39.今後の話し合い
本日3話目。
王国の晴れた朝。
爽やかな朝日が石造りの街並みを照らす。
シャツにジャケットを着た僕は、王城の執務室にいた。
隣には青いドレスを着たシャロンが立っている。
そして正面には、窓を背にした頑丈な執務机に、白い振り袖を着たアーデルハイトが座っていた。
すでにフォルクハルトの死去は発表されていた。傍系王女アーデルハイトの女王就任も通達されている。
アーデルが目を閉じたまま頬笑みを浮かべる。
「おはようございます、ノイスさま、シャロン王女さま」
「おはよう。元気になったみたいだね」「おはようございます。安心しましたわ」
「お気遣いありがとうございます。ですがノイスさま。それどころではありません」
「どうしたの?」
「現状を把握しましたが、事態は最悪なようでございます」
「というと?」
「理由は二つ。一つは、エルフ国ですが、周辺国――獣人国と諸島連合国――とも秘密協定を結んでいるようです」
「つまり、エルフ国が動いたら周辺国も同調して動くと。むしろエルフ国が矢面に立って騒ぐことで、背後の海洋国や獣人国の戦闘動員を隠してるんだね」
「はい、一刻の猶予もなりません」
「具体的にはどれぐらい?」
「五日でございます、ノイスさま」
「五日か……ちょっと待って――【本化解除】ニグリーナ」
背負い袋から素早く本を取り出した。
煙とともにニグリーナが現れる。
マントに覆われただけのスレンダーな裸を晒して、眠たげに目をこすっている。
「こーんな朝日の中に出さないでよ~。日焼けしちゃうじゃーん」
「ごめん。話を聞いたらすぐに戻すから」
「話って、なに?」
「魔界は横切るのって何日ぐらいかかる?」
「歩きだったら数ヵ月はかかると思うけどー。ゲート使えばすぐじゃん? 手続きとか入れても1日あればいけるはず~」
「そっか、ありがと。【本化】ニグリーナ」
「あーい」
ニグリーナが本の中に吸い込まれた。
僕は横に立つシャロンを見る。
「ねえ、妖精国からドラゴニアまで何日ぐらい?」
「最速で飛べば一日で可能かと。ただ、人を乗せてうまく飛べるかどうか……」
「まあ、その辺は後で考えよう。魔界まで行くのに一日、魔界を抜けるのに一日、妖精国を一日。ドラゴニアへ一日。速攻ドラゴニアを取り戻しても、残り一日。帰ってくる前にこの国は滅びてるね。シャロンだけでドラゴニアからこの国まで全速力で飛んだら、何日ぐらい?」
「私は十日はかかるかと。音を置き去りにして飛べるスカイドラゴンたちなら、雲の上の風に乗ってドラゴニアからこの国まで一日で来れますが、人も物も載せられませんね」
「ヤバいね。往復する時間がない。スカイドラゴンを派遣してドラゴニアとの友好関係を演出するしかないかな?」
「ドラゴニア奪還は延期して、国を守ってはいかがでしょう?」
「それはそれで……三正面と戦うのに駒が足りない。アーデルは国をまとめるから前線には出られず、僕とミーニャだけでは二つの国しか抑えられない。もう一人――できれば序列一桁の暗殺騎士がいればなぁ」
アーデルが目を閉じた深刻な顔で言う。
「そこで最悪の理由の二つ目でございます。国外逃亡した暗殺騎士が他国に召し抱えられたとの情報があります」
「うわー、そうきたかー。恨んでる相手でも力になるなら取り込むって。一番最悪だね。それがもし序列3位のローランドや9位のナイン・アンカーだと、スカイドラゴンだけ送り込んでも皆殺しにされるよ。序列一桁を封じるには僕かミーニャがいないと」
僕は頭に手を当てて考え込んだ。
――暗殺騎士が各地に散らばってるのはまずいなぁ。
特に序列一桁は強い。序列二桁はチームを組んで任務にあたるのに対し、たった一人であらゆる任務を遂行できると認められた者だけが一桁を与えられる。
そのため序列一桁の椅子は、全部は埋まってない。123679の六人。今ここに127の三人がいる。
僕はシャロンを見ながら考えつつ言う。
「もう一度、暗殺騎士は集めた方がいいね。この国じゃなく、ドラゴニアの名のもとに再建しよう」
「ええっ! よろしいのですか!?」
「たぶん世界のためにもそれがいい。正しいドラゴンの王族を守るためにも」
「なぜでしょう?」
「シャロンをペットにしてわかったんだけど。どれだけバハムートの血筋が強くとも、王族となると【国家運営】や【礼儀作法】などの一般スキルを取ってしまうから、固有スキルだけを取り続けたドラゴンに比べて弱くなる。だから負けたんだ。暗殺騎士団がそんな王族を守護する。世界征服に乗り出すドラゴンが国を奪わないように」
「なるほど……それがいいかもしれませんね……よろしく願いします、ノイスさま」
「うん。ドラゴニア女王直属の暗殺騎士団として頑張るよ」
「ありがとうございます……でもまずは取り返さないと。どうされますか?」
シャロンが首をかしげて疑問を口にした。青い髪がさらっと流れる。
僕はアーデルを見た。
「エルフ国が先頭に立って行動するって言ったよね」
「はい、そのとおりでございます」
「でも逆に言えば、エルフ国を抑えれば他国も表立っては動かないってことでもある……だからアーデル、ミーニャを使って戦争開始を延期させることはできないかな? 最終会談を願い出て、そこに連れて行くんだ」
「なるほど……さすがノイスさま」
「名乗りも新しいものに変えておけば、相手も二の足踏むかもね」
「よいお考えでございます。さぞ楽しいことになりましょう」
アーデルが口元に手を当てて、くすっと笑った。
僕は金貨を一枚取り出すと【居声盗識】を付与してアーデルに渡す。
「じゃあ、これで時々報告して」
「はい、おおせのままに」
さらに本からミーニャを出す。
眠たそうに目をこするミーニャ。赤いスカートに白いブラウスを着ている。
「なぁに?」
「ミーニャはアーデルの傍にいて守ってあげて」
「守らなくても強い」
「序列二位のミーニャが傍にいるってことが大事なんだ。対外的に」
ミーニャがこくっと小さくうなずく。
「よくわからないけど、わかった。連絡は?」
「アーデルに渡したよ。しばらくアーデルに世話してもらってね」
「わかった」
尻尾をゆらゆらさせてあくびをした。
そして堂々とアーデルの執務机の上に載って丸くなって寝始めた。卓上にあった書類がくしゃくしゃになる。
アーデルが華奢な肩をすくめて驚いていた。
――ほんとにわかってるのか、いまいち不安だった。
それから僕はシャロンを見た。
「じゃあ、行こうか」
「はいっ、ノイスさま!」
部屋を出ようとすると、後ろからアーデルの「あっ」と寂しそうな声が響いた。
入り口で振り返って尋ねる。
「どうかした?」
「もう行ってしまわれるのでしょうか? 朝食の用意が……」
「うん、ごめんね。一刻も早く動いた方がいいから」
「はい、わかりました。アーデルは、もう少しノイスさまのお傍にいとうございましたが……いってらっしゃいませ」
アーデルは目を閉じた顔で寂しそうに微笑んだ。
僕は少し困りながら頭を掻いた。
「うん、いってくる。頼んだよ」
「はいっ」
僕とシャロンはミーニャを残して執務室を出た。
そして城の一階へと向かった。
次話で1章終わり。夜更新。




