44.魔都レジーナ
ニグリーナの遠距離ゲート通行が禁じられていたため、まずは魔界の首都、レジーナへやってきた。
ゲートを抜けた先はゴミ処理場とよく似た倉庫だったが、ゴミが山積みになっていた。
白衣を着たモグラ顔の作業員が大きな箱にゴミを移し替えている。
「あれをゴミ処理場に運ぶんだ?」
「そー。ゲートは魔素をけっこう消費するから、ある程度ゴミが溜まってから一気に送り込むって感じ」
「なるほど。よくできてるシステムだね」
ニグリーナが先に立って振り返る。
「んじゃ、魔王城にいこっかー」
「ちょっと待って。シャロンも出す」
「え、なんで?」
「王族なら交渉も上手かと思って」
――シャロンは一般スキルの【交渉☆5】も取得していた。
ニグリーナが桃色の髪を揺らしてうなずく。
「なるほろ」
「テイマースキル発動【本化解除】シャロン」
ぼふっと煙が出て、青い髪に青いドレスを着た美少女が床に降り立った。ドレスの上にローブを羽織っている。
手でしなやかに青い髪を払うと、辺りを見回す。
「こちらは魔界でしょうか?」
「魔界の首都、レジーナだって」
「まあ! ここが……」
「じゃあ、いこー」
ニグリーナが歩き出した。
僕らはその後をついていった。
◇ ◇ ◇
倉庫を出た先は、大きな道路に面していた。
ゴミ回収倉庫は街の外れにあったようだ。
道も建物も間口が広い。
人の倍の背丈がある巨人などがいるから、人の建物よりも大きいらしい。
通りに面した建物は背が高かった。人の建物なら十階建てや二十階建てぐらいありそうだ。
その建物に黒い煙のような魔素が風に吹かれてまとわりつく。
しかもその建物は黒い石でできているが、道に面して看板が出ていた。
色とりどりの文字やイラストが描かれている。
黒い魔素の中、光を放って明滅していた。
僕は不気味な華やかさに彩られた街に、目を丸くした。
「これが魔都。なんかいろいろ派手だね」
「建築技術や魔法技術は目を見張るものがありますわ――空にまで何か飛ばしていますし」
シャロンが見上げる先には、楕円形の巨大な物体が魔都上空を旋回していた。
ニグリーナは軽い感じで言う。
「まー、派手っちゃー派手だね。広告やら宣伝やらがほとんどだけど。――あの浮かんでるのは飛行船ね」
「飛行船?」
「おっきな風船みたいな感じ? 中に空気より軽いガスを詰めて飛ばしてんの」
「なんだか、とても進んだ技術だね……」
僕は感心しながら赤い空に浮かぶ飛行船を見上げていた。
それから僕らは街の大通りを歩いた。
様々な魔族が行き交っている。馬のいない馬車が白い蒸気を出しながら走っていた。
――もう、どんな技術か魔法なのかわからなくて、すごいとしか思えない。
ただ、感心しながらも、僕たちを見る鋭い視線には気付いていた。
僕とシャロンはフード付きのローブを頭からかぶっていたが、魔族じゃないとバレている様子。
それでも多くの魔族はチラ見するだけで何もしてこなかったが……。
突然、僕らの前に体格のいい男たちが、道をふさぐように現れた。
二本足で立つ獣と言ったところ。
熊、虎、狼の三人だった。
三人とも揃いのマントを羽織っている。
「おうおうおう!」「お前たち」「ちょっと待ちなよ」
僕はポケットに手を入れて黒い刃のナイフを握った。
――いつでも反撃できるようにするため。
でも、できることなら穏便に済ませたかった。
すると、ニグリーナが長い足で一歩進み出て、ツンっと顎を上げて睥睨する。
「なにか用? アタシ、公爵令嬢なんだけど?」
「へっ、それがどうした!」「あり得ない匂いを、ぷんぷんさせてるじゃねぇか!」「こいつは臭ぇよ!」
三人とも動物の鼻を引くひくさせる。
周囲を歩いていた他の魔族も顔を見合わせて、ひそひそと話し出す。
「この匂い……」「人間だよな?」「魔界に何の用だよ」「まさか、ね」「衛兵に連絡した方がいいんじゃない?」
ニグリーナはマントをバサッと広げて裸体を晒しつつ、眉間にしわを寄せて叫んだ。
「どうだっていいじゃーん! なんでもないから、さっさとどいてよ!」
「そうはいくかよ!」「勇者や聖騎士かもしれないからな!」「魔界の安全は俺たちが守る!」
さっとその場でターンを決めると、背中のマントを見せつけるように三人が後ろ向きでポーズを取った。
「名付けて! ――夜の!」「鬼ごっこ!」「団!」
三人とも変なマークが入ったマントを見せてくる。
マークの下にいろんな種族の言葉が並んでいたが、人の言葉で『ビーストダンスユニット』『ナイトチェイスパーティー・NCP』と書いてあるのだけ読めた。
――てか、なるほどな~。
過去に暴れた勇者のせいで、人間を危険視してるのか。
僕はニグリーナに近づいて、そっと耳打ちした。
「どうする? いったん引いて、スキルで透明になって城に行く?」
「舐められたまま逃げられるわけないじゃーん。魔界に居場所がなくなるっつーの――だいたい魔界じゃ強い奴の意見が通るんだから、アタシをスキルでブーストしてよ。なんとかするから」
「わかった――テイマースキル発動【応援】ニグリーナ、がんばって!」
僕がスキルを唱えると、ニグリーナは妖艶に腰を振りつつ前に出た。
腕を上にすらりと伸ばすと、マントがめくれてスレンダーな裸体が露わになる。
「なにカリカリしてんのさ~。溜まってんじゃないの~?」
「うひょ」「いい女じゃねぇか」「そんな奴ら放っておいて、俺たちと夜のダンスしようぜ!」
獣男たちが踊るような手足の動きでニグリーナを誘いつつ、眼はしっかりと魅力的な白い肌に釘付けになった。
その瞬間、ニグリーナは赤い唇を舌で舐めて、凄みのある笑みを浮かべた。
「楽しませてあげる――【下僕悩殺】」
ニグリーナがスキルを発動させた。
エロい視線で自分を見た者たちをM奴隷にするスキルだった――。
――ところが。
突然、真っ黒な闇が生まれて男たちを包み込んだ。
「うお!」「なんだこれ!」「ちょっ――あひぃ!」
「え?」
「「「うわぁぁぁぁ!」」」
スキルを使ったニグリーナも目を丸くして驚いていた。
「ええっ!? ちょっと、なにこれ!?」
そして闇が晴れると、男たちは気持ちよさそうな笑顔を浮かべて失神していた。
――と。
上の方から声が降ってきた。
「ニグリーナ、やるじゃん。【快楽闇】を使えるようになったんだね」
上を見上げると、建物の三階ぐらいの店に若いイケメン男性がいた。
裸の上半身にジャケットだけ羽織っている。引き締まった細身の体が男から見てもエロい。
背中の小さな翼と、ズボンから出ているハート型の尻尾からしてインキュバスらしい。
別に壁に張り付いているのではなく、店のカウンターに座って酒を飲んでいた。
建物の中ではなく、大通りに面した外側にカウンター席がある。
下から見ると、建物の壁から突き出た椅子に座って足をぶらぶらさせていた。
イケメンは裸足に革靴だった。
どうやら空を飛べる魔族――羽を持つヴァンパイアやインキュバスを対象にしたお酒の飲めるバーらしい。
――横だけじゃなく上にも店があるのか。なんか魔界ってすごい。
ニグリーナが上を見上げて、うっとうしそうに顔をしかめる。
「あー、どうも解説ありがと。アタシの力じゃないけどね」
「その人間、勇者じゃなくて、君のエサ?」
「まあ、そんな感じ~」
「じゃあ、大丈夫そうだね。……魔界を楽しんでいきなよ、人間」
インキュバスのイケメンは笑みを浮かべてウインクしつつ、グラスを掲げて乾杯の挨拶をしてきた。
声までイケメンだし、前髪もサラサラだ。
一応、僕は頭を下げて礼に答えた。
彼はそこそこの実力者だったらしく、集まっていた魔族たちも納得して離れていった。
てか、淫魔は視線を集めたら経験値が入るんだっけ。
今ので大量に稼いでそう。
だから常日頃から目立つ場所でお酒を飲んでいるのかもしれない。
ニグリーナが大股で歩き出す。
「さあて、先に行こうじゃん」
「う、うん」
失神した男たちは放置されたまま、誰も見向きもしない。
――魔界って、こんな感じなのかな。
魔界の常識がわからず、僕とシャロンはニグリーナの後を静かについていった。
中盤以降をちょっと書きあぐねているので、これからは毎日一話更新です。すみません。
あと、スマホじゃ読みにくいっぽいので、全話修正したいと思います、すいません。




