53.羽妖精マハスティ女王誕生
僕たちは災厄となった妖精女王を倒した。
すると、四頭身のずんぐり妖精が、羽妖精マハスティに次の女王になって欲しいと懇願した。
けれどマハスティは激しく飛び回りながら首を振った。泣きそうな顔になる。
「無理よ! あたしこんなにちっちゃいもん!」
マハスティは手のひらぐらいの大きさしかなかった。
「ちっちゃくても勇気あるよ。確か、みんなを逃がそうと光の魔法を使った子だよね? 自分を犠牲にしてでもみんなを守ろうとする、とても素敵な妖精じゃないか」
僕は率直な想いを伝えて励ました。
しかしマハスティは激しく首を振る。
「そうじゃなくって! 力がもっと強くなきゃ、女王の力を受け取れないのっ」
「女王の力?」
「あっ、そうだ! 宝石は無事!?」
羽妖精が玉座へと飛んだ。
ずんぐり妖精も短い足で追いかける。
すると玉座の上に緑色の宝石があった。
女王の額にあったエメラルドのサークレットだ。
マハスティは可愛い顔を怯えを走らせつつ、宝石をちょんちょんと触る。
「う……だめ、こんなの付けたら弾けちゃう」
「でも、女王様がいなくなったら、ボクらみんな死んじゃうです」
ずんぐり妖精がつぶらな瞳を潤ませる。
深刻そうな二人に近づきつつ、僕はシャロンにそっと尋ねる。
「妖精って、どういう生き物なの? どういうシステムで暮らしてるの?」
「私も詳しくは知りませんが、すべての妖精は女王が生み出すそうです。そして、妖精たちは花畑を作り、花の蜜を集めて食べて生きていきます。女王は特別な蜜ローヤルゼリーだけを食べるそうですが……代替わりはどうなるのかわかりません」
「じょーおーさまは死期が近づくと、特別な妖精を生むです。その特別な子たちはじょーおーさまと同じローヤルゼリーのみで育てられます。そして候補の中から一番強い妖精が、宝石を受け継いで次期女王となるです」
ずんぐり妖精が説明してくれた。
マハスティが緑の宝石を見下ろしながら悲しげにつぶやく。
「女王さましか妖精を生み出せないの……それどころか、女王様がいないと生きる力みたいなものがなくなって死んじゃうの」
「マハスティ……やらぬです?」
ずんぐり妖精がつぶらな瞳に涙をためてお願いする。
マハスティはツンとした態度を取りつつ、溜息を吐いた。
「わかったわよ……あたしが失敗しても、文句言わないでよねっ」
「ありがとです、マハスティ」
小さな羽妖精マハスティは、透明な羽根を伸ばしつつ宝石の上に両手を置いた。
宝石から緑の光が漏れ始めて、マハスティーの小さな体を包んでいく。
そのとたん、ぐぐぐっとマハスティの身体が大きくなり始めた。
手のひらに乗るぐらいから、ネズミサイズ、子猫サイズ、小型犬サイズと大きくなっていく。
――が。
マハスティの可愛い顔が苦痛で歪む。
「むりっ! 急にこんな大きい力、受け取れないっ! 弾ける――ッ!」
ぴしぴし、とマハスティの白い肌にひびが入った。
ずんぐり妖精が慌てて駆け寄る。
「わぁ! 危ないです! 手を離すです!」
「むり、入り込んできて――ああっ!」
宝石から放たれる緑の光が強まる。宝石を触る細い手が溶けるように一体化する。
マハスティの羽や髪の毛がちぎれそうになる。
彼女の可愛い目から涙が散った。
「ああー! 痛い痛いっ! 死んじゃう――ッ!」
そんな彼女の小さな頭に、僕は指を置いた。
――女王の言った『マハスティをお願いね、』って、きっとこういうことなんだろうね。
僕はマハスティの頭に指を置いたまま唱える。
「――テイマースキル発動【手懐ける(テイム)】 さらに発動――【応援】マハスティ。頑張れ」
マハスティの身体が白い光を発した。
それとともに、どんどん体が大きくなっていく。
「イヤだぁ――ッ! 痛いっ!! 死にたくないぃぃ――って、なにこれ! いける……!?」
「マハスティっ!」
ずんぐり妖精が見上げる。
そして、玉座の間に緑の光がほとばしった。
光が消えると、幼さの中に気品のある人間サイズの少女が立っていた。
僕の背丈より少し低いぐらいの、すらりとした少女。
惜しげもなく白く輝く裸体を晒している。
そんなマハスティの背中は、透明だった羽が虹色に変わっていた。
手足は長く、体全体の線も細い。すっと通った鼻筋と大きな瞳の上には、緑のサークレットがかかっていた。
マハスティは自分の手足を眺めて、背中の羽を見て、それから額の宝石を指先で触った。
「で、きた……? うそっ、あたしが女王さまに!?」
「新じょーおーさま、たんじょーです!」
ぱちぱちと小さな手を叩いて喜ぶ妖精。その目に涙が光っていた。
だけどマハスティは透き通る肌を惜しげもなくさらしつつ、ついっと長い足を出して僕へ近づいた。
僕の胸に華奢な手を添えながら、流し目で見上げる。
「助けてくれたんだ……ありがと、ノイス……でも、テイムしたのね?」
「ごめん……明らかに死にそうだったから……でも、僕のことそんなに好きじゃないはずだから、すぐに解放できるよ」
「ううん、それはちょっと待って欲しいの……テイムの恩恵がなくなったら、また死んじゃうって、今のあたしにはそれぐらいわかる」
「そっか。じゃあ、解放しても死なないぐらい成長したら、その時は教えて。ちゃんと解放するから」
「……あたしをペットにして、悪いことはしたくならないの?」
指先で僕の胸を丸く撫でてくる。
「特に何も? ――ああ、僕たちが妖精国を横切って通過することを許可して欲しいんだ」
マハスティはシャロンをチラ見する。
「ふーん。なるほどね。もう先約がいるからかぁ……」
「え?」
「ううん、なんでもない。いいわよ、通っちゃって」
「ありがと――あとは、そうだテイマースキル発動【行動命令】マハスティは自由行動ってことで」
命令しとかないと、離れられなくなる。
シャロンが近寄ってきて僕とマハスティに微笑みかける。
「さすが、ノイスさま、素晴らしい機転でしたわ――そして、おめでとうございます、マハスティ女王陛下」
「そんな、かたっ苦しくなくていいわよ。あたしはまだまだこれからだしっ――あ、でも。妖精の国を助けてくれてありがとね」
「いえ、隣国として当然のことをしたまでです」
あくまで優雅な態度を崩さず微笑みかけるシャロンに、マハスティが緑色の目を見開いた。
「うーん、女王様ってこれぐらいの仕草や態度をしないといけないんだぁ……大変だなぁ」
「ふふっ、頑張ってくださいな――何かあれば、またお助けいたしますから」
マハスティの顔に悲しい頬笑みが浮かぶ。
「そっか、そうだよね。災厄化した妖精女王はドラゴンの力でしか倒せないみたいだし。……うん、あたしの将来も含めて、よろしくね」
マハスティは悲しい頬笑みのまま、シャロンに向かって細い手を伸ばした。
シャロンも手を伸ばして握手をする。
しっかりと小さくも大きな友好が結ばれた。
すると、ずんぐり妖精が明るい声で言った。
「じゃあ、パーティーです! お客人もごあんなーい! 夜も遅いので泊ってです」
「そうさせてもらうかな」「ご招待、ありがとうございます」
夜を飛ぶのは危ないので、妖精国に泊めてもらえることになった。




