52.妖精女王の悲壮な決意
妖精のお城の玉座の間にて、妖精女王と会っていた。
しかしシャロンの抱える妖精を見たとたん、妖精女王の様子がおかしくなり攻撃してきた。
僕は暗殺スキルを使ったが倒せない。本体は別にあるかのようだった。
――と。
妖精女王の、仮面のように固まっていた顔が歪んだ。
そして緑の髪を割って、別の顔が横からせり出してくる。
美しい顔を悲痛に歪めていた。
「そこにドラゴンの皇女がおられるのでしょう!? ――今のわたくしは通常では殺せません! ドラゴンの力でのみ、消し去れます!」
「はいっ! 女王陛下! ――竜撃破!!」
シャロンが妖精を片手でまとめて持つと、すらりとした右手を前へ伸ばした。
手のひらから、青く眩い光が迸る!
木の根や木の枝を消し飛ばして、青い光が女王を襲う。
ドゴォォン――ッ!
光は女王に直撃した。木くずが煙のように散って女王を隠す。
僕は警戒しつつ呟く。
「やったか?」
「いいえ、まだです! ――もっと強い力を!」
煙の中から女王の鋭い声が響いた。
木の枝が煙を裂いてシャロンへ殺到する。
シャロンは青い目を見開いて驚く。
「そ、そんなっ! 私の持つ最大の力――私ではだめです! ノイスさま、ランを!」
「いや、シャロンでもいけるはずだよ」
「えっ?」
僕はシャロンを指さして叫ぶ。
「テイマースキル発動【応援】!! ――もう一度、今の攻撃だ! 頑張れ、シャロン!」
「は、はいっ! ――竜撃破!!」
すらりの伸ばした手の先から、静謐な青い光が放たれる。
――ドゴォォォ――ンッ!
すると、青い光に触れた木の根や木の枝が、またたく間に凍り付いていく。
そして、女王の身体を直撃すると、青い氷に包み込んだ。
シャロンが青いドレスを乱して驚く。
「こっ、これは! ――絶氷竜撃破!? わ、私が、奥義を――!? すごいですわ、ノイスさまっ!!」
凍り付いた女王に、僕はすかさずナイフを振るう。
「シャロンならできると思ってたよ……さよなら女王――【万物即死】」
パリィィン――ッ!
氷は水晶のような硬質な音を立てて砕け散った。
ただ、砕けていく中で、妖精女王の美しい顔は最後に頬笑みを浮かべていた。
声はなく唇の動きだけで意思を伝えてくる。
『――ありがとう……マハスティをよろしくね』
女王はニコッと笑うと、美しい笑顔が木っ端みじんに砕け散った。
――すると。
広間を埋め尽くすように、花びらが舞い散った。
薄暗い屋内だったはずなのに、青空から明るい日差しが降り注ぐ。
地面もいつの間にか花畑に変わっていた。
一瞬、女王の死とともに城が消滅したのかと思った。
でも違った。まだ天井を支える柱や、玉座は残っている。
どうやら幻影みたいなものらしい。
その花畑の中を、女王ナジィーラが緑の髪を揺らして歩く。
とても優雅な足取り。美しい顔には頬笑みを浮かべていた。
大小さまざまな妖精たちが花畑を駆けよって来る。
「じょーおーさまー!」「お散歩ですか?」「良い日なのです」「花の蜜いっぱい取れました!」「またごしょーみあれー」
「まあ、ありがとう。これからも頑張ってくださいね」
「「「はーい! じょーおーさまー!」」」
女王は目を細めて笑うと、妖精たちの頭を撫でていく。
撫でられた妖精は頬を染めて照れていた。
場面が変わる。
ガラスケースの並ぶ薄暗い室内。
ケースの中には生まれたばかりの妖精の赤ちゃんたちが入っている。
女王は悲しげな顔をして妖精たちを見ていくが、すべて見終えてから壁に額を付けて、壁を拳で叩く。
サークレットのエメラルドが、カチッと冷たく硬質な音を立てた。
「どうして! どうして女王の力を継げる候補が生まれてこないのですかっ!」
歯を食いしばり、泣きそうに顔を歪める。
でもこぶしを握り締めて込み上げる感情に耐える。
「このままでは国が、妖精たちが……滅びてしまう」
そして妖精の赤ちゃんたちがすやすやと眠るガラスケースを振り返る。
「私が、女王を続けるしか……でも、それは……いえ、やるしか。続けていれば、きっといつか生まれるはず……」
ふいに幻影が消えて玉座の間に戻った。
あとには、静寂が残された。
すると羽妖精とずんぐり妖精がシャロンの腕の中で泣き始めた。
「ああ……! 女王さま……どうしてっ!」
「じょーおーさまが……薄々気が付いていましたけど、こんなことになるなんて……」
ずんぐり妖精の言葉が引っかかった。
妖精たちへ近づきつつ問いかける。
「何か知ってたの?」
ずんぐり妖精は泣きながら顔を伏せる。
「最近、じょーおーさまの様子、おかしかったです」
「確かに、あたしたちに会おうとしなかったもんね」
「それだけじゃないです。妖精が次々と行方不明になっていたです」
「そう言えば、知り合いが何人か見かけなくなったかも?」
「みんなローヤルゼリーで育った次期女王様候補だったです」
「えっ!?」
羽妖精が驚いてずんぐり妖精を見る。
ずんぐり妖精は涙目で羽妖精を見返した。
「――羽妖精のマハスティも候補だったです」
「そ、そんな! 女王さまは、あたしたちを食べてたっていうの!?」
「……気付いても止められなかったです。ボクらは、じょーおーさまに逆らえませんゆえ」
ずんぐり妖精はつぶらな瞳に涙を浮かべてうつむいてしまった。
――なるほど。
力を継げる候補が生まれてこないため、女王は未熟な候補を食ってでも生きながらえて、次の女王を産もうとしたんだ。
羽妖精――マハスティは細い両腕で体を抱えてぶるっと震えた。
「あたしってば、間一髪だったのね」
「で――、妖精女王が死んだ今、妖精国はどうなるの?」
僕の問いかけに妖精たちは顔を見合わせた。
「女王候補から次の女王が選ばれるけど……」
「もうマハスティしか、おらぬです」
「えええええ! あたしが女王に!?」
「がんばってです。みんなのために」
ずんぐり妖精が涙を流しながら手を合わせて、小さな羽妖精マハスティにお願いした。




