ち着きを取り戻したアーデルが言った。
「では、今からわたくしの女王就任式です。どうかご出席を」
「わかった」「にゃ」
アーデルに案内されて部屋を出る。
途中、朝日の差す長い廊下を歩きながら僕は頬笑みを浮かべた白い仮面をかぶった。
隣を歩くミーニャもまた、頬笑みを浮かべた狐のお面をかぶった。
◇ ◇ ◇
お城の中庭には、招待された千人ほどの人々が集まっていた。
貴族や官僚、名士。上流階級の人々。
貴賓席もあって、諸外国の大使や貴族の姿も見える。
バルコニーの後ろには幕が降ろされて、ドラゴニアとグランツフェズンの巨大な国旗が掲げられている。
そしてドラゴニア国旗の前に、白い仮面をかぶって黒衣のロングコートを着た僕が、台の上に立っている。
グランツフェズン国旗の前には狐面で巫女服のミーニャ。猫耳がピピッと動く。
台にはそれぞれ序列一位と序列二位とだけ書かれた垂れ幕が下がっている。
知らない人が見たら意味不明だろう。いったいなんの置物かと。
暗殺騎士団を知っている人が見れば、示威行為以外のなにものでもない。
ひそひそと客人たちが囁き声を上げていると、バルコニーにアーデルが現れた。
赤い丸の紋が入った白い振袖を揺らして、堂々と歩いてくる。長い赤髪が風になびく。
頬笑みを浮かべて目を閉じているのに、場所がすべてわかっているようす。
バルコニーの一番前まで来ると手を上げた。
「皆さん、わたくしは女王アーデルハイト。本日は女王就任式にお集まりいただきまして、誠に光栄ですわ……では、こちらへ」
アーデルがバルコニーの陰に向かって、すらりとした細い手を差し伸べる。
すると青いドレスを着たシャロンが優雅な足取りで出てきた。
その次は赤いドレスを着た魔王エカテリーナがツインテールを揺らして続く。
手にはトレイを持ち、その上にはティアラが載っていた。
その次には背中に虹色の羽を持つ、緑のドレスを着た妖精女王マハスティが続く。
緊張しているのか、ちょっと足取りがぎこちない。
手にはやはり錫杖を乗せたトレイを持っていた。
アーデルが一礼して下がると、バルコニー正面にシャロンたちが並ぶ。
シャロンが頬笑みを浮かべると、透き通る声で言った。
「どうも皆さん初めまして。私はドラゴニア皇国、女皇シャロン・バハムートですわ。この度はアーデルハイト女王の就任式に大役を仰せつかり、嬉しく思います」
観客がざわめく。
「ど、ドラゴニア!?」「国旗が掲げられてるとは思っていたが」「まさか軍事同盟を!?」
人々の戸惑いに頬笑みを崩さずに、シャロンは両隣に立つ女王を紹介する。
「こちらが魔界の女王エカテリーナさまです」
エカテリーナが偉そうにささやかな胸を反らしつつ、トレイを片手に持ったまま空いた手を前に出した。
「アタクシが魔界を統率するエカテリーナ女王よ! 嘘だと思うなら証拠を見せるわ! ――【魔神召喚】ベヘムト!」
眩い光とともに、バルコニーに巨大な魔獣が現れた。
観客たちが悲鳴を上げる。
「きゃあ!」「なにあれ!」「ほ、ほんとうに魔界女王……」「いったいどういう関係だ……?」
シャロンはまた言葉を続ける。
「そしてこちらが妖精女王マハスティさまです」
「ど、どうもよろしくっ」
虹色の羽をぱたぱたと動かしつつ、頭を下げた。
あんまり女王らしくない仕草だった。
でも人々は構わず、さらにどよめく。
「妖精女王まで!」「初めて見ましたわ!」「なんとお美しい……」
シャロンがアーデルに目くばせする。
アーデルは赤い髪を揺らして、バルコニーに設置された赤いビロードが張られた台の上へと登った。
人々には何をしているか見えやすくなった。
続いてシャロンたちが台の上に登る。
そして青い髪を揺らして朗々と声を出した。
「では、戴冠しましたら、大いなる拍手を! ――さあ、アーデルハイト女王陛下」
「はいっ」
アーデルが一歩進み出て、そして片膝をついた。
祈るように両手を胸の前で合わせてうつむく。
シャロンがエカテリーナの持っていたティアラを手に取ると、アーデルの頭の上に載せた。
その瞬間、観衆たちが拍手ではなく、爆発するような声を上げた。
「「「えええええ!!」」」
「ドラゴニア女皇が上の立場!?」「グランツフェズンはその庇護下に入るのか!」「ドラゴンと暗殺騎士団に守られた王国……安泰だな」
人々が驚愕の声を上げる中、アーデルは赤い髪を揺らして立ち上がった。
シャロンがマハスティから、王権の象徴である錫杖を受け取り、アーデルへと手渡す。
アーデルは頬笑みを浮かべてシャロンへ一礼すると、一歩前に出て大衆へ向き直った。
「今ここに、わたくしアーデルハイトは! ドラゴニア皇国の庇護のもと、魔界ミルデモノフ魔王国、ペシャワール妖精女王国の友好に恵まれながら、女王に就任したことを宣言します!」
「「「うわぁぁぁ!!」」」
悲鳴か、歓声か、途惑いか。
城が揺れんばかりの声が沸き起こった。
呼び出していた大きな魔神ベヘムトが、牙の並ぶ口を空へと向けて、炎を吐いた。
まるで花火のように、いくつもの火花が空に弾けた。
彼女たちの後ろに立つ僕とミーニャは、最後まで銅像のように動かない。
――それだけで示威行動としては十分だった。
こうしてアーデル女王就任式は、大々的に民衆へ、そして各国へと喧伝されたのだった。
次話が書けていないので、明日の更新は無理かもです。すみません。




