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35.史上最強の理由

本日2話更新。1話目。


 夜の王都。

 街の中央にある城に僕とミーニャは忍び込んだ。


 四方に高い尖塔を持つ、石造りの城。

 階層だけなら7階建てだが、一つの階層がとても高い。

 廊下や部屋も広く、敷地も大きい。



 僕らは夜の闇に紛れて堀と兵を超えて敷地に入った。

 庭を駆け抜けて城の裏手にある厨房から中へと侵入する。


 見張りの兵士はところどころに立っていたが、暗殺スキル【隠密】を使用している僕とミーニャを認識することはできなかった。



 地下一階に降りると廊下を進んだ。石造りの壁と床。薄暗くてじめじめしている。

 壁には等間隔で魔法の燭台が光っていた。

「極大――気配探知」


 僕の感覚が研ぎ澄まされて、地下のどこに人がいるのかわかった。

 地下にある錬兵場に多くの生命反応。


 それを見下ろす位置に二人いた。

 そして錬兵場が近づくにつれて、剣撃の音が響いてきた。

 僕たちは今、錬兵場をぐるっと囲む廊下を走っている。


「子供たちを戦わせてるって本当だったんだ。いったい何の意味が?」


「どうする?」


「ミーニャは【透明存在】を使えるよね?」


「ん、使える」


「じゃあ、それを使いつつ、開いてる扉があれば、そこから入ろう」


「わかった」



 しかし一か所目、二か所目の扉は閉じられていた。

 それどころか外から板がバツ印に打ち付けられていた。

 まるで中から開けられないように。


 そして廊下の角を曲がって三か所目の扉へ向かった時、前を歩く兵士を見つけた。

 袋と鍋を積んだカートを押している。食事のようだ。


 僕はミーニャに目くばせすると、彼女は無言で頷いた。



 兵士の跡を付けて廊下を歩く。

 兵士は両開きの大きな扉の前に来た。


 が――僕の隠密行動はここまでだった。



 次の瞬間、兵士が扉を開けるより先に内側から開いた。

 血まみれの子供が一人、扉の隙間からふらふらになりながら出てくる。

 明るい茶髪の男の子、ヨハンだった。 


「助け……て……」


「なんだこいつ、出てくるなよ。邪魔だ」


 兵士がヨハンを蹴り飛ばそうとした。

 それより早く、僕の体は動いていた。

 瞬時に兵士の後ろに立ってナイフを振り抜く。


「やめろ!」


 ザンッ!

 僕のナイフが兵士の足を無造作に切る。


「うぎゃぁ!」

 兵士はその場に崩れ落ちて、血の噴き出る足を手で押さえてのたうち回った。


 ――この程度でも暗殺者のパッシブスキルが発動していれば死んでしまう。【永続流血】や【影呪病発】など。

 でも、僕は躊躇しなかった。



 ヨハンが怪我だらけの顔で僕を見て、ほんの少し微笑んだ。

「ノイス、さん……」


「ヨハン!」

 前のめりに倒れるヨハンを、僕は滑り込むようにして腕で抱き止めた。

 枯れ枝のようにやせ細った体だった。


「妹を……エルザを、助けて……お願い」

 自身がこんな状態になってもまだ妹を心配する兄に、狂おしいほどに心が痛んだ。



 僕は手を最速で動かして、背負い袋から本を抜き出した。

「うん、任せて! だから――【本化解除ブックアウト】シャロン、ラン、ニグリーナ! ――テイマースキル発動【応援エール】シャロン、回復魔法だ! ヨハンを!」


 煙を発して三人が現れた。急いでシャロンにヨハンを手渡す。

 シャロンは真剣な顔でヨハンを腕に抱く。


「はいっ――【癒しの清水アクアヒーリング】!」


 ヨハンが急速に治っていく。

 血で汚れた顔に、安らぎが戻る。そのまま意識を失ったようだった。



 その時、錬兵場の中から鋭い声がした。

「そこにいるのは誰です!」


 国王フォルクハルトの声だ。


 僕の頭に血が上った。作戦なんて吹き飛んでいた。

 ただ歯ぎしりしつつ、怒りに任せて扉を開く。



 だけど、錬兵場へ一歩踏み込んだとたん、息を詰まらせた。

「な、なんだよ、これ……」


 広い錬兵場は血まみれになっていた。

 壁際や床の血だまりの中に、子供たちが何十人も倒れている。


 広間の中央にはまだ立っている子供たちが、武器を構えて戦っていた。

 みんな、泣きながら戦っていた。



 僕は少し高くなった壇上にいるフォルクハルトを睨んで叫んだ。

「なにを……何をやってるんだ、これは……っ!」


「誰です?」


「誰だっていい!」


「――まあ、侵入者はちょうどいい練習台になるかもしれませんね」

 フォルクハルトが僕たちを見て呟いた。


 そんなことも気にせず、僕は叫んだ。もう身バレの危険なんて気にしなった。

「答えろ、フォルクハルト! 何をやっているんだ! 子供たちを殺し合わせて、楽しんでいるのか!」


 フォルクハルトの後ろにいる騎士風の男が身じろぎした。

 どこか遠くで兵士たちの駆ける足音が響く。

 何らかの方法で通報したらしい。



 するとフォルクハルトはゆうゆうと話し始めた。時間稼ぎでもするかのように。

「楽しんでいるなんて、言いがかりもはなはだしい。この子たちは国の新しい力となるのです。暗殺者としてね」


「暗殺者!? こんな方法で!?」


「古文書を解読して見つけた、確かな方法ですよ。百人の子供たちを殺し合わせて、生き残った者が暗殺者の素質があると。こうやって力を増やしていくのです。捕らえたアーデルが前王の育成法を話さなかったのでね」


 僕はあまりのバカげた発言に、頭に血が上った。

「ばかな! 暗殺者は天職だぞ! 一般スキルで似たような能力を補ったって、限界がある!」


「ばか!? バカとは何ですか! 私の理想のために、国を守る力を手に入れようとして何が悪いのです! だいたい暗殺者集団を作るぐらい前王もやっていたではありませんか!」


「だからってこんな無茶なやり方はないだろ! 暗殺者が天職じゃない子供まで集めて戦わせるなんて! だいだい天職が暗殺者でも、育て方はそれぞれ違うんだ! スキルツリーを良く分析して、スキルボーナスポイントの割り振りや優先的に取るスキルを『効率的』に考えないと最強にはなれないんだっ! ――暗殺騎士団が最強になれたのも、前国王が徹底的に効率を追求してボーナスポイントを割り振って育てたから――!」



「スキルツリー? スキルボーナスポイント? ふっ、意味不明な発言ですね」


「は? こんなこと常識――え?」


 周りを見るとみんな首をかしげていた。シャロンや敵の騎士ですら。

 当然だと理解しているのは、僕の横にいて澄ました顔で立つミーニャだけだった。


「え……そんな……ひょっとして、みんなが最終奥義に関係ない一般スキル取るのって、スキルツリーやスキルの仕組みを知らないから……?」


「なにをぶつぶつ言っているのです。さあ、邪魔しないでもらいましょうか――お前たち、何をしているのです? さっさと侵入者を殺しなさい」


 子供たちが戦いをやめると剣やナイフを構えて僕らの方へ向かってきた。

 血まみれの身体と顔で、泣きながら歩いてくる。


 その痛ましい姿を見て、僕は奥歯を噛みしめた。


次話は夜更新。

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