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33.王都再訪

本日2話更新。1話目。


 大陸の西側にあるグランツフェズン王国。


 その王都クラークは国の中央より西側、田園地帯の真ん中にあった。

 大河の傍に分厚い壁を持った街が広がっている。


 僕とミーニャは最速で駆けた。

 日が暮れて星空が広がる頃、王都に着いた。大きな街が次第に近づいてくる。

 ――もう戻ってくることはないと思っていたのに。


 

 当然だけど、街を囲む高くて分厚い街壁にある大きな門は、すでに閉じられていた。

 門の開く明朝までは王都に入れない。


 僕は隣を走る白いブラウスを着たミーニャに呼びかける。


「壁は飛び越せる?」


「ん、ちょっと高い」


「わかった」


 僕は先に走って壁まで来ると、壁に背を付けて両手を重ねて前に出した。



 ミーニャは大胆に太ももまで見せて足を上げつつ、僕の両手のひらに足を置いた。

 僕は両手を思いっきり振り上げて、ミーニャを上方へ投げる。


「にゃ」


 ミーニャは赤いスカートを翻しつつ、建物数階分はある街壁の上まで飛んだ。

 壁の端に片手を突きつつ、ひらりと壁を乗り越える。

 すぐに、どす、ぼこっと鈍い音が響いてきた。



 僕は暗殺スキル【無影瞬歩シャドウスキップ】を発動。

 壁の小さなへこみにできた影を利用して上に登った。


 上に出ると、ミーニャが何を殴ったか、わかった。

 兵士が二人、床に伸びていた。近くには酒瓶が転がっている。


「夜警かな。仕事さぼってたみたいだけど」


「おしおき」

 ミーニャが黒い尻尾を揺らしつつ淡々と言った。


 僕はスチールビーコンの場所を探る。

 王都のはずれ、スラム街地区にあるようだった。


「ミーニャ、こっち」


「ん」


 僕が夜の闇に紛れるように無音で走り出すと、ミーニャも足音を殺して素早く後をついてきた。


       ◇  ◇  ◇


 夜のスラム街。

 明かりのほとんどない薄汚れた通りを、僕とミーニャは駆け抜けた。

 そして明かりのついた一軒のぼろ小屋まで来る。

 廃屋のようで、窓は破れて屋根には穴が開いていた。


 気配探知で中を探った後、エルザロッテしかいないのを確認して中へ入った。

 一部屋しかない小屋の中。


 部屋の隅に、積み重ねられたぼろきれにやせ細った少女が寝ていた。

 胸の前で1枚の金貨を左手で、ぎゅっと握り締めている。



 僕は駆け寄りつつエルザの身体を観察する。右手が焦げてただれていた。

「エルザ! 大丈夫!? って、ひどい火傷だ! ――【本化解除ブックアウト】シャロン、ラン、ニグリーナ」


 本から煙が出て三人が現れた。

「まあ、なんてひどい」「きゅい」「あー、よく寝た~」


「シャロン、回復魔法使えたよね? 治してあげて欲しい」


「わかりました、ノイスさま」

 シャロンがエルザの傍に座って手を当てた。


「【癒しの清水アクアヒーリング】――これは、難しそうですわ……」


 手のひらから青色の淡い光が発せられて、火傷した右手を包む。

 しかし、炭になるほど焼けた手は、普通の治癒魔法では治らなさそうだった。


「これ、いくらなんでも無理っしょ」「きゅーい……」

 ニグリーナは肩をすくめ、子供姿のランは悲し気に眉を寄せて鳴いた。


 ――僕もダメかな、と悲しく思った。

 せっかく自分の意思で、暗殺スキルを使って助けた子なのに、今回は助けてやれないなんて……あ!



 けれどもすぐに、ピンッと閃く。

「シャロン! 待って、一度止めて!」


「はい」


 僕はシャロンの肩に手を置いて唱える。

「テイマースキル発動【応援エール】――がんばれ、シャロン!」


「なるほど! いきます――【癒しの清水アクアヒーリング】!」


 先ほどよりも強い光が発せられた。ぼろ小屋の中が隅々まで青い光に照らされる。

 エルザの焼け落ちかけだった右手が、肉が盛り上がり皮膚が再生し、すべすべした白い肌に覆われる。

 見る見るうちに回復していく。


 そしてシャロンが手を離すと、火傷は完全に治っていた。

 

 見ていたニグリーナが目を丸くする。

「うっそでしょっ! 聖女級の回復じゃん!」「きゅいっ!」


「さすがノイスさまですわっ! ここまで私の力が底上げされるとは思いませんでしたっ」


「うまくいってよかったよ。ありがとうシャロン」

 僕は心底、ほっとして言った。



 すると、エルザが目を開けて起き上がった。

 右腕を撫でて驚く。


「手が……あ! ノイスさん!」


「エルザ、大丈夫だった?」


「治してくれてありがとうございます! もう、もうダメかと思いました……っ」

 僕を見上げて笑顔になるけど、その瞳には涙が浮かんでいた。


「いったい何があったの? ヨハンは?」


「ああ! お兄ちゃんが! ――実は、王都で仕事を探したら、とても儲かる仕事があったんです。仕事内容も簡単で、お城で働くだけでたくさんもらえるって」


「お城……それで?」


「それで行ったら、最初は戦い方を教えられて……儀典用の子供兵士隊でも作るのかなって、みんなで話し合ってて……でも昨日」


「うん」


「いきなり殺しあえって」


「ええっ!」


「まあ、なんと恐ろしい!」

 シャロンが口を押えて驚きの声を上げる。


 僕も思わず尋ねていた。

「なんのために!?」


「わかりません。怖かったし逃げようとしたけど、隷属魔法で逃げられなくて。それでお兄ちゃんが戦うふりして私の手に油をかけて燃やして。隷属紋を消して、ゴミ袋に入れて逃がしてくれたんです……でも、お兄ちゃんが……」

 エルザが幼い顔をしかめて、泣きそうになる。


 僕はエルザの頭を撫でた。茶髪が柔らかく揺れる。

「よく頑張ったね。僕が来たから、もう大丈夫。あとは任せて」


「はい……ノイスさん。ありがとう」

 エルザは涙を散らして頭を下げる。


 ――子供たちを泣かせるなんて許せない。

 しかも僕が一度助けた子供たちを……。



 僕はシャロンたちを振り返った。

「なんの儀式かはわからないけど、新国王は許せない行為をおこなってるみたいだ。だから子供たちを全員助けたい」


「はい、当然です」「きゅい!」「ん、わかった」


 しかしニグリーナが胸の前で腕組みして顔をしかめる。

「でもさぁ。それ、完全に国家反逆罪にならない? 素直に子供を渡すとは思えないしぃ」


「わかってる。ニグリーナもシャロンもそれぞれの立場がある。だから無理に手伝ってとは言わない。これはたぶん僕とミーニャの問題だから」


「にゃ」

 ミーニャが、こくっと小さくうなずいた。



 しかしシャロンが決意を秘めた、きりっとした表情で前に出る。青い髪が美しく揺れた。

「ノイスさま。ドラゴニアを救っていただくのに、私が何もしないわけにはまいりません。私ことシャロンは、ノイスさまにどこまでもついていきます」


「ありがとう、シャロン」


「きゅい!」

 ランも目を輝かせて、ぐっと小さな拳を握る。やる気みたいだ。


 ニグリーナは桃色の髪をぽりぽりと掻きつつ言う。

「アタシも伝説のサキュバスにしてもらうまでは、手伝わないわけにはいかないよね~」


「みんなありがとう――じゃあ、行こう! エルザは隠れててね」


「はいっ、ノイスさん! どうかお兄ちゃんをお願いしますっ」

 僕らが小屋を出るまで、エルザは腰を折って深くお辞儀していた。


 ――絶対期待に応えなきゃ。

 だいたい一度助けて、あとは知らんぷりなんてできない。もうこの子たちはどこまでも助ける!

 この子たちのためにも、自分のためにも!


 僕は奥歯を噛みしめつつ決意すると、夜の王都を駆けて行った。


次話は夕方更新。

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